第49話「題名」




「それでは……昨日、話した演劇の脚本を決めたいと思います」


『はーい』


「…………」


(委員長なんか怒ってる?)


「皆、返事が良いのは嬉しいわ。でも……なら何で昨日言った脚本の『課題』をやってきた人が四人しかいないのよ!」


(しかも、その中の一人は私だから、脚本を書いてきたのは実質三人よ! 三十人クラスだから全員とは行かなくても半数は書いてくると思ったのに、まさかの10分の1じゃない!)


「一体、どうなってるのよ!」


「…………」


(うーん、委員長の怒りも分かるけど……でも、軽いあらすじで良いって言わても一晩で劇の脚本一冊書ける人って正直、委員長や俺みたいに普段から本を読んでる人か、よっぽどのバカだけだよな)


「まぁいいわ。一応、脚本はここに四つ集まったから、今日はこの脚本の中から一番良いものを皆に投票で選んでもらうわ! 因みに脚本を書いた生徒は匿名で、私も脚本は教室に設置してあった委員長ボックスに入れてもらってから回収したから誰が書いたかも知らないわよ」


「…………」


(委員長ボックス。あれは驚いたな……朝学校にきたらやたら派手な郵便ポスト見たいなのが教室に設置してあったんだもん。委員長あれ何処から調達してきたんだろ?)


「…………」ワクワク


(安藤くんのおかげで脚本はバッチリよ! 委員長、私の脚本はいつ発表なの! 一番目? 二番目? それとも大トリかしら!)


「まずは一つ目の脚本から発表するわよ。脚本のコピーを回すから後ろの人に回してね。どう? 回ったわね。じゃあ、一つ目の脚本は匿名、クラスの超人気者さん作……

『山田の大冒険!』よ」


(山田の書いた脚本ね)

(山田が書いた脚本かな)

(山田くんが書いた脚本ね)


クラス一同『(山田の書いた脚本か)』


「えーーゴホン、脚本は誰が書いたかは匿名だから分からないけど……」

「はいはい! 俺、俺! 俺が書きました! 勇者が魔王にさらわれたお姫様を救う超大冒険だぜ! 皆でこれやろうよ!」

「山田ァアアアアアアアアアアアアア! アンタ、私の気遣いを少しは察しなさいよね!」


「…………」


(山田の大冒険か……ゼ●ダのパクリだな。でも、内容は……朝倉さんのよりはマシか?)


「…………」


(ふむふむ、私の脚本の方が面白いわね! さて、次こそは私の脚本かしら!)


「さて、二つ目の脚本を回すわね。コホン、二つ目の脚本は匿名なろう大好き作家さん作……

『クラスメイト全員で異世界転生! ありふれてないスキルで俺TUEEEチートで、異世界最強を目指す!(R15版)』って、タイトル長!?」


(これは……安藤くんの脚本かしら?)

(でた! 朝倉さんが書いた脚本)

(キタァア! 私の脚本来たわ!)


クラス一同『(安藤の書いた脚本かな)』


「え、えーと……何コレ? 凄い内容ね……主人公クラスメイトを開幕ボコボコにしちゃうの? し、しかも女子生徒を奴隷って……」


(うぅ……俺、これでも頑張ったんだ! 創作意欲に暴走する朝倉さんをなんとか、なだめながら、殺す生徒の数を四人にまで減らして奴隷にする女子生徒もメインヒロイン一人に絞らせて……それでも、それでも! ここまでが限界だったんだ!)


(うーん、私としてはもう少し作品のインパクトが欲しかった所だけど、安藤くんがどうしても表現を緩めた方がいいって言うから……少し? ほのぼのした異世界ファンタジーになっちゃったわね)


「えーと……じゃあ、三つ目の脚本に行くわね?」


(フッ……勝った! 三つ目は私の脚本よ。正直、まともな脚本が無いのは計画通り! 私の真の目的はこの『脚本』をクラスの演劇にすることなのよ!)


「三つ目の脚本は匿名、マーガレットさん作!

『現代版 風と共に去りぬ』よ!」


(私の大好きな小説を現代風にアレンジした自信作よ! 匿名だし、これなら私が書いたってバレないから自演臭もしないでしょう!)


