第52話「ナレーション」




 イン・チョー役 私


 ヤ・マーダ役 山田


 学院長役   吉田くん


 その他モブ  沢渡くん





「メイン以外の配役はこんなところね……

 じゃあ、ついにメインキャストの配役を決めるわよ!」


『ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


(しかし、何故だか不思議と違和感の無いキャストに収まったわね……何んだか運命に導かれたような気分だわ)


「じゃあ、タイトルにもなってる『ジュリエット』役だけど……

 朝倉さんでいいかしら?」


『いいでーす!』

 

「立候補制じゃないの!?」

「何よ……安藤くん? 意見があるならちゃんと手を上げてよね? あ、もしかして『ジュリエット』役がやりたいの……? ゴメンね。いくら脚本を作った本人と言っても流石にヒロイン役は厳しいと思うの……」

「違うよ! そうじゃなくて……だって、他の配役は立候補を聞いてからの投票だったじゃん? なのに、なんでジュリエットだけいきなり朝倉さんで決定しかかってるの?」

「安藤くん、良く考えて……『ジュリエット』は学校で一番の美少女よね?」

「うん……」

「もし、その役を学校一の美少女である朝倉さんを差し置いてこの私がやったら……どうなると思う?」

「詐欺じゃん」

「いいわ……安藤くん、ちょっと表に出なさい!」

「何で!」


(ああ、でも大体の事情は分かった。確かにこの設定だと他の女子は立候補できないよな……)


「でも、朝倉さんの意見も――」

「朝倉さん『ジュリエット』やりたい?」

「うーん、そうね……あんまり乗り気じゃないけど――」


「やるならロミオ役は私が無理矢理にでも『安藤くん』にするわよ」 ボソ


「やるわ!」 キリッ!

「早っ!? え、てか乗り気じゃないのにそんなノリノリで立候補するの!」

「じゃあ、最後は『ロミオ』役ね。誰かロミオ役をやりたい人はいるかしら?」


(ふっ、どうせ聞いても自ら主役をやりたいなんて挙手できる人はいないはず……そうしたら、後はロミオを推薦投票にすれば『その他の女子連合』と『草食男子連合』のグループ票で自動的に安藤くんがロミオになる計画よ!)


「はい! 俺、ロミオ役やりたいです!」



クラス一同『………………っ!?(や、山田!? 空気読めよ!)』



(山田ァアアアアアアアアアアアアアア! アンタはまたよけいな事を! これじゃあ、安藤くんは自分でロミオやりたいなんて絶対に言うような性格じゃないから、アンタが朝倉さんと『ぼっち』とジュリエットをやることになっちゃうじゃない!)


「大体、貴方他の役があるでしょ!」

「一人二役くらい余裕だぜ!」

「いやアンタには無理よ!?」

「え、ええ? や、山田くん……本当にロミオ役やるの?」

「おう! だって、主役だぜ! しかも、ヒロインは朝倉さんなんだろ? じゃあ、やるしかねえだってばよ!」

「え、ええ? 山田くんが……ロミオやるの? そ、そうなんだ……よろしくね。山田くん」


(はぁ、安藤くんが良かったな……)


「うん! 朝倉さん! 俺と一緒に楽しい劇にしようね!」

「いや、山田くん? これは悲しい劇だからね?」


(ああ……そうだったわ。山田はこういう時に絶望的に空気が読めないんだったわ……終わった。これでこの劇を利用して朝倉さんと安藤くんを結ばせる計画が潰えたわ)


「じゃあ、他に立候補はいないようだから――」

「……はい」

「え」

「――へ? あ、安藤……くん?」

「そ、その俺もロミオ役……やりたいです」

「そ、そう……それはいいけど――」


(ウソ……あの安藤くんが自分からロミオ役を立候補したですって? 何で? 朝倉さんのため? そんなまさか……)


「――っ! か、勘違いしないでよね! 別に、俺はこれが自分の書いた脚本の劇だから、その主役である『ロミオ』は自分で演じないと気がすまないだけなんだからね! ただ、自分の書いた脚本に強いこだわりがあるだけなんだからね!」


(安藤くん、もしかして……まぁ、安藤くんが何で立候補したのかは置いてとりあえずこれで配役は――)


「そう、なら……仕方ないわね。山田くんも安藤くんが『ロミオ』役でいいかしら?」

「え、嫌だ」


(だから、山田ァアアアアアア! アンタは本当に空気を読まないわよね!)


「や、山田くん……安藤くんもこう言っているんだしここは譲っても……」

「はぁ? 委員長何言ってるんだよ! こういうときは選挙ってのを民主主義でやるんだろ? なのに選挙もしないで安藤がロミオなんてノーカンだ!

 ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン!」


(くっ……山田の癖に小ざかしい事を!)


「選挙じゃなくて投票ね……まぁ、いいでしょう。なら、その公平な民主主義の選挙でロミオ役を選びましょうか?」

「…………」


(俺がロミオに立候補しただけで何でこんな荒れてるんだろう?)




 ロミオ役


 安藤 28票


 山田 0票

 

 

「っと、言う事で公平な選挙の結果、ロミオ役は安藤くんに決まりました!」


『ワァアアアアアアア!』


「何でだぁアアアアアアアアアアアアア!」

「えへへ、安藤くん! よろしくね?」

「う、うん……」


(安藤くんがロミオに決まって本当に良かったわ! でも、安藤くんが立候補するなんて珍しいわね……やっぱり、自分の書いた脚本には譲れないものがあるのね!)


