第54話「偽物」




「じゃじゃーん! 安藤くん見て見てー今日の学食は期間限定の黒毛和牛を使ったビーフカレーが800円で食べれるんだよ! だから、頼んじゃった。安藤くんは何にしたのー?」

「130円のカップ麺……」


(うわ、ショボ……)


「へー、安藤くんってお昼はあんまり食べないんだねー」

「まぁ……」


(ちげぇえよ! 普段、女子と二人で飯なんか食わないから緊張して何を食べたらいいか分からなかっただけだよ! てか、何で『ぼっち』の俺が桃井さんと昼ごはんを一緒に食べているんだ……?)


「えーと……桃井さん、何か俺に聞きたいことあるんじゃないの? 朝倉さん関係?」

「へ!? え、な……何で? いやだなー。それは違うよー」


(安藤くん、私がサクラの事で話があるって気付いてる? やっぱり、安藤くんってただの『ぼっち』じゃないよね……)


(いやいや、それしかないでしょ? だって、朝倉さん関係以外に桃井さんが俺に話しかけてくる理由なんてあるわけが無いし……でも、何の話だろう?

『てめーアタシの親友のサクラにちょっかいかけてんじゃねえぞ!』

 みたいな忠告でもしにきたのか?)


「じゃあ、何で俺をお昼に誘ったの?」

「うーんとね。ちょっと、安藤くんと話したいなーって思ったんだけど……安藤くん、昨日の配役を決めるのに私をナレーションに選んだでしょー。あれって……何で私を『ナレーション』に選んだの?」


(実はこれも気になってたんだよねー確かに、私は役をもらっていなかったけど、私は別にナレーションなんて面倒な役を押し付けられるようなキャラは演じてはいないしー)


(……桃井さん、なんでこんな分かりきった事を聞いてくるんだろう? そんなの――)



「え、だって桃井さん、周りの『空気を読む』のは得意でしょ?」

「ブゲハッ!」


(うわっ! 汚! 桃井さんカレー噴出しやがった!)


(……かくぁっ!? この『ネクラぼっち』今なんて言った!?)


「あ、安藤くん……それは一体どういう……意味かなー? あははー」

「いや、桃井さんってわざわざ他の子の趣味に話を合わせたり、告白とかして来そうな男子がいたら自然と距離を取ったり、逆にハブにされそうな女子がいたら自然とグループの仲間にくわえたり、いろいろとクラスの空気を壊さないように行動してるでしょ? だから、桃井さんみたいに『場の空気を読む』のが得意な人なら『ナレーション』も上手くできるかなーって思ったんだけど……」

「へ、へー……」


(ヤバイ……え? もしかして、安藤くんって私の本性気付いてる?)


「…………?」


(あれ? なんか……桃井さんの顔が引きつってる? あ! もしかして、これって言ったらマズかったのか!)


「ご、ゴメン、桃井さん! 別に俺は桃井さんが『キャラを作ってる』とか『本性を隠してる』って言いたいわけじゃないんだよ? ただ、桃井さんはそういうのが上手いからって言いたいだけで――ね?」


(こ、これでフォローできたよな?)


「へーそう……それはありがとうねぇー」


(うん、ダメだわこれ。私の本性、何故か完全にバレテーラ……)


「ち、因みに……安藤くんは、いつから私が……その『キャラを作ってる』って気付いてたの?」


(安藤くんと一緒のクラスになったのは二年生が始めてだから……なんてこと! クラスが一緒になってまだ二ヶ月しかたってないのに、もう私の本性に気づいたって言う――)


「え、最初からだけど?」

「…………」チーン


(そうか……二年生に進級した時点でバレてたのかー)


(ぼっちは話す友達なんて幻想は持ち合わせていないからその分、周りの人を観察しちゃう生き物なのだ……特に桃井さんはおっぱいも大きいし、朝倉さんという学校一の美少女と一緒に行動することも多くて、桃井さん自身もおっぱいが大きくて目立つ美少女だし、学校の女子の中でもおっぱいが大きいから目立つんだよね。

 だから、普通に一年の時から廊下とかですれ違うたびに『あ、この人すげー周りに合わせてキャラ作ってるなー』って思ってたんだよね)


「そっかーバレてたかー……じゃあ、もう安藤くんにはキャラを作っても仕方ないね」

「え」


(何それどう言うこと!? つまり、俺みたいな『ぼっち』相手に売る愛想なんか持ち合わせてねーよって意味か!?)


(安藤くん、めちゃくちゃ察しがいいじゃん……もしかして私よりも頭が回る? だとしたサクラの好意にも気付いてるんじゃないの? ちょっとそれヤバイじゃん!)


「もう、単刀直入に聞くけど、安藤くんってサクラが『好き』なの?」

「ブゲハッ!」


(うわっ! 汚! 安藤くん、カップ麺噴出した!)


(……あぱっ!? この『爆乳ポニーテール』今なんて言った!?)


