第30話「まだ」



「ここの問題はまず意味を数字に置き換ええるんだよ。そうしたら、後はただの数式になるでしょ?」


(何だろう……さっきから異様に朝倉さんが俺にぶつかろうとしている気がする……気のせいか? でも、身の危険を数回ほど既に感じているんだよなぁ)


(安藤くん、意外と手ごわいわね。何故かさっきから機敏な動きでことごとく私のスキンシップを避けられてしまうわ。てか……)


「ちょっと待って! 安藤くん『数式になるでしょ?』っていいながら何でいきなり答えを書くの? 式は……?」

「え、式ってわざわざ書くの面倒じゃない?」

「何を……言っているの? 計算するのに式は書くでしょう?」

「いや、だからね。先ず問題を見るじゃん」

「うん」

「問題を解くのに必要な式を見つけるじゃん」

「う、うん」

「したら答えが頭に浮かぶじゃん」

「うん?」

「で、それを用紙に書くわけ。だから、分かっている回答式を後から書き足すの面倒だなーって……」

「まてまてまて! 安藤くん、何? テストの問題を全部暗算で計算してるの?」

「そうだよ」

「はぁあ!? ちょっと、安藤くんのテスト見せて!」

「テスト? えーと……あった! はい」

「どれどれ~~うわぁ……」


(ほ、本当だわ。安藤くんの数学のテスト……最後の文章問題以外全部、式が書いてないでいきなり答えだけ書いてるわね)


「よくこれで計算ミスしないわね……」

「大丈夫だよ。数学なんて式さえ分かってればあとはただの足し算と掛け算みたいなもんだからね。でも、いつも最後の問題だけは式を書かなきゃいけないから面倒なんだよね」

「そりゃ、最後の文章問題はいつも注意書きに『途中式も書くこと』って――まさか……?」

「うん、それ数学の先生が『いつも安藤は式を書かない癖に満点を取るから、最後の問題は安藤対策でうーーんと難しくした。もちろん式も書かないと減点だからな』って言って作った問題らしいよ」

「へーー……てか、私が数学で満点を取れない理由の一つに最後の文章問題がすっごーーーーく難しいって点があるのだけど?」


(つまり、私が数学で満点を取れないのって安藤くんの所為じゃない! 許さないわ! 安藤くん、これはちょっとやそっとのことじゃ――)


「大丈夫! その為に俺が朝倉さんに数学を教えるんだから! 絶対に俺が朝倉さんに満点を取らせてあげるよ!」

「うん!」 ズキューン!


(ヤダ……安藤くん、カッコいい! って……ダメダメ! 安藤くんのオーラにやられている場合じゃないわ。なんか私だけ安藤くんにドキドキされっぱなしなのも不公平よ! そろそろ、どうにかスキンシップを成功させて安藤くんをドキドキさせたいわね……よし、ここは一時離脱して委員長に作戦会議のメールをしましょう)


「安藤くん、私ちょっとお手洗いを借りてもいいかしら?」

「うん、場所は廊下を出て直ぐのところだから」

「じゃあ、少し離れるわ――あ」


(や、ヤバイわ……立ち上がろうとしたら足が思った以上に痺れて……ば、バランスが――)


「きゃあ!」

「え、朝倉さ――ぐぁあ!」


(うぅ……私とした事が足がもつれて転んでしまったわ……あ、あれ? でも、何故か転んだのに意外と痛くない?)


「うぅ……」

「え――って、安藤くん!?」


(嘘! 私、安藤くんを下敷きにして転んじゃったの!? あ、でもこれってスキンシップになるのかしら? やったわ! だったらこれで委員長からの目標はクリアよ!)


(いってぇ――何だ? 朝倉さんが転んできて……ああ、そうか俺は下敷きになったのか……まぁ、朝倉さんが無事なら――)


 もにゅ


((『もにゅ?』……何これ?))


「…………?」

「…………?」


(俺の手が――)

(私の胸に――っ!?)


「いやぁああああああああああああああああああ! 安藤くんの変態!」


(ヤバイ! これ朝倉さんの胸じゃねぇか! ダメだ……俺の理性に反して本能が手を朝倉さんの胸から離さない……ダイ●ンも驚きの吸引力だ!)


「い、いつまで触ってるのよ!」

「ありが……いや、違うんだ。朝倉さ――ぶはっ!」


(いにゃああああああああああああ! 私ったら安藤くんになんて粗末なものを……胸を! 私の胸をああああ、安藤くんが! 恥ずかしすぎて思わず安藤くんにビンタしちゃったわ……)


「お、お手洗い借ります!」

「…………どうぞ」



(こんなこと……まだ早すぎるわよ!)


(や、柔らかかっただと……!?)








【おまけss】もしかの「もしも朝倉さんがポンコツじゃなかったら?」




「安藤くん、おはよう♪」

「あ、うん。おはよう」


(いつも隣の席でラノベを読んでる安藤くん。隠れラノベオタクな私にとって話してみたいのだけど……思い切ってお昼に誘ってみようかしら?)


「うふふ。ねぇ、よければ今日一緒にお昼どうかしら?」

「…………」

「…………」


 シーン


(む、無視されたァアアアアアアアアアアアアア!?)


(朝倉さん誰に話しかけたんだろう? 俺……なわけないもんな。しかし、この世に『学校一の聖女』と呼ばれる朝倉さんのお誘いを無視するバカもいるんだなぁー)




結果

 どうあがいても、朝倉さんは安藤くんが絡むと残念になる。


* あと何故か、通り名が『学校一の美少女』から『学校一の聖女』になる。




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