第43話「キノコ」




「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」


「ここが安藤くんがオススメのカフェね」

「うん」


(まぁ、正確には妹のオススメするカフェだけど……妹のモノは兄のモノ、兄のモノは妹のモノってことわざがあるくらいだし、俺のオススメでいいよな?)


「えーと、何々……

 朝倉さん、ここは季節のパスタが楽しめるカフェなんだヨ。丁度、この時期は三色のパスタが期間限定でやっているから、それがオススメだヨ」 ←棒読み


(よし、何とか妹のカンペを自然に読めたな)


「期間限定ですって! いいわね!」

「はい! 彼氏さんの仰るとおり、現在当店では期間限定の三色のパスタを販売しております! ただいまの時間はランチサービスもしておりますので『グリーンカルボナーラ』『ホワイトカルボナーラ』『レッドカルボナーラ』の三色のパスタの内どれかとドリンクのセットがお得です!」

「おぅ……」

「かっ……かか!」


(あちゃー、この店員さん、よりにもよって俺と朝倉さんをカップルに間違えやがった……いやいや、ちゃんと見てよ。このネクラぼっちな俺と超絶美少女の朝倉さんが普通に考えてカップルなわけないでしょう? ほら、朝倉さんも俺なんかとカップルに間違えられるのは恥かしいのかメチャクチャ顔を赤くしてるし……)


(か、彼氏ですって! この店員さんから見たら私達かかか、カップルに見えているのね!? おお、落ち着きなさい私! 私はできる女……そう、できる女よ! こんな店員さんの言葉で動揺しているようなら私の気持ちが安藤くんにバレちゃうわ。ここは動揺せずに普通に対応するのよ……)


「ひ、ひゃあっ! その、ぎゅ、ギュリーンカルボナーラをくだちゃい!」

「あ、朝倉さん、落ち着いて……いくら店員さんにカップルって間違えられたからって動揺しすぎだから」

「は、はぁあ!? 安藤くん、何言ってるの!? わわ、私動揺なんか……ぜ、全然して無いわよ! 別にこれは安藤くんとカップルに間違えられたのか恥かしいんじゃなくて、こ! このパスタがおいしそうだから、動揺してただけなんだからね!」

「あ、そうだったの。ゴメン、俺はてっきり朝倉さんが恥かしかったのかと……」

「べ、別に! 私は安藤くんとカップルに間違えられたくらいでは、恥かしがったりなんかしないわよ!」


「…………ご、ご注文はお決まりでしょうか?」


(うわぁ……何、このバカップル? 見せ付けてんじゃねぇぞ? こっちは昨日カレシにフラれたばっかりなんだよ。さっさと注文して爆発しろ!)


「あ、すみません! え、えーと……じゃあ『グリーンカルボナーラ』と『アイスティー』のセットで!」

「じゃあ、俺は『レッドカルボナーラ』と『アイスコーヒー』のブラックで」

「かしこまりました」


(安藤くん、コーヒー飲めるのね。しかも、ブラックって……なんかカッコいいわ!)


(ヤバ……コーヒーをブラックで注文するってなんか気取ってるみたいに思われないかな……『コーヒーをブラックで飲める俺カッケー』アピールだって朝倉さんに思われてたらイタ過ぎるぞ。そもそも、俺がコーヒーをブラックで頼むのって、ただシロップとかをコーヒーに入れるのが面倒なだけだしなぁ……だって、あれ入れた後に手がベタベタするんだもん)


「…………」

「…………」


((な、何か話さないと……))


「「あ、あの――」」


((まさかのハモった!?))


「な、何かしら? 安藤くん」

「いやいや、朝倉さんの方こそ……」

「いえいえ、安藤くんの方こそ……」

「…………」

「…………」


「「じゃ、じゃあ――」」


((って、またハモった!?))



