第53話「役割」

翌朝



「桃井さん! おはよう!」

「おはようー」

「ねぇ、昨日のキヌタクのドラマ見た?」


 もちろん、だってこの子はイケメン俳優が好きだから、見てないと話が合わせられない。


「うん、見たよー。すっごいカッコよかったー」

「でしょ! でしょ、でしょ? もーーう、桃井さんなら絶対に分かってくれると思ってたんだから!」


 この時に気をつけなければいけないのは『面白かった』ではなく『カッコ良かった』と言うこと、何故ならこの子はドラマを見ているのではなく、そのドラマに出てくる俳優の話がしたいんだから。


「えへへ~~私の方こそ、あんなドラマがやってるって教えてくれてありがとねー」

「うん! また良いドラマあったら教えるね。桃井さん!」

「うん、よろしくねー」



 休み時間



「桃井さん、ねぇ、聞いてよ!」

「え、私? 何ー?」

「俺ね! 今度の日曜日にやる野球部の練習試合でレギュラーに選ばれたんだ!」

「えーなにそれ! すごーい!」


 この男の子は多分、私に気がある。でも、この流れはマズい……


「そ、それでさ……良かったらなんだけど――」

「桃井さーい! おーい! 桃井さーん!」


 この五月蝿い声は山田? よし、チャンス。


「あー、山田くんだ! 何?」

「――って、はぁ! 山田おま!」

「ねぇ、ねぇ! 今度の日曜に合コンするんだけど、桃井さんも行こうよ!」

「うぉおおおい! やや、山田ァアアア! 何、桃井さんを合コンなんかに誘ってんだ! 桃井さんは俺が先に――」


「あ、ごっめーん! 今度の日曜日は妹と遊ぶ約束してるんだ……」


「…………」

「何だよ~~了解、それじゃ仕方ないな!」

「うん、ゴメンねーあ、そうだ。それでさっきの話って何かな?」

「あ、う、うん……いや、いいよ。俺の話はまた今度にするわ……」

「うん、分かった。また今度ねー」


 ま、その今度がいつ来るかはわからないけど……



 私は空気を読むのが得意だ。


 それは、昔からそうだった。周りの人間関係を気にし、誰に対しても『明るいクラスメイト』というキャラを演じて自分の周りの空気を読み、その場の空気というのを壊さないように行動してきた。


 上手いバランスで保っている人間関係にヒビが入らないように適切な距離感を取りながらクラスにトラブルが起きないように気を配る。それが私という人間の『役割』


 このクラスには委員長という私と似たようなタイプの子がいるけど、彼女は私と違ってこのクラスを『支配』しようとしている。そんな委員長の行動は少しクラスの輪を乱す可能性があるから少し注意はしたけど……)


「今ではその委員長より気になる存在がいるんだよねー」


 安藤くん……何故かいままでクラスの中で『ぼっち』だった彼がここ最近になって急に私の『親友』のサクラとやけに親しくなってる……それ自体はなんの問題もないように見えるけど、二人の立場が問題だ。


 一人は学校カースト外の『ぼっち』


 もう一人は学校一の『美少女』


 こんな学校カースト間逆の二人が親しくして校内の人間関係が荒れないわけが無い。あの二人が仲良くするようになって立ち始めた生徒の噂話を私が影でコントロールして騒ぎ立てないようにするのにどれだけ苦労したか……


「まぁ、それも結局上手くいかなかったんだよねー」


 結局、その苦労も何処かの『バカ』が騒ぎ立てた所為で一気に広がり一度だけ大きな『事件』となった。


「あの時の噂を沈静化させるのが一番つかれたよー」


 あの時の騒ぎを広がらないようにする為におしゃべりで噂好きな友達に偽の噂を流したり、影響力の強い男子や女子を味方に付けたりとね……


「そもそも、何で私がこんな苦労をしてまで二人の噂を広めないようにしているのかー」


 まぁ、そんなの分かっている。サクラが私の親友だからだ。

 私にできることは空気を読むことだけ、だから私は周りの空気を読んでなるべくサクラに危害が起きないように行動してきた。


「だって、何がいいのか分からないけど、サクラ絶対に安藤くんのことを意識してるんだもんー」


 だから、下手に手が出せない。委員長がなんとなく裏で糸を引いているのはわかっているんだけど、一番分からないのは……


「安藤くん、本人なんだよねー」


 いや、ホント彼なんなの? 場の空気や人を見るのが得意な私が見ても安藤くんって何を考えているのかサッパリ分からないんだよねー。サクラの事を好きなようにも見えるけど……それが、イマイチ確証が持てない……もしかしたら、サクラをもてあそんでいるんじゃないかと思うほどに彼の思考が読めない。


