第46話「教室の中心で、愛をさけぶ」




『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ』



「安藤! お前、マジで朝倉さんと友達なのかよ!」

「俺ら男子が高嶺の花として、不用意に山田みたいなバカが朝倉さんへ近づかないように不可侵条約を結んでいるのにお前は自分が『ぼっち』なのを利用して朝倉さんとお近づきになったというのかぁああ!」

「な? な!? 俺の言ったとおりだっただろ!?」


『うるせぇ! 山田は黙ってろ!』


「おい、安藤! どう言う事だ! これは本当なのか!」

「…………」


(うわぁ~~ついにバレた……いつかはこうなるんじゃないかと思ってたんだよ。俺だっていくら『ぼっち』だと言っても学校中の男子(俺を除く)が密かに不可侵条約を結んで朝倉さんに手を出さないようにしてたのは知ってたよ……でもさ、向こうから話しかけてくるんだから仕方ないだろ! 俺だって最初はあまり話さないようにしてたさ! 無駄に仲良くしようとしても、どうせ『ぼっち』の俺なんかじゃ朝倉さんは釣り合わないしさ……それに、手を出そうとして学校中の男子に目を付けられるのもゴメンだ……

 だけど――)


『安藤くん、おはよう!』


『良かったら……いいい、一緒に組まないかしら?』


『何これ……エッチぃ本じゃないの……?』


『私、安藤くんが大好きなの!』


(あんな……いろんな顔を見せられたら、もっと話したいって思っても仕方ないじゃないか)



『おい、安藤!』


「……全て秘書がやりました」


『委員長!』


「だから、何で私に投げるのよ! アンタ達も何でそれを真に受けるの!?」


(もう、これどう収拾をつければいいのよ……)


「おい、朝倉さんは何て言っているんだ!」

「ダメだ! さっきから『ほんとうよ!』しか言わねえ! 何かいつもの完璧美人な朝倉さんと違って今日の朝倉さんはポンコツだ!」

「何だそれ!?」


(肝心の朝倉さんはあんなんだし……)


「ねぇねぇ! 朝倉さんって本当に安藤くんと友達なの!?」

「本当よ!」

「群島や列島の中心となる島をなんと言う?」

「本島よ!」

「昨日、デートしてたって言うのも……」

「本当よ!」


(ふっふっふ、どうやら、私の思惑通りクラスメイトの皆は私と安藤くんのことを受け入れてくれるようね……ん?)



「ねぇ、聞いた? あの朝倉さんが安藤くんと友達なんだって……」ヒソヒソ

「マジでウケル……はっ、ありえないでしょ?」ヒソヒソ

「てか、身分ちがくね?」ヒソヒソ

「止めなよ。朝倉さんも安藤くんなんかと噂されて恥かしいんだからさ……」ヒソヒソ



(え……何これ?)



「畜生……安藤みたいなクソつまらねえ奴なんかに先を越された……」ボソボソ

「ホントなんで安藤なんかが朝倉さんと仲良くなってるんだよ」ボソボソ

「ああ、アイツなんかより俺らの方がよっぽどマシだろ」ブツブツ



(何で皆……安藤くんの事を悪く言うの?)



「…………」


(分かってた。知ってた。理解してた。

 俺と朝倉さんは『違う』ハッキリと住む世界が違うんだ。ただ同じラノベ仲間だからって忘れていたわけじゃない。こんな関係がいつまでも続くはずがないと思っていた。

 だって、朝倉さんは誰もが一歩引いてしまうほどの『美少女』で、それに比べて俺が誰もが存在を気にとめない『ぼっち』だ。そんな二人が釣り合う、釣り合わない以前に横に並んでいる時点でおかしいんだ。

 俺の存在が朝倉さんの『評価』を下げる。俺との関わりが朝倉さんの『価値』を下げる。そうなるって分かっていたじゃないか……だから、俺は朝倉さんとは何度も関わらないようにしようとしていたのに……)



『もふょ!』 


『今日は来てくれて……ありがとう』


『はい、安藤くん「あーん」して?』


『い、いつまで触ってるのよ!』


『私以外の女の子のおっぱい見たらダメなんだからね!』 



(それが――できなかった。これは全部俺の責任だ。俺がいつまでも朝倉さんと『話したい』もっと……朝倉さんと『一緒にいたい』って、思ったから――)




「ふっざけるなぁーーーーっ!」




「…………え」ヒソヒソ

「何……?」ヒソヒソ

「お、おい……あれ」ボソボソ



「…………」


(あ、朝倉……さん? 何で叫び出して……)



「私は――恥かしいなんて、思わない!」


「っ!?」


(朝倉さん、泣いてる……?)


