第45話「山田」


 

 ざわざわ……



「おはよう、朝倉さん」

「あ、安藤くん! おはよう……」


(え、あの安藤くんが今日は自分から私に挨拶してくれた……ウソ、夢みたいだわ!)


 ざわざわ……

ざわざわ……

  ざわざわ……


(朝倉さん、昨日一緒に買った栞もう使ってる……なんか栞を持ってニヤニヤしてるけど、そんなにあの栞が気にいっているのかな。てか、今日は教室がやけに騒がしいな……お、なんか委員長が怖い顔して朝倉さんに向かってくる……)


「朝倉さん、ちょっといい?」

「あれ、委員長おはよう。えへへ~~ねぇ、聞いて聞いて~~」

「話は後で行くから、ちょっとこっち来て」

「ん? 何よ……」


(何だろう? 委員長、朝倉さんをあんな教室の端に連れて行ってヒソヒソ話しだしたぞ?)


「朝倉さん、大変なのよ」

「え~~大変って何が~~?」

「それが……朝倉さん、昨日は安藤くんとデートしたでしょう?」

「うん! そうなのよ! それがね!」

「シッ! 声が大きいわ。デートの感想は後で聞くから……実は昨日、朝倉さんと安藤くんのデートを見た人がいるみたいで二人の事が教室で噂されているのよ」


(マズイ事になったわ……正直、私としては朝倉さんが安藤くんとくっつけば朝倉さんには恩を売れるし私も朝倉さんが頼りにする友人の一人として学校の地位も安泰……のはずだったのに、もしここで朝倉さん達が噂になって二人の中がこじれる事があったら、私と朝倉さんの関係も最悪……むしろ、傷心した朝倉さんがまた私の事を恋敵と誤認する可能性もあるわ。だから、ここは何とかして二人の噂を消さないと……)


「え! じゃあ、クラスで噂になっているって事は……」

「そうよ……朝倉さん」


「つまり、私と安藤くんが公認の仲になったと言う事ね!」


「朝倉さん、落ち着いて……ねぇ、何でさっきから朝倉さん微妙に頭のネジが外れかかっているの?」

「えへへ~~それはねー今日、安藤くんが――」

「あ、もう分かったからいいわ」


(あああああああああ! 安藤くん、何でこんな時に限って無駄に朝倉さんを喜ばす行動起こしているのよ! その所為でいつも『キリッ!』ってしてる朝倉さんがこんな『フニャフニャ~』になっているじゃない!)



「な、なぁ……おい、安藤?」

「ん?」



(って、しまったぁあああああああ! こうしているうちに一部の男子が安藤くんに声をかけ始めたわ! な、何とかして二人の関係は秘密にしないと!)



「お前……昨日、朝倉さんと駅前のデパートにいたって本当か?」

「えっ!」


(ああ、なるほど……なんかやけに人の視線を今日は感じると思ったら昨日のあれを誰かに見られていたのかぁ……しかし、これなんて答えたもんかなぁ)


(安藤くん、ダメ! 誤魔化すのよ!)


「えーと……」


「俺は確かに見たぜ! おい、安藤! お前昨日、朝倉さんと一緒にデパートの9階にいたじゃねぇか!」


「え、お前は……」


(誰だっけコイツ……? 確か君の名は――)


(山田ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 噂をばら撒いたのはアンタね! 何してくれてんのよこのバカは! アンタの所為で委員長の私によけいな火の粉が降りかかろうとしてるんだけど!?)


「山田くん! それはきっと偶然よ!」

「あ、委員長」


(委員長、助けに来てくれたのかな……よし、ここは話を合わせた方がいいか?)


「あ、そうそう。偶然だ」

「ほ、ほら! 安藤くんもそういっているじゃない! ね!? ね!?」



「なんだー偶然かー」ヒソヒソ

「そうだよね~」ヒソヒソ

「とっても杞憂なフレンズだったね」ヒソヒソ



(よ、よし! これで何とか二人の噂も――)


「え、でも朝倉さんと安藤。二人で仲良く本屋でイチャついてたじゃん?」


(山田ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! アンタ、私がせっかく話を誤魔化そうとしているのに何爆弾放り込んでくれてるのよ!)