「だって『デート』したって聞いたら『友達宣言』するしーじゃあ、友達関係? って、思ったら劇の脚本は明らかに狙っているし……サクラが好意を寄せているのに気付いて焦らしているとしか思えないんだよねー」


 私だってサクラには幸せになってほしい。だから、両想いなら応援するけど……それでも、安藤くんがサクラを任せられる人だと信用できないとダメだ。



 っと、言うことで直接本人に話を聞いてみることにした。



「おーい、安藤くん! 今日のお昼……二人っきりで一緒にご飯食べよー?」

「…………は? も、桃井さん!?」







【おまけss】「積」



「朝倉さん……」

「何かしら……安藤くん」

「今積んでるラノベ……何冊?」

「…………五冊よ」

「俺も…………」


「「だよねーーっ!」」


「もーう! 何で今月は買わなきゃいけないラノベの発売が多すぎるのよ!」

「本当だよ! 何で二十日から、二十五日の間でこんなに『積みラノベ』が溜まっちゃうのさ! 十日から、十五日の間の発売ピークでもこんなに積まないよ!」

「いや、むしろ……私としては十日から、十五日の間で発売したラノベを消費するのに時間がかかって積んだ感じもあるわ」

「そういえば、確かに俺もCA文庫の新作を読み終えたの二十日過ぎだったな……因みに、朝倉さんはどんなラノベ積んでるの?」

「私が積んでるラノベは読もうと思っている順番だと……まず『落第絵師の英雄譚』を読んでから、その後に『美少年鑑定団』を読む予定ね」

「あ! その二つ俺も今積んでる。俺は逆に『美少年鑑定団』を先に読んで『落第絵師』はその次にしてるね」

「やっぱり、積んでるラノベ被ってたのね」

「まぁ、ここ最近は有名タイトルの新刊発売ラッシュだから被るのは当然だよね。もしかして……昨日発売した『アレ』の新刊も買って積んでる?」

「って……ことは安藤くんも?」


「「せーーの……『ようこそ握力至上主義の世界へ!』」」


「いいわよね~『よう握』! アニメも最高だったわ!」

「うんうん、世界握力選手権一位に輝いた握力、千トンの力を持つ『ふつう』の高校生の主人公が事故で原付に轢かれて、握力が全ての物理の世界に転生する話だよね」

「そうよ! 夏のサバイバル合宿でも主人公が『この世は筋肉が全てだ。プロテインは関係ない』って、ヒロインに言い切った所は感動したわね!」

「あれね~いいよね! ちなみに他にはどんなの積んでる?」

「後は新作ね『寿司ネタという概念が存在しない味気ない世界』の作者さんの新作を買ったわ」

「やっぱり! 朝倉さん、それ俺も買ったよ。もしかしたら、この流れ積んでる五冊まったく同じだったりする……」

「え、本当に……? じゃあ『いっせーの!』で最後の一冊言ってみる?」

「そうする?」


「「……いっせーの!」」


「『アキヤくんの収入理論』」

「『佐伯はんと、ひとつ傘の下』」


「「…………え?」」


「あ、安藤くん。そのラノベはどんな内容なの?」

「あ、ああ……『佐伯はんと、ひとつ傘の下』は春から一人暮らしする予定だった主人公がひょんな事から横綱の佐伯はんとの相合傘から離れなくなるのろいを受けてそれを解呪する物語だよ。朝倉さんのは?」

「え、ええ……『アキヤくんの収入理論』は自分の土地の空き家をアパートにして、独自のアパート収入理論で生活を素晴らしきものとする主人公にニートの居候ヒロインが転がり込んでくる話よ」

「へぇ~~朝倉さんの買ったラノベ面白そうだね……」

「私も、安藤くんの買ったラノベ気になるわ……

 ねぇ、良かったら読み終わった後、お互いに交換してみないかしら?」

「いいね! じゃあ、今積んでるのが読み終わったら持ってくるよ」

「ええ、私もそうするわ♪」


 キーンコーン~カァーコ~ン♪


「さて、そろそろ先生が来るわね。安藤くん」

「そうだね。朝倉さん」

「…………」

「…………」


((って……なんか、積みラノベ増えてる!?))


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