第50話「『ぼっち』とジュリエット」




 西暦2595年……世界は友達至上主義となり、人間の評価は『友達がどれだけ多いか』で判断される時代になっていた。


 そして、エロナという街の高校に一人の美少女がいました……




「私の名はジュリエット! この高校で一番の美少女よ!」


 ジュリエットは本人でも言ってしまうほどに残念な美少女でした。しかし、そんな残念さも彼女の魅力の一つなのか、ジュリエットの周りにはいつも多くの友達が掃いて捨てるほど湧いているのです。


「ウェーイ! ジュリエット、君は今日も美人だね。良かったら、スタパに新しいメニューができたんだけどどうかな?」

「ダメよ! ジュリエットは今日、私と渋谷のヴィレヴァンに行くんだからね!」


 ジュリエットは学院長の一人娘であり、さらに学校一の美少女なので凄くモテます。

 今や『学力』で成績を語る時代は終わりました。世間では学校の『学力』よりも『コミュニケーション能力』が問われる時代。そんな世の中で生徒の成績を決める基準はなんでしょう?


 勉強……? いいえ『友達』の多さです。


 なので生徒達はこぞって美少女で学院長の娘でもあるジュリエットと『友達』になろうとするのです。


「今日は学校の舞踏会の日だわ! お父様は『お前の婚約者にふさわしい。友達の多そうな男を見つけなさい!』って、言ってたけど……私に釣り合うような男性なんていないわね」


 ジュリエットはそう言うと飽きてしまったのか、舞踏会を抜け出し、人気のない体育館裏に避難しました。


「ふぅ、ここなら、誰もいないわね……『友達』が多いと話をするのも疲れるから、たまにはこうして一人になりたくなるのよね……あら?」


 しかし、そこには既に先客がいました。


「君は……」


 彼の名はロミオ。ただの『ぼっち』です。


「貴方は誰? どうして、こんな所にいるの?」


 ロミオは答えました。


「僕の名はロミオ……一応、同じクラスなんだけど」

「…………」

「…………」


 こうして、二人は恋に落ちました。


「あぁ! ロミオくん、ロミオくん! 何故、貴方は『ぼっち』なの……?」

「友達がいねぇえからだよ!」

「友達がいないなら、友達を作ればいいじゃない?」

「何……友達ってスーパーとかで材料を買えば作れるの? それって何て錬金術? 腕とか足とか持っていかれない?」


 すると、ジュリエットは恥かしそうにモジモジしながら答えました。


「だ、だから……私が貴方の友達になってあげるって言ってるのよ……べ、別に勘違いしないでよね! 私が貴方と友達になりたいわけじゃなくて! 貴方がかわいそうだから、どーしてもって言うなら、友達になってあげてもいいって事なんだからね!