「ふぅー……」


(安藤くん、聞いて……私の気持ち。今度は言い間違えないわ)


「貴方達! 私が黙って聞いていれば何が『恥かしい』よ! 何が『つまらない奴』よ!

 貴方達は安藤くんのことをどれだけ知っているの! 貴方達が安藤くんの何を知っているのよ! 私は『知っている』わ! 安藤くんがどんなに『面白い人』かを……安藤くんがどんなに『凄い人』かを……私は『知っている』!

 貴方達はその安藤くんのことをどれだけ知っていて、そんなことを言うのよ!

 安藤くんは『凄い人』よ! 私よりもたくさんのラノベを読んでいていろんな面白い話を知っているし、それに数学のテストだっていつも100点を取っているって誰が知ってる? さらに、私が風邪を引いて学校を休んだ時はプリントを届けてお見舞いにまで来てくれたわ。貴方達がそんな安藤くんの事をどれだけ知っていた? 私は全部知っている! 安藤くんが『すげー』ってことも安藤くんがとっても『優しい人』だってことも全部知ってる!

 だから、安藤くんを『笑う』奴がこのクラスにいるなら、私がぶっ殺してやるわ!」



(ハハ……朝倉さん、ぶっ殺すって――


『じゃあ、もし知らない人が「八男転生なんてつまらねーよ」とか言ったらどう思う?』

『ぶっ殺すわ』


 ――流石はグレムリンだ)



「だから……私は堂々と、胸を張って言うわ!


安藤くんはこんなにも素晴らしい人で、一緒にいることを『恥ずかしい』だなんて思わない!


『安藤くん』って人は私の一番大好きな『友達』なんだから!」


(い、言ってやったわよ!)


「うわぁーお……」


(あ、朝倉さんさすがね。委員長の私も恥ずかしくなるような大胆な告白だったわ。流石にここまで言われたらクラスの皆も――)


『あっ……(察し)』


(分かっちゃったみたいね……それで、肝心の安藤くんは?)



「あ、朝倉さん……今のって」

「へ、ちゃ! いや、安藤くん今のは違――」


(待ちなさい私! ここまで言ってまだ誤魔化すの? いい加減、正直にならなきゃダメでしょう!)


「――く、ないわ! 安藤くん、今のが私の正直な……き、気持ちよ!」

「そ、そうなんだ……」


(さぁ、安藤くん。貴方の返事を聞かせて!)



「朝倉さん」

「は、はい!」



「…………」


(ああ、ついに委員長の私の努力が報われるのね……)


『…………』ゴクリ


「なぁ! なぁ? 今これってどういう状況なの?」


『うるせぇ! 山田は黙ってろ!』



「ありがとう……ごめんね。俺、朝倉さんの気持ちに気づかなくって……朝倉さんの気持ち凄い嬉しいよ」

「っ――じゃ!」

「まさか、朝倉さんが俺のことを――そんなに大事な 『友達』 だなんて思っていたなんて! 俺、嬉しくてなんだか涙が出てきた……」

「え」



「…………は?」


(安藤くん、待って! さっきの朝倉さんの言葉は明らかに貴方への好意の告白だったわよね? そ、それを……貴方は熱烈な『友達宣言』だと思ったの!?)


『え、えええええええええええええええええええええええええ!』



(安藤くん、違うわ! 私は貴方の事が――)


「朝倉さん、俺も朝倉さんと同じ気持ちだよ……本当なら、これは最初に言わなければいけなかったんだと思う。だから、今言うね?

 どうか、俺と『友達』になってください!」

「うん、喜んで!」


(安藤くんが私と同じ気持ちですって!? もう、なんかどうでも良いわ! ヒャッホーイ!)



「えええええええええええええええええええええええええええ!」

『えええええええええええええええええええええええええええ!』



「あ、安藤くん?」

「ん、何? 朝倉さん」

「えへへ~~呼んだだけ♪」

「そ、そうか……」


(私の気持ちは上手く伝わらなかったけど、でもこれで安藤くんとちゃんとした『友達』になれたわ! これは一歩前進っといってもいいわよね!) 


(俺は……臆病だ。朝倉さんが俺をこんなに大事な『友達』だと思ってくれているというのに、俺はそれが少し怖い。だって、俺は気づいたから……いや、本当はずっと気づいていたのかもしれない。俺は朝倉さんが『好き』だ。もし、彼女にこの気持ちがバレてしまったら、俺と朝倉さんは『友達』のままではいられないだろう。

 だから、俺はこの気持ちを隠したまま彼女と『友達』でいることを選ぶ。人生で初めての『友達』を失わない為に――)


「朝倉さん、これからも宜しくね」

「えへへ~~わ、私の方こそ……」


((どうか、この気持ちが――この人に))



(伝わりますように)

(伝わりませんように)





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る