第33話「妹」
『おにーちゃーん? 誰かいるのー?』
「ああ、安藤くんって……妹がいたの!?」
「うん、一つ下で同じ学校の一年だよ。妹はテニス部に入ってるから帰りはいつも部活でこれくらいなんだよね」
『おにーちゃーん? 何処ー? いないのー?』
「いるぞーーすまん、今日クラスの友達と一緒にテスト勉強でリビング使ってるわ!」
(と、友達っ! 今、安藤くん私のこと友達って言ったわよね? 安藤くんちゃんと私の事を『友達』って認識してくれてたのね!)
(正直、俺なんかが朝倉さんのことを『友達』っていうのはどうかと思うけど、もう互いの家に行っているくらいだし、朝倉さんも俺の事を少しは『友達』って思っていてくれるといいな……)
「…………」チラッ
「…………」チラッ
((と、友達……))
『はぁーー? お兄ちゃんウソ下手すぎだよ! お兄ちゃんが勉強とかありえないから。
てか、お兄ちゃん友達いないでしょーー?』
「…………」
「ブホッ!」
(妹の奴……)
(い、いけない……思わず噴出しちゃったわ。あ、足音がこの部屋に近づいて来たわ。安藤くんの妹さんってどんな子かしら?)
「お兄ちゃん、やっと見つけた。で、友達って一体誰のこ――」
「こ、こんにちは。その……安藤くんのお友達の朝倉です」
「――とぉ!? って、あああ、朝倉先輩!? え! お、お兄ちゃんこれどう言うこと! 何で朝倉先輩が家にいるの? お兄ちゃんの友達って――はっ!
まさか、誘拐……?」
「ねぇ、お前の中の俺って誘拐でもしないと朝倉さんを家に呼べない男だと思っているの?」
「え、お兄ちゃんに朝倉先輩を家に呼ぶ度胸があるの?」
「…………確かに」
「安藤くん、そこは否定して!」
(そうか、よくよく考えたら朝倉さんが俺の家にいるってすげえありえないことだもんな。なんか前に朝倉さんの家に行った事がある所為で感覚がマヒしてたぜ)
「てか、お前。朝倉先輩って言ってたけど、何で朝倉さんのこと知っているの? お前って朝倉さんと知り合いだっけ?」
「はぁ、これだからぼっちのお兄ちゃんは……お兄ちゃん、朝倉先輩って言ったらふつうウチの学校で知らない人はいないからね? むしろ、私からしたらお兄ちゃんが朝倉先輩と一緒にいることの方が謎なんだけど……ねぇ、お兄ちゃんの友達って本当に朝倉先輩なの? 妄想じゃなくて?」
「お前にはこの目の前にいる朝倉さんが、俺の作り出した妄想に見えるの?」
「私、妄想じゃないわ。本物よ」
「いや、ここにいる朝倉先輩を疑っているわけじゃなくてね。お兄ちゃんが朝倉先輩を『友達』だと思っていることが『妄想』じゃないの? ってこと、ほらテレビでもあるじゃない?『それはあなたの想像上の人物なのでは――』って」
「おい、止めろ。少し不安になるだろ!」
「安藤くん、不安にならないで! 私達ちゃんと『友達』でしょう!?」
(あ、あれ……? お兄ちゃんに女の子の友達とか絶対にありえないって思ってたけど……朝倉先輩のこの反応は……え、もしかして?)
「ま、まさかとは思いますが……朝倉先輩、本当にお兄ちゃんと友達なんですか?」
「う、うん……」
「脅されてるとかじゃなくて!? お金もらってるとかじゃなくて!?」
「なぁ、お前お兄ちゃんのことなんだと思っているの? お兄ちゃんにそんな度胸もお金も無いの妹のお前が一番知っているだろ?」
「あ、そうか!」
「ちょっと! これどこからツッコめばいいの!? 安藤くんも、ちゃんと私を『友達』って認めてよね!」
「あ、うん……ゴメン、朝倉さん。なんか、朝倉さんみたいな美少女が俺の『友達』って言うのが……嬉しさのあまり恥かしくて」
「んっな! ななな、何をい、言ってるのよ! べ、別に私は安藤くんと『友達』なのを恥かしいなんて思わないんだからね!」
「あ、朝倉さん!」
「…………」じーー
(ほうほう、これはこれは……最初はありえないと思ったけど、お兄ちゃん意外とやるじゃん! しかも、これは逃したら絶対に後悔する超大物!)
「てか、お兄ちゃん。勉強してるならリビングじゃなくて、お兄ちゃんの部屋ですればいいじゃん! 何でここで勉強してるの?」
「は、何言ってんの? 朝倉さんは女の子なんだから俺の部屋とかダメだろ?」
「ッ!」
「はぁ……」
(お、女の子! 私、安藤くんに女の子扱いされてるわ!)
(お兄ちゃんったら、家に呼ぶことはできるのに部屋には呼べないとか……)
「もう、お兄ちゃんのバカ! アホ! スカポンタン! このラノベオタク!」
「ちょっと待て! 何で俺いきなり妹にボロカスに言われてるの!? てか、ラノベオタクは関係無いだろ!」
「これだからお兄ちゃんはいつまでたっても心が『ぼっち』なんだよ……朝倉先輩だってせっかく家に来たんだから、お兄ちゃんの部屋を見たいに決まってるじゃん!」
「んなっ!」
「え、そうなの?」
(ダメ! そんなの思っているけど言えるわけ無いじゃない!)