「…………」


(何やってんだ? このバカップル……チッ)


「お待たせいたしましたーこちらご注文の品です」ニコー


「あ、安藤くん! パスタが来たわよ! さっそく食べましょう!」

「う、うん! そうだね朝倉さん! 俺もお腹が空いちゃったよ!」


「「いただきます!」」


「…………」

「…………」


((また、ハモった……恥かしい))


「って、あ……」

「ん? どうしたの、朝倉さん」

「いや、ちょっとね……頼んだ時には気付かなかったんだけど、このパスタってキノコが入っているのね……」

「え、もしかして朝倉さんってキノコ嫌いなの?」

「……わ、悪いかしら?」

「ぶふっ!」

「ちょ! いきなり笑うって何よ! そんなに私がキノコ嫌いなのが可笑しいの!?」

「いや……ゴメンね。だけど……」


(なんか、朝倉さんって残念だけど、普段は『美人』ってイメージなのに、こうしてたまに朝倉さんが『可愛い』って思う瞬間があるんだよなぁ……なんて、言えるわけないだろ!)


「だけど、何よ?」

「な、何でもないです! そうだ。笑っちゃったお詫びにそのキノコ俺が食べるよ」

「ふ、フン! そんな事で私の機嫌を取ろうとしても……そうね」ニヤリ


(フフフ、良い事を思いついたわ!)


「え、朝倉……さん?」

「そうね。なら、安藤くんにこのキノコを食べてもらいましょう……」ニコッ!


(何だろう……朝倉さんの笑顔から、凄く嫌な予感がする)


「はい、安藤くん『アーン』して……?」

「んなっ!」


(まさかの『アーン』再び!?)


(ぐふふ……これはキノコを口実に安藤くんとイチャイチャするチャンスだわ! 実は昨日の段階で委員長から今日のデートをするにあたって『朝倉さんへ、明日のデートは隙があれば必ず安藤くんに積極的なアプローチをかけること』って課題をもらっているのよ!)


「どうしたの安藤くん、私のキノコ……食べてくれないの?」

「ぐっ!」


(あ、朝倉さん! その悲しそうな表情でそのセリフは卑怯だよ! で、でも……この学校外でそんな『アーン』なんて……くそう!)


「あ、あーーん……」

「ど、どう! 私のキノコ……美味しい?」

「う、うん……美味しいです」




「…………」


(チッ、爆発しろ)


「…………いらっしゃいませぇえええええええ!」







【おまけss】もしかの「もしも、朝倉さんが男の子だったら?」



「安藤くん、おはよう」


(学校一のイケメンで有名な男子の『朝倉』が隣の席の俺に話しかけてきた……きっと、クラスの人気者として『ぼっち』である俺にも平等に接してくれているのだろう。うんうん、流石は学校一のイケメンだ。顔だけでなく、心までもイケメンとは……

 うん、あまりにもイケメンすぎてなんかムカつくので、とりあえずここは無視しよう)


「…………」

「無視!? あ、安藤くん? 僕達は同じクラスメイトなんだから挨拶は返してくれてもいいんじゃないかな?」

「え……いや、そんなたかが『ぼっち』の俺が、このクラスの『キング・オブ・リア充(笑)』の朝倉くん程度の存在に挨拶をするなんて恐れ多いこと……出来るわけないじゃないですか」


「キング・オブ・リア充って何!? てか、なんかさりげなく僕のことディスって無かった!?」


「そんなwww めっそうもございませんwww 朝倉リア充王様(笑)」

「いや、明らかにバカにしてるよね!?」


(ケッ! 当たり前だろバーローッ! 大体なんでリア充のお前が毎日『ぼっち』の俺なんかに話しかけて来るんだよ!)


(うーん、何で安藤くんはいつも僕に冷たい態度を取るんだろう……僕はただ安藤くんと仲良くなってラノベの話をしたいだけなのに……)


「じゃあ、俺は先生が来るまでトイレに――」 ポロ ← ぎんなんが机から落ちる音

「あ! 安藤くん、机の上のぎんなんが床に落ちたよ」

「あ、ゴメン……」

「いやいや、僕が取るよ――」


(え、床に落ちたぎんなんを取ろうとしたら俺の手が――)


(あ、床に落ちたぎんなんを取ってあげようとしたら――)


「「あ……」」


 パシッ!


(僕の手が彼の手と――重なって……) ウホッ♪


「…………」 じー

「…………」 じー


(いや、流石に手を放して欲しいんだけど……)



結論

 流石に、何も始まらない。

 多分……





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