第41話「冷え性」




(デート当日、俺は待ち合わせに遅刻した)



「ヤバイヤバイヤバイヤバイ! くっそ、もう10分も待ち合わせ時間を過ぎてる……朝倉さん怒ってないかな……ああ、前日にデート用の服とか買うから準備に思った以上時間をくらった! くっそう! こんな事だったら朝倉さんの連絡先を聞いておくべきだった!」


(朝倉さんとの待ち合わせは最寄り駅の西口のはず、朝倉さんは――……

 いた!)



「……………」グスッ


(安藤くん、来ないわ……えへへ、私ったらバカね♪ 安藤くんとのデートが楽しみすぎて、待ち合わせ場所に2時間前には着いちゃったんだから♪

 はぁーー流石に早く着きすぎちゃったかな? って、思ったけど、案外、安藤くんを待つのは楽しかったわ。まだ、待ち合わせ時間にもなっていないのに駅から人が出て来る度に『安藤くんがいるかも!』って人ごみの中を探したり、待っている間は安藤くんとのデートを想像しながら一人でニヤニヤしちゃってね。うふふ、そうそう、待ち合わせ時間の30分くらい前になると『もう、安藤くんがいつ来てもおかしくないわ!』って思って、待ち合わせは西口って言ったのに、念のためにってわざわざ東口の方も見に行ったりして、それでも安藤くんが来た時のことを考えると楽しかったわ。でも……待ち合わせ時間を過ぎてから1分時間が進むたびに『もしかして安藤くんは来ないかも』って考えが頭をよぎって段々と不安に……

 私ってホントにバカ♪ もしかしたら、安藤くんは私とデートするのが嫌なのかもしれないのに私ったらそんな事考えずに自分だけ浮かれちゃって――)



「ゴメン! 朝倉さん! 遅くなった! ま、待ったよね……?」

「安藤きゅん! ぜ、全然待ってないわ! 私も今来たところよ!」


(よ、よかったぁ~~そうか、朝倉さんも少し遅れていたのか。はぁー本当に朝倉さんを『10分』も待たせるような事が無くてよかったぁ……)


(嘘! 本当はチョーーーーーーーーーーーー待ったわ! 安藤くんが現れたらビンタの一つでもしてやろうかと思ってたけど、けど……安藤くんの顔を見た瞬間にそんなの全部吹っ飛んで、気付いたら『待っていない』なんて言っちゃったのよぉおおおおおおおお!)


「本当にゴメンね。少し服を準備するのに戸惑っちゃって……」

「そ、そう! 実は私も服を選んでたら時間が過ぎちゃって丁度今来たところなのよ! だから、安藤くんがそんなに謝る事なんかないんだからね!」


(嘘! 本当は前日の夜から1時間かけて服は選んだから朝は全然余裕だったわ! ええ、二時間も前に着くくらいね! もう、安藤くんったら遅刻なんかして来るんだから絶対に許さな――)


「うん……今日の朝倉さんの服、いいね。凄く似合ってる。なんか、ファンタでジアなレーベルのラノベに出てくるヒロインみたいだね」


(――なくも無いわね)


「そ、そう? ありがとう……そう言う安藤くんもなかなかいいセンスね。ま、まるでメディアでワークな文庫に出てくる主人公みたいで似合ってるわよ」

「あはは、朝倉さんに褒めてもらって良かったよ。実はこれ今日の為に妹に選んでもらったんだよ」

「え、今日の為に!」


(あ、安藤くん……今日のデートの為に服を買ったの! つまり、私とのデートをそこまで意識して!)


(いやー妹に服を選んでもらってよかった――


『いい、お兄ちゃん? いくらお兄ちゃんが黒が好きでも全身を真っ黒にしたらただの黒子だからね? コーディネートで黒を使うならあえてシャツは白を使ったり、パンツも真っ黒じゃなくて紺色とかの色にするんだよ。ほら、丁度あそこにいいマネキンがあるからあれと同じなのを買えば? はぁあ! 恥かしくて店員さんに話しかけられない!?』


 ――って、あの時は妹に本当助けられたぜ)


「でも、朝倉さん。本当に全然待ってない? 俺が朝倉さんを見つけたときには何か下をみてジッとしていたけど……」


(朝倉さんは、結構きっちりしてる人だから待ち合わせに遅刻するイメージとかないんだよな……むしろ、朝倉さんなら少し早く来てそうだ。流石に30分前とかに来るほども無いだろうし、うーん……朝倉さんだし、逆に10分くらい前には待ち合わせ場所で待っていてもおかしくは無いな)


(うぅ……安藤くん以外と鋭いわね。仕方ないわね。あまり安藤くんを責めるつもりは無いけど少し本当の事を話してもいいわよね)


「じ、実は……少し早く来てたわ」

「やっぱり! うわ、それなのに遅刻とかして本当にごめんなさい! 本当はいつから待ってたの……?」

「えーと……待ち合わせの5分前よ」


(やっぱりかーーだとしたら俺は遅刻の分も含めて15分も朝倉さんを待たせてしまったのか! なんて大馬鹿野労なんだ俺は!)


「朝倉さん、遅刻のお詫びとして何か俺に出来ることは無いかな?」

「できること? な、なら……」


(本当は2時間も待ったんだし少しくらいのわがままはいいわよね?)