「そ、そんな――」
「そうですよねーー? 朝倉先輩! 先輩だって、クラスメイトの友達の部屋は気になりますよね?」
(ん? 確かに異性ってわけじゃ無くてもクラスメイトの部屋って気になって当たり前よね)
「――ことあるわ! 私、安藤くんの部屋ちょーー見たいわ!」
「でぇえええええええええええええ!?」
「ほらね、お兄ちゃん! ほら、分かったらさっさとお兄ちゃんの部屋に案内しないと!」
「お、おう……じゃあ、朝倉さん。俺の部屋……見る?」
「うん!」
「どうぞ、ごゆっくり~~」
「…………」チラッ
(わ、私の気持ち……妹さんにバレては――)
(フフフ、朝倉先輩……お兄ちゃんのこと宜しくお願いしますね♪)
(うん、あの様子じゃバレてはいないみたいね!)
【おまけss】「クッキー」
「あ、安藤くん!」
「ん、何? 朝倉さん」
「えっと……そのーきょ! 今日の調理実習なんだけど! あ、安藤くんは結果どうだったのかしら?」
「ああ、今日のシナモンクッキーの調理実習だね。うん、それなら『ぼっち』の俺が普段かかわりの無い男子グループの中に班としてぶち込まれて、凄い空気が気まずかったこと以外は順調に終わったよ」
「安藤くん……」
「…………」
(ハハハ……『ぼっち』あるある。その1 突然のグループ分けという突発イベントでグループの空気が気まずくなる。あると思います!)
「そ、それは災難だったわね……」
「うん………」
(って、話はそれだけじゃないでしょ!? しっかりしなさい私! 今日の私の目的はこの調理実習で私が作った『シナモンクッキー』を安藤くんに渡すこと!
ふ、フン! たかが調理実習で作って余ったクッキーを隣の席の男子に渡すことなんて……か、考えてみれば『ふつう』の『よくある』行動よね! べ、別に変な意味とか特別な気持ちがあるってわけじゃないんだからね!?
そうよ……冷静になって考えてみたらたかが『余ったクッキー』をおすそ分けするだけじゃない! それだけのこと……何も問題ないわ! な、何も……ただ、ちょっとその『余ったクッキー』が、たまたま『ハートの形』で、たまたま『一つだけチョコミントのトッピング付き』で、たまたま『ピンクの可愛い袋にラッピングされている』だけよ!
う、うん! 何も問題ないわね!)
「あああ、安藤きゅん!」
「ん? 何かな朝倉さん」
「そ、その……く、くっ!」
「く……?」
「――っ!」 コクリ
(渡しなさい! 渡すのよ! クッキーを!)
「『クリオネ・ア・コード』って、ラノベあったじゃない? あれって安藤くんは読んだことあるのかしら? って、思って……あはは~」
「ああ、あれね! もちろん、読んでたよ! アレはね――」
(って、私のバカァアアアアアアアアアアアアアア! 何をヘタレているのよぉおおおおおおおおおおおお!
うぅう……こんなんじゃもう、改めて話を切り出すなんて――)
「あ! そうだ。朝倉さん、今日作った『シナモンクッキー』何個か余ってるんだけどいる?」
「ほへ!? く、くれるの!? しかも、安藤くんが作ったクッキーですって!」
「え、う、うん……別にクッキーが嫌いなら無理しなくても――」
「ぜぜぜぜ、是非、いるわ! 実は私、こう見えて三度の飯よりクッキーが大好きなの!」
「そ、そうなの? じゃあ、良かった。はいこれ俺が作ったクッキー」
「ふぁああ! 安藤くん、ありがとう! このクッキー一生大事にするわ!」
「いや、食べ物だから大事にしないで食べようね?」
(朝倉さん、凄い喜びようだな……きっとダイエットでもして腹ペコなんだろうな)
(うっひょぉおおおおおお! ままま、まさかの安藤くんからクッキーをもらえたわ! 何でか良く分からないけど、今日の私は超ラッキーよ! はっ、そうだわ!)
「こ、コホン……そ、そうね。私がもらうだけと言うのも悪いから、安藤くんにも私が調理実習で、たまたま『余ったクッキー』をお礼にあげるわね♪」
「え、本当? って、すごっ! このクッキー凄いね……やっぱり、女子はお菓子作りは気合が違うね」
「そ、そうね……」
「ありがとう、朝倉さん」
「ええ、こちらこそ、ありがとうね。安藤くん」
(やったわ! これで安藤くんにクッキーを渡せたわ! ウフフ~~安藤くん、私のクッキー『美味しい』って言ってくれるかしら♪)
(うん、このクッキーは帰ったら妹にあげるか。アイツこういう可愛いお菓子好きだしな!)
その日の夜
「安藤くんのくれたクッキー、私が作った奴より美味しいんだけど……」 スカーン!
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