(何でだろう……本当は主役なんて全然やる気も無かったのに、朝倉さんが山田とあの劇をやるって思ったら自然と手を上げていた……やっぱり、俺は朝倉さんの事を他の奴に渡したくないって思っているんだ。そういえばこの脚本も何となく書いていたけど気付いたら無意識にヒロインのジュリエットを朝倉さんに重ねて書いていたもんな……

 でも、こんな俺なんかに『朝倉さん』を独占する権利があっていいのだろうか?)


「さて、これで全ての配役は決まったわね。あと決めるのは裏方だけかしら?」


(ん、全ての配役が決まった……? あ、)


「委員長待って! まだ『ナレーション』が決まってない!」

「え、ああ! そうね……この脚本なら確かに劇を進めるにはナレーションが必要ね。誰かナレーションをしてくれる人はいるかしら?」


(うーん、本来ならこういう仕事は私がやるんだけど、今回は何故か運命に導かれて『イン・チョー』役が既に決まっているのよね……)


『…………』シーン


「案の定、誰も立候補しないわね……仕方ないわ。安藤くん、このクラスの中で誰が『ナレーション』にふさわしいって思う?」

「え、何で俺に振るの!?」

「だって『自分の書いた台本に強いこだわり』があるんでしょう?」

「ぐっ……」


(しまった! あの時、咄嗟に朝倉さんのマネをして誤魔化したのが仇に……こう、なったら潔くナレーションを任せられそうな人を生贄にするか、どうせ俺は『ぼっち』だからクラスメイトなんて朝倉さん以外は『他人』のようなもん。生贄にしても心は痛まない)


「えーと……じゃあ『桃井』さんで」


「え……ええええええええええ! 私ぃい!?」






【おまけss】「定価」



「朝倉さん、見てよ。これ明日発売するMS文庫の新作ラノベなんだけどさ……」

「安藤くん、どれかしら……って、うぇええ! 定価800円+税!? なにこれ! MS文庫ってあるから文庫サイズのラノベよね?」

「うん、総ページ数520ページだって、ヤバくない?」

「一体何処の境界線上の鈍器を意識したのかしら? って、レベルね……」

「稀にこういう鈍器サイズのラノベって出るけど……正直、こういうのって定価が高くなるから買う側としては手が出しづらくなるだけだと思うんだよね」

「その気持ち分かるわ。確かに、新作は話題性がないと売れないというのもあると思うけど、こう私達の財布にダイレクトに響く話題性は逆効果でもあるわよね」

「そうそう、800円ってあるけど消費税入れたらほぼ900円じゃん? もうそれって財布ダメージ的には野口一枚分のコストを要求されているようなもんだもん」

「そうね。しかも、最近のラノベは新作でも600円代の定価が増えてきているし、2、3冊買うと意外と野口さんが二枚直ぐに吹っ飛ぶ事も多くは無いわ」

「それで、考えると一冊で野口一枚は大分キツイよ」

「単行本サイズのなろう書籍だと野口さん一枚はそんなに厳しく感じないけど、文庫サイズのラノベだと高く感じるもの不思議よね」

「そう言われればそうだね……でも、あれって俺達からしたら『なろう』は麻薬みたいなものだから買う時は財布のこと考えないけど、買ったあとで財布の中を見て思っていた以上に野口が失踪してて焦る事ない?」

「あるあるある! 確か、まだニ、三人野口さんが――あ、あれ!? 何で一人もいないの! あ……『転生したプラモデルだった件』略して『転プラ』を買ったんだったわ……って事がこの前にもあったのよ……」

「一巻と二巻の二冊ほど買ったんだね……たしか、あれも単行本サイズだから定価1200円くらいだもんね」

「それで、安藤くん。その明日発売の新作ラノベって面白そうなの?」

「うーん、紹介ページを見た感じではダークなファンタジーもので雰囲気はいいかな?」

「どれどれ? ああ、いい感じね……でも、520ページもあるなら、どうせ上下巻で分けるかして欲しかったわね」

「うーん、話の区切りが悪かったんっじゃない? それに新作は一巻である程度の評判がないと直ぐに打ち切りになるから……」

「ああ、そうよね……『なろう』の作品なら固定読者がいるから一巻打ち切りはそんなに多くないだろうけど、新作はね」

「最近は『なろう』の打ち切りも増えてきたけどね」

「それで、安藤くんは結局、このラノベを買うのかしら?」

「うーん……気にはなっているんだけど定価がね」

「そ、それなら! 私もそのラノベは気になるから……ふ、二人で半分づつ出し合って一緒に貸し合って読んだらど、どうかしら……?」

「え……」

「だ、ダメ?」


(うぅ……どうしましょう。ちょっと、大胆すぎたかしら? でで、でも、この話の流れなら別に不自然な事ではないわよね? こ、これで安藤くんが了承してくれたら……ウヘヘ~明日の帰りに二人で一緒に本屋さんによってデート……なんちゃって!

 キャァーーッ!)


「そんな、朝倉さんにお金を出してもらうなんて悪いよ! 大丈夫、朝倉さんも気になるなら普通に明日、自分のお金で買うよ」


(ガァーーンッ!)


「あ……そ、そう?」

「あ! もちろん、買ったら朝倉さんにもちゃんと貸すからね? むしろ、良ければ朝倉さんが先に読んでもいいくらいだよ!」

「そ、そんな。別に私は後で大丈夫よ?」


(って……それじゃあ、明日二人で本屋さんデートできないじゃないのよぉおおおおおおおおおおお!)


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