「………」


(委員長が書いた脚本だな)


「安藤くん、安藤くん……」

「何? 朝倉さん」

「この脚本、悔しいけどなかなか面白そうね……もしかしたら、私の脚本より面白いかもしれないわ!」


(うん、そうだね)


「朝倉さん、ソンナコトナイヨ? 朝倉さんだって脚本頑張ったじゃないか」

「あ、安藤くん……」

「だから、どっちが面白いかなんて考えるのはよそう」

「……ん? あ、あれ? 安藤くん?」


(フッフッフ、この反応……脚本はまだ一つ残っているけど、どうやら決まったみたいね)


「皆~~♪ 脚本を読むのはいいけど、まだ最後の脚本が残っているからね? じゃあ、最後の脚本は匿名、生徒Aさん作の、えーと……ロミオとジュリエットを現代風に書いた題名――


『 「ぼっち」とジュリエット』 」


(あ、安藤くん……かしら?)

(俺の脚本だ…………)

(安藤くん…………よね?)


クラス一同『(安藤の書いた脚本かな…………え! じゃあ、さっきの脚本は誰が書いたんだ!?)』


「じゃ、じゃあ……一通り脚本を読み終わったら投票を行うわね……」


(安藤くん、最後の最後になかなか凄い自虐ネタみたいな脚本を出してくれたわね。フッ……でも、これで演劇の脚本は私に決まったも同然! だって他の脚本が『バカ』『中二』『ぼっち』よ! ハッ! 敵じゃないわね! これで、私の自分の手で『風と共に去りぬ』の世界を作り、ついでにヒロインと主人公を朝倉さんと安藤くんにすることで二人に擬似的な恋の駆け引きをさせ、お互いの恋心を自覚させる作戦が実行できるわ!

 アーーハッハッハッハ! 今から結果発表が楽しみだわ!)


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「えっぐ……ひっぐ! うぅ……じゃ、じゃあ……投票の結果、演劇の脚本は――」



『山田の大冒険!』 三票


『クラスメイト全員で異世界転生! ありふれてないスキルで俺TUEEEチートで、異世界最強を目指す!(R15版)』 一票


『現代版 風と共に去りぬ』 一票 


『「ぼっち」とジュリエット』 二十五票



「安藤くん作の『「ぼっち」とジュリエット』に決定しました……うぅ」


(安藤くん、ズルイわよ! こんな、こんな脚本、読んだら……)


「うぅ……あ、アタシ涙が止まらない……」

「うわぁああああん! こんなのってねぇえよ!」

「うええーーん!」

「とっても悲しいフレンズだね……」

「ひっぐ! ひっぐ! わぁああああ!」


(誰でも泣いちゃって票を入れるに決まっているじゃないのぉおおおおおお!)



「……………」


(どうしてこうなった?)





「ウソ、私の作品……山田くんに負けてる!?」







【おまけss】「山田の大冒険!」



「俺は山田様だ! 勇者だ! 大変だ! この国で一番の美少女の姫がハゲの魔王にさらわれちゃった! 助けに行かないと!」


俺は頑張った! とりあえず、魔王の居る所はすごい危険な場所だから、タクシーで行く事にした!


「ヘイ、お待ち。何処まで行きましょうか?」

「おっちゃん! 魔王のところまで!」

「任せな!」


 俺は走った。そう、俺達は姫を助ける為に誰よりも早く走った! 


「ウェーイ! ここは通さないウェーイ!」


 怪物の沢渡が現れた!


「おっちゃん! 轢いて!」

「アイヨ!」


 キ、キィーーッ! ドン!


「ウェーイ!」


 やった! 沢渡を倒した!


「お客さん、そろそろ着きますぜ」


 2時間くらい走っただろうか。俺を乗せたタクシーは高速を降りてついに魔王城『ハゲランス』にたどり着いた!


「山田ぁあああああああ! よくぞここまで来――」

「おっちゃん! 轢いて!」

「アイヨ!」


 キ、キィーーッ! ドン!


「ハゲェーイ!」


 やった! 魔王を倒した!


「お客さん、付きましたぜ」

「おっちゃん、ありがとう!」


 そして、俺はついに囚われた姫のもとにたどりついた!


「その姿は……勇者様!」

「姫様! こんにちは! 助けに来ました!」

「嬉しい! 結婚して!」


 そして、俺は姫様を無事に助けた!


「おっちゃん、もう一回乗せて! 今度は姫様も一緒な!」

「お客さん、次は何処まで行きましょうか?」

「そりゃ、もちもん。


 ハッピーエンドまでさ!」









                             終わった!



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「……………………」


(言えない……朝倉さんの脚本より、山田の脚本の方がマシだなんて、絶対に言えない……)


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