 こ、この学校一の美少女である私が友達になるって言ってるんだから、断ったら承知しないわよ!」

「ふぇ!? う、うん…………宜しくお願いします」


 こうして、二人は友達になりました。


「ロミオくん、ロミオくん! これをあげるわ!」

「これは……短剣? なんでこれを僕に?」

「だって、学校一の美少女の私と友達だと……ロミオくんなら、男子の恨みを買って刺されそうじゃない? だから護身用にね?」

「怖いよ!」



「ロミオくん、ロミオくん! 私ね! 面白い小説をみつけたの!」

「ああ『異世界はトランシーバーとともに。』ね。あれ、今度アニメ化するらしいよ?」

「え、本当!?」



「ねぇ……『ロミオ』って呼んでもいいかしら?」

「じゃあ……僕は『ジュリエット』って呼んでもいいかな?」

「…………」

「…………」

「ロ、ロミオ……」

「ジュ、ジュリエット……」

「…………」

「…………」

「「え、えへへ……」」



 しかし、二人の関係を周りは良く思いませんでした。


「どうしてあんな奴がジュリエットの『友達』なんだ?」

「ジュリエットもどうかしてるぜ! あんな『ぼっち』を友達に選ぶなんてな!」

「何あの男……? リア充力たったの『5』? なんだ、ただの『ぼっち』じゃん」


 そして、ついに二人の関係はジュリエットの父親の学院長にバレてしまいました。


「友達が100人もいないような男にジュリエットの隣に立つ資格など無い!」


 親バカの学院長は娘をたぶらかしたロミオに憤慨し、友達がいない事と学年テストの成績が悪すぎる事を理由にロミオは学校を退学になってしまいました。


「ロミオ、待って! どうして、貴方が学校を去らなきゃいけないのよ!」

「数学以外のテストの点も、友達の数も全てが0なんだ……僕はもうこの学校にはいられない」

「待って! 友達なら、友達なら……ここに一人いるわ!」

「ジュリエット……ゴメン、僕はもう君を友達だと思えない」

「そんな……ロミオ、どうして?」


「だって、僕は君が『好き』だから。それを自覚したら……もう、君を『友達』とは思えない。

 さよなら、ジュリエット……」


 そして、ロミオは学校を去り『中卒』になりました。

 しかし、ジュリエットは諦めようとしなかったのです。


「イン・チョー、お願い……私はロミオを追いかけるわ! だから、寮から脱出するのを手伝ってくれないかしら」

「分かったわ!」


 ジュリエットの高校は全寮制で門限が厳しかったのです。


「ジュリエット、このポーションを飲めば四十二時間だけ仮死状態になれるわ。これで死んだと思わせて、外にいるロミオと一緒に愛の逃避行よ! 大丈夫、ロミオには私の方から話をつけておくわ!」

「イン・チョー、ありがとう!」


 そうして、ジュリエットは脱出の為、悪役令嬢っぽい見た目のイン・チョーに協力してもらうことにしました。

 計画はそこまでは上手くいきました。 


「ヤ・マーダ! ヤ・マーダはいるかしら!」

「忍者、ヤ・マーダ参上しました! イン・チョー、なんでしょうか?」

「実は……カクカクシカジカなのよ。だから、外にいるロミオにジュリエットを四十二時間だけ仮死状態にして外に逃がすから、迎えに来るように伝えてくれる?」

「かしこまり!」


 しかし、イン・チョーの計画はロミオに上手く伝わらなかったのです。


「イン・チョー何て言ってたっけ……? とりあえず、ロミオの奴を学校に呼び出せばいいんだよな!」



『今夜、学校の校舎裏の駐車場に来い。そこでジュリエットを預かっている』



「何だこの脅迫状は……ジュリエット! 頼む、無事でいてくれ!」


 そして、待ち合わせ場所に着いたロミオが見たのは仮死状態のジュリエットでした。


「ジュリエット! し、死んでいる!? そんな……何で君がこんな事に!」


 ロミオはジュリエットの『死』に深く絶望しました。


「全部、僕の所為だ……僕と出会ってしまった所為で! 僕が、君を好きになったから……

 分かっていた……君が僕と話すようになってから周りの君を見る目が変わったこと……知っていた! 君が僕と話すために他の友達の誘いを断っていたことも!

 気づいていた。君の僕を見る目がすでに『友達』を見る目じゃないってことも!

 僕は……それが嬉しくて! でも、怖くて……君を、自分だけの『友達』にしたいと思ってしまった。

 だから、気づかないフリをしたんだ! 『友達』のままなら笑っていられるから。真実を知らなければこの関係を続けられると思ったから……


 なのに、そんな僕の『思い』が……ジュリエット、君を殺したんだ! 


 君が傷つくのを知りながら、君から友達が離れていくのを見ていながら、君の気持を分かっていながら……っ!

 僕と出会ってしまった所為で、君の運命が変わった。なら、僕は自らの運命をもって君に償おう」



 そして、ロミオはジュリエットから貰った短剣で自らの喉を貫き自害しました。



「う、うーん。よく寝たわ……え、ロミオ! ウソ、嫌……何で!?」


 目覚めたジュリエットはロミオの亡骸を発見しました。


「ロミオ! ロミオ!どうして、こんなことに……私は貴方さえいれば何もいらなかった! 貴方さえいれば他の友達も! お金も! 家族だっていらないのに…………なのにどうして! 私の前から……いなくなるのよ!

 うぅ…………もう、絶対に逃がさないわ。私は貴方が何処に行こうと絶対に、貴方を『一人ぼっち』なんかにさせないんだから!」


 そう言うと、ジュリエットはロミオの短剣で自らの胸を刺して後を追いこの世を去ったのです。



 




『ロミオ……ロミオ、ロミオ! やっと見つけたわ!』

『ジュリエット……探しに来てくれたんだね、ありがとう……僕は幸せだ……だって、これからは好きな人とずっと一緒にいられるんだから……』

『ええ! もう……絶対に離さないわ! 私達はいつまでも一緒よ!』

『ジュリエット……疲れたろう。僕も疲れたんだ……なんだかとても眠いんだよ。ジュリエット…………』




 


 ロミオは『一人ぼっち』でした。でも、これからは『ぼっち』ではありません。



終わり






 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る