「ももも、桃井さん、何言ってるのさ!? 俺は別に朝倉さんのことなんかなんとも思ってないんだからね!」

「へーそうなんだー」


(何? このワザとらしすぎる照れ隠しは? ワザとらしすぎて逆に嘘っぽいし……やっぱり、安藤くんの考え読めないよー)


「そそ、それに、もし俺が朝倉さんに変な感情を抱いていたとしても……あの学校一の美少女である朝倉さんが俺なんかの事を『友達』以上に見てくれるなんて、おこがましい考えはできないよ……アハハ」

「え、何言ってるの?」


(……は、ちょっと待って)


「安藤くん……もしかして、だけど……安藤くんはサクラの気持ちに気付いてないの?」

「は? 桃井さん、何言っているの? そんなの気付いてるに決まってるじゃん」

「あ、やっぱり――」

「朝倉さんが俺なんかのことを大事な『友達』だと思ってくれていることは、もちろん気付いているさ。でも、大丈夫! だからと言ってそれで朝倉さんが俺を『好き』だと勘違いするほど俺もそこまで『ぼっち』をこじらせていないから!」

「…………」


(なるほど、やっと分かった……私が安藤くんの事を読めなかった原因。

 安藤くんは私が思っている以上に『自己評価』が低いんだ。

 てか、私はそんな『ぼっち』相手に本性を見破られたのかー……)


「安藤くん、ありがとう……なんか、いままでずっと悩んでた私がバカみたいだよ……」

「桃井さん、何で泣いてるの?」


(だって、私の今までの苦労っていうか悩みって……つまり、全部私の考え過ぎってことでしょ? あははー。マジで泣けるー)


「も、桃井さん? なんか困ってるなら相談くらい『ぼっち』の俺でも乗るよ?」

「ありがとうねー。大丈夫……なんか、いままでずっと回りにあわせて『キャラ』を作っていたのがいけなかったのかなーって思っただけだから、あははー……はぁ」


(薄々分かってはいた。いつも周りの空気を読んでそれに合わせるだけの私は、たとえクラスの人気者でもそれは親友のサクラと違って『偽物』に過ぎない)


「所詮、本性を隠して空気を読むだけで築き上げた『作ったキャラ』なんて、私の『偽物』にすぎないんだよねー」

「いや、それは違うでしょ」

「え?」


(安藤くん……何が違うの? だって、私のキャラは偽物――)


「だって、桃井さんは俺と違って多くの『友達』がいるじゃん。それは確かに、桃井さんが本性を隠した『キャラ』で作った友達かもしれないいけど、だからってその『友達』が偽物になるなんてことはないでしょ? なら、その桃井さんの『明るいクラスメイトキャラ』も桃井さんの一部じゃないの?

 そもそも、俺は桃井さんのキャラを作ってまで周りの空気を読むのって『すげー』って思うよ。だって、わざわざ自分を演じてまで場の空気を読もうとする? 俺は無理だね……まぁ、だから俺は『ぼっち』なんだけど……でも、逆説的に考えれば自分を演じてまで空気を読んで行動する桃井さんはすごいんだよ。だから、他の人も桃井さんのそのキャラに惹かれて友達になるんでしょう? なら、そのキャラを演じてる『努力』を本物って言わないでなんていうのさ。

 だって、困った状況で場の空気を読んで助けてくれる人って……最高にいい人じゃん」

「…………」


(いま、やっと気づいた……なるほど、サクラは安藤くんのこういう所に惹かれたんだ…………まさか、私の演技に気づいて、それを『最高にいい人』なんて言う人がいるとは思わなかった……)


「あははー! 安藤くんありがとねー。なんか元気出たよー! じゃ、また教室で!」

「あ、うん……」


(桃井さん、一体何だったんだろう?)




「なるほどー、安藤くんはそういう人だったのかー」


(安藤くんはサクラと一緒で純粋なんだ。でも、サクラと違って……周りのことをすごいよく見てる。だけど、もう少し安藤くんは自分に自信を持った方がいいよねー。なんか、話して見てサクラとすっごーーーーいすれ違っているところもそれが原因だと思うし……あ、そうか!)


「…………もしもし、委員長? うん、手を組まないかなーてね?」





 その時の朝倉さん



「もう! 安藤くんは何処に行ったのよぉおおおおおおおおおお! お昼はコンビニに買いに行くって言ってたから下駄箱で待ち伏せしてるのに一向に現れないじゃない!」 くきゅぅ~~








【おまけss】「一年前」



「おはよう。桃井さん」

「あ、おはよー♪ 確か、朝倉さんだよね?」

「ええ、高校に入学して隣の席が桃井さんみたいに話しやすい人で良かったわ。実は私、これでも高校に入学して友達ができるか不安だったのよ。ウフフ~」

「えー、なにそれー? 朝倉さんほど美人だったらそんな心配する必要ないでしょー? それを言うならむしろ私の方が友達できるか不安だよー」

「ウフフ、ありがとう。でも、私は桃井さんも十分に魅力的だと思うわ」

「えーそうかな? えへへーありがとうね。朝倉さん」

「私こそ、これから仲良くしましょう。桃井さん」

「うん!」


(良かった。高校に進学して少し不安もあったけど、桃井さんとはいいお友達になれそうね♪)


(……何、コイツ? 美人で人柄が良くてクラスでも早々に人気が出始めてる癖に『不安』とか……しかも、この様子だと裏表無く素で言ってる感じだよねー……私、この子キライだなー)


「ウフフ♪」

「あははー」




「…………」 ← 安藤くん


(ヤベ! あのポニーテールすげえ巨乳!!)









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