「そ、その……」

「うん?」

「安藤くん! わ、私と――手を繋いでて欲しいですぅ……」


「へっ!?」


「な、バカ! 違うのよ! そういう意味じゃなくてね! つまり、安藤くんを待っていたら手が冷えちゃったのよ! だから、私の手が温まるまで間、安藤くんが『責任』を持って! 安藤くんの手で私の手を温めるの! いい?」

「え、でも朝倉さん。今……5月てか、もう直ぐ6月でそんなに寒くは――」

「私は冷え性なのよ! いいからさっさと手を出しなさい!」

「は、はい!」


(あ、安藤くんの手……)

(あ、朝倉さんの手……)


 ぎゅっ


「…………」 ドキドキ

「…………」 ドキドキ


((温かい……))


「…………」 ドキドキ

「……ん?」 


(いや、何で朝倉さんの手も温かいんだよ……)







【おまけss】「きっかけ」



「そういえば、安藤くん」

「何、朝倉さん?」

「安藤くんって、ラノベを読むようになったきっかけは何かしら?」

「きっかけか……きっかけと言うよりも、俺は一番最初に買ったラノベが『とある灼眼のゼロのハルヒの使い魔』っていうラノベなんだけど知っている?」

「もちろん知ってるわ! それってアニメもやってたし、確かラノベブームを引き起こしたとも言われている作品じゃない!」

「そうそう、実は俺もそのアニメを見たのがきっかけで『原作って漫画かな?』って思って、ラノベの存在を知ったんだよ。そこからはそれが面白かったからか一気にラノベにハマったね」

「そうなのね。意外とフツーでビックリしたわ。でも、確かにあの当時のラノベ作品は名作が多いから分かるわね」

「そういう朝倉さんは『ラノベを読むようになったきっかけ』ってあるの?」

「え、わ、私? あ、安藤くんは……私がラノベを好きになった『きっかけ』知りたい?」

「うん。だって、朝倉さんはそもそも漫画とかアニメとか見そうに無いから、何がきっかけなのかは気になるね」

「はぅっ!」


(安藤くんが私の事を気になるですって! うぅ……正直、話すのは恥かしいけど……でも、安藤くんがそんなに私の事を『隅々まで全部知りたい』って言うのなら答えてあげないことも無いわね!)


「もぅ、こんなの教えるのは……安藤くんだけなんだからね?」


(貴方が好きだから教えるのよ? か、勘違いしないでよね!)


(うん……どう言う事だ? ……っは、そうか! 今の言葉は――


『私がラノベ好きを知っているのは安藤くんだけだから、話してあげるのよ! べ、別に……決して貴方が特別な男子って意味じゃないんだから勘違いしないでよね!?』


――って意味か!)


「うん、大丈夫! 誰にも言わないよ!」

「そう……?」


(うぅ、やっぱり、ちゃんと伝わってない気がするわ……)


「でも、私がラノベを好きになったきっかけは普通よ。安藤くんは『エルメスの旅』ってラノベを知っているかしら?」

「もちろん、結構前から続いている作品で主人公のエルメスが相棒のレッカー車に乗っていろんな国を旅する話だよね?」

「そうよ。その『エルメスの旅』が私が最初に読んだラノベなの。中学一年生の時にね私はそれを学校の図書館で見つけて暇つぶしに借りて読んだのがきっかけよ。それを読んでライトノベルって存在を知ってもっといろんなラノベが読みたいって思ったのよ」

「なるほど、学校の図書館かぁ~確かに『エルメスの旅』は表紙が今のラノベみたいに萌えイラストでもないし、内容もどこか考えさせられるような話が多いから道徳の一環として学校の図書館に置かれててもおかしくないよね。それで、朝倉さんはそれからラノベを買うようになったの?」

「ううん、しばらくは恥かしがってて一年くらいは本屋さんに行ってもラノベコーナーの前にすら行けなかったのよ」

「え、じゃあ『エルメス』を読んでからは一年もラノベを読めなかったの……? だって、学校の図書館ってそんなにラノベ置いてないよね?」

「そうね。確かに私の中学校には『エルメス』以外にラノベは置いてなかったわ。でも、本屋さんで買えなくても『ラノベ』なら、いっーーぱい! 読めたわよ?」

「え、どうやって?」

「もう……安藤くんは私が普段どんな『ラノベ』を読んでいるのか忘れたの? このスマホは何かしら?」

「あ! 『カクヨム』だ!」


「違うわよ! 『なろう』よ! 

 ――って……安藤くん、貴方わざと間違えたでしょう!? 何これ! この流れってまるで私が『カクヨム』を悪く言ってるみたいに見えない!? ち、違うわよ! 確かに私が普段から見ているのは『なろう』だけど……だからと言って『カクヨム』も十分に素晴らしいと思っているんだからね!」

「なるほど、それがきっかけで朝倉さんは『なろう』を利用し始めたんだね」

「そうね。だって、当時の私は中学生でラノベだってロクに恥かしがって買えないし、買おうとしても中学生の時の私のお小遣いって少なかったのよね……それで、無料でラノベを読める方法は無いか探してたら『なろう』に出会ったのよ。そこからは毎日必死になって『なろう』のランキングを上位から読み漁ったわね……しかも、読み始めたのが累計上位だから、これが面白くて……面白くて! 読むたびにドンドンとラノベの面白さにハマっていったわ。

 フフ、だから私がラノベにハマったきっかけは『なろう』なのかもね♪」


(そして、安藤くんと出会えたきっかけも――)



「そっか……『カクヨム』じゃないんだね」



「安藤くん!? だから、それは卑怯じゃないかしら!」




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