「うっそー! イチャついてたってマジでヤバくない!?」ヒソヒソ

「しかも、あの朝倉さんと安藤くんが!?」ヒソヒソ

「とっても大スクープなフレンズだね」ヒソヒソ



(ああああああ! もうダメだわ! 今ので噂に一気に火が付いちゃったわ! こうなったら直接本人達に否定してもらうしか――)



「ね、ねえ! ああ、朝倉さん! 朝倉さんが昨日……その、えっと、安藤くん……だっけ? と一緒にデパートにいたって本当…………なの?」


(よし! 朝倉さん、ここは上手く誤魔化して――)


「うん!」


(朝倉さーーーーーーーーーーーーーーーーん! しまったわ! 朝倉さんの頭がまだ正常に戻っていない! 今の朝倉さんは安藤くんの事で頭が一杯でウソを付く余裕なんか全然無いわ!)


「キャァーーーーッ!」

「本当だって!」

「嘘だッ!」

「世界の終りダァアアアアアアア!」

「メシアァアアアアアアアアア!」


「おい、安藤! お前、朝倉さんとデートしたってマジかよ!」

「だから、俺が見たって言ってるじゃん! マジだよ! 確かに朝倉さんとコイツがデパートでデートしてたんだって!」


(山田うるさい! お前は黙ってろ! 安藤くんお願い! もう貴方しかいないわ! 何でもいいからとにかく誤魔化して!)


「えーと……」チラ


(ん、安藤くん……何で私を見るの?)


「後は全て秘書の委員長が答えます」

「へ?」


(あ、安藤……くん?)


「委員長、どういうこと!」

「委員長何か知っているの!?」

「秘書ってどう言う事! 委員長!」

「委員長教えてくれ!」

「ちょ、まって! ぎゃあああああああああああ!」


(な、何が秘書よおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)


(すまん、委員長……ぼっちの俺にはこの騒動を止めるのは無理だ……)


(だからって私が止められるわけないでしょぉおおおおおおおおおおおおお!)


「教えて、委員長!」

「本当にデートなの!」

「朝倉さんと安藤くんってどういう関係なの!」

「フレンズなの?」

「秘書なら答えてよ!」

「そ、それは――」


(あぁ……何で委員長の私がこんな目にあうのだろう……よし、絶対に後で山田と安藤くんの二人をぶっ殺そう)



「その噂は全部本当よ!」



『え』


(今の声は……)


(あ、朝倉さん?)


「朝倉さん! 全部本当って安藤とデートしたって言うのも……」

「本当よ!」


「安藤くん……だっけ? と、友達だって言うのも――」

「本当よ!」


「沖縄の正式名称は沖縄――」

「本島よ!」


(ふっふっふ……なにやら私と安藤くんの関係が回りにバレた見たいでクラス中が大騒ぎになっているけど、これはチャンスじゃないかしら? あえてここで私が全てを肯定することでクラスの皆が私と安藤くんを受け入れてくれれば、これからはコソコソしなくても堂々と安藤くんとおしゃべりができるじゃない! か、完璧だわ……!)



「つまり話をまとめると……」ヒソヒソ

「あの朝倉さんが……」

「あの安藤と……」

「……友達ってこと?」



『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!』



「…………」


(いや、むしろ……なんで私以外のクラスメイトは気づいていなかったのよ……)







【おまけss】もしかの「もしも、朝倉さんがメイドだったら?」




安藤くんの家


「えーと……ただいま」


「お、おかえりなしゃましぇ! ごご、ご主人様!」

「朝倉さん、落ち着いて……これはただのおままごとみたいなものだから、そんな気を張らなくてもいいよ?」

「うな! なな、何を言っているのかしら、安藤く――じゃなくて……ごご、ご主人様は!? 別に私は自分がご主人様のメイドになったからと言って『嬉しい気持ち』と『恥かしい気持ち』が混同してパニックになんてなっていないんだからね!」

「あ……うん、なんか良く分からないけど大丈夫そうだね?」

「そうよ! もちろん私は何も問題ないわ! ええ、だからこそご主人様のメイドをキッチリ務めてあげるわよ!」

「うん、じゃあ期待してようかな」


(まぁ、メイドさんと言っても所詮は『おまけ』限定のお手伝いさんみたいなものだし、大丈夫だろ……)


「じゃあ……ご、ご主人様!」

「朝倉さん、何かな?」

「そそ、その……ご、ご飯にする? お、お風呂にする? それとも……わ――」

「っ!? わわわ、わぁああああああああああああ! ちょっと待って! 朝倉さん、ストーープッ! それ違う! それはメイドじゃないよね! てか、何を口走ろうとしてるの!?」




結論

 朝倉さんが暴走して、メイドじゃない何かになる。

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