第35話「疑問」



「――以上が、先日の勉強会の様子だけど」

「なるほど……大体のことは分かったわ。ありがとう、安藤くん。それで、妹さんの誤解は解けたのかしら?」

「まぁね。代償としてコンビニで高いプリンをおごる羽目になったよ……

 てか、委員長?」

「何かしら?」

「何で、俺は委員長に朝倉さんとの勉強会の様子を報告しなきゃいけなかったの?」


(マジで、朝学校に来たらいきなり図書室に呼び出されて昨日の勉強会の出来事を根掘り葉掘り聞かれたからな)


「だって、勉強会とは言っても安藤くんの家でやったんでしょう? 二人とも学生である前に男と女なんだから何か間違いが起きていないか確認するのは委員長として当たり前よ」


(まぁ、本音は二人の進展具合の確認で、間違いの方はむしろ起きてくれって感じだけどね)


「まぁ、間違いは事故とはいえあったみたいだけど?」

「うっ……」


(朝倉さんの胸を触った事か)


「でも、それって俺がウソの報告してたら意味無いじゃん?」

「大丈夫よ。ちゃんと、朝倉さんからは昨日の夜に電話で聞いてるから」

「じゃあ、俺の報告いらないよね!?」

「こういうのは互いの意見を聞く事が重要なのよ」


(貴方達二人はただでさえ、すれ違ってるんだから……二人が互いの事をどう思っているのか、こうして二人の意見を聞かないと分かりづらいのよ。

 でも、朝倉さんもスキンシップでボディタッチはしろと言ったけどまさか『胸』を触らせるとか……やるわね)


「それで、安藤くんは『事故』とはいえ朝倉さんの胸を触ってどうだったの?」


(これで朝倉さんのことを安藤くんが『異性』として意識するようになってれば――)


「正直言って、ドキドキした」


(お? これは……)


「それって、やっぱり朝倉さんが綺麗だから? まぁ、そうよね。だって普通の男子なら朝倉さんほどの女性と一緒にいて――」


「それが……分からないんだ」


「――へ?」


(何ですって?)


「安藤くん、分からないってどう言う事かしら?」

「ああ、そうだな……なんて説明すればいいんだ。つまり、俺って今まで『ぼっち』だから女の子の胸なんか触ったの始めてなんだよ」

「まぁ、そうでしょうね」

「だから、あの時に俺が感じた『朝倉さんの胸を触ってドキドキした』って、気持ちは『朝倉さん』って個人に対してドキドキしたのか、それとも『女性の胸を触った』って事に対してのドキドキなのか分からないんだ! なぁ、委員長? 俺のこの気持ちは朝倉さんに対する『恋』なのかな? それともただの『性欲』なのか、どっちだと思う!?」

「死ねばいいと思うわ」


(はぁ……まさか、安藤くんが『恋』と『性欲』の違いが付かないほどに、ぼっちをこじらせていたとは予想外だわ……でも、安藤くんは少しだけど、朝倉さんへの『好意』を自覚しかけているはず。なら、どうにかしてそれを分からせてあげたいけど……)


「はぁ、仕方ないわね」

「委員長?」

「安藤くんって……私の事は異性として『好き』じゃないわよね?」

「はぁ、何言ってんの? 当たり前じゃん。委員長、自意識過剰なの?」

「……殴っていいかな?」

「何で!? 委員長が聞いてきたんじゃん!」


「はぁ……まぁ、いいわ。

 なら、安藤くん。私の『胸』を触りなさい」


「はぁ!?」







【おまけss】もしかの「もしも、安藤くんが『ぼっち』でなかったら?」




「安藤、おはよう」

「吉田、おはよう」

「……っ!」


(あ、安藤くんが来たわ! 安藤くんはこの学校で唯一私がラノベの話をできる男の子……今日も昨日読んだ『患者の医師を名乗る患者』の話をしたいわ!) ウズウズ


「あ、安藤く――」


「オーース! 安藤! おはようだぜ! 今日もいい天気だな! がっはっはっは!」

「あ、山田。今日もウザイね。おはよう」

「――…………」


(出遅れたわね……まぁ、いいわ。仕切りなおして――)


「あら、安藤――」


「ウェエーーイ! 安藤、ウェーイ!」

「ウェーイ! 沢渡ウェーイ!」


「「ウェーイ!」」 パシン! ← ハイタッチの音


「…………」


(くっ……またしてもタイミングを見失ったわ。でも、今度こそ――)


「安――」


「安藤~~♪ くーーん! おはようー」 ぶるんぶるん!

「桃井さん、おはよう!」

「…………」 スカーン


(うぬぅう……今出て行くわけにはいかないわ……理由は分からないけど、今出て行ったら決定的な『差』が何か現れてしまう……そんな嫌な予感がするのよ……よ、よし! モモが席に戻ったのを見送って今度こそ話しかけるわよ!)


「あ――」


「安藤くん! 貴方、図書委員でしょ!? 朝の当番はどうしたのよ!」

「委員長! ヤベ……忘れてた」

「忘れてたじゃないわよ! ほら、さっさと図書室に来なさい! 図書委員でしょ!?」

「アダダダ! 委員長、ストップ! 耳は引っ張らないで!」


「…………」


(な、何でこんなにタイミングが悪いのよぉおおおおおおおおおおおおおお!)




結論

 これはこれで面白そう。



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