第29話「スキンシップ」
「流石に俺の部屋はマズイし、場所はリビングでいいかな?」
「ええ、問題ないわ」
「良かった。じゃあ、朝倉さんは向かい側に座ってくれる?」
(本当は安藤くんの部屋が見たかったけど……そんな事言ったらはしたないわよね。で、でも……安藤くんの部屋がダメならせめて!)
「あ、安藤くん! その……座る場所なんだけど、安藤くんの向かい側じゃなくて隣じゃダメかしら……?」
「え! な、何で?」
(何! 何? 何!? 朝倉さんどうしたの? 何か最近になって前々から少し変だった朝倉さんがより変な行動をとるようになってきたんだけど!)
「か、勘違いしないでよね! 別にこれは安藤くんの隣が良いって訳じゃなくて、私は普段安藤くんの隣に座っているから向かい側の席で安藤くんの顔を見るのはなれていないのよ! だから、ととと、隣ならいつもどおり見慣れた安藤くんの表情で緊張しないから隣に座りたいだけなんだからね!」
「ん、んん? んんん??? お、おう……」
(ふ、ふぅ……な、なんとか誤魔化せたかしら? ちょっと緊張しちゃったからなんて答えたかあやふやだけど、概ね『向かい側だと安藤くんのノートが見づらい』って答えたわよね? 流石は私だわ! 緊張しててもこんな咄嗟に素晴らしい言い訳が思い付くんですもの!)
(何だ? 朝倉さんは今なんて言った? なんか、まるで『いつも隣の席で貴方の顔を見てます』宣言された気がするんだけど……? へ、朝倉さんっていつも授業中に俺の顔見てるの!? Why? 何で? やっぱり、朝倉さんは俺の事を――いやいやいや! 惑わされるな安藤! ぼっちは一日の幸福指数が少ないから少しでもうれしい事があると直ぐに自分の都合のいい方に考えちまう……希望を持つな! 願望を抱くな! 善意は全て社交辞令だと思え!
…………ふぅ、よしもう大丈夫。朝倉さんも俺の家に呼ばれてッ緊張しているみたいだし、きっと今のセリフは咄嗟に出てしまっただけで、朝倉さん本人も何を言ったかろくに分かっていないのだろう。なら、俺にできるのは何も無かったかのように流してあげる事だけだ)
「じゃあ、隣に……どうぞ」
「し、失礼します……」
「………………」
「………………」
((な、何か話さないと!))
「じゃあ、先ずは数学から始めましょうか?」
「そうだね。でも、朝倉さん相手に俺が教えれる所ってあんまり無いけどね」
(さて、この勉強会で私の目標は『スキンシップで安藤くんの体に触る』こと…………でも、スキンシップってどうやればいいのかしら? うーん、そうだわ! こんな時こそ普段読んでいるラノベを参考にしたらどうかしら! えーと、最近読んだラノベの展開なら、こういうときは……)
「じゃあ、朝倉さん。先ずはこの前やった実力テストのこの問題を復習しようか?」
(来たわ! これはラノベなら、私が『え、どれどれ?』って安藤くんに顔を近づけ過ぎて、安藤くんが『え、うわっ!』って言いながら、近づきすぎた私の顔の距離感に驚いて胸がドキドキするシーンよ! よ、よぉーし!)
「え! ど、どれど――」
「あ、消しゴム落とした」
(あれ? 何か安藤くんの顔が急に近く――)
(あれ? 何で朝倉さんの顔がこんな近く――)
「れ――っおが!」
「え、ぐぎゃぁあ!」
(痛――い! 何で安藤くんの顔が近づいて……うぅ、思いっきり安藤くんと頭突きをしちゃったわ……これじゃあ、胸が『ドキドキ』じゃなくて頭が『ズキズキ』よ!)
「あ、朝倉さん。大丈夫? かなり勢い良くぶつかっちゃったけど?」
「え、ええ……ごめんなさい。少し、目測を誤ったわ。てか、安藤くんは痛くないの? 結構思いっきりぶつかっちゃったけど?」
「ああ、大丈夫。俺意外と石頭だから」
「そ、そうなのね」
(まさか、朝倉さんがこっちを覗き込もうとしていた時に頭を下げるとは迂闊だった。ただでさえ狭いテーブルに二人並んで座っているんだ。思わず体が密着しそうになるけど、それよりも今みたいに迂闊にぶつからないように気をつけないと……)
(うぅ……さっきは失敗したけど、今度こそ! 今度こそは! 次はタイミングを見計らって安藤くんがテーブルに手を伸ばしたタイミングで互いの手が触れ合ってしまう作戦よ!)
「朝倉さん、それでここの問題なんだけど――」
(来たわ! 今、安藤くんが指を刺そうとしている問題は『問8』! よし、そこに私の手を同じタイミングで重ねる!)
「この問題かし――」
「あ、この教科書! こんな所に誤字がある!」
(え、安藤くん、何でこのタイミングで教科書を引き戻すの……?)
「――らぁ!」 グキィ!
(あ、痛――っ! 指をくじいた……って、あ、ちょっと勢い付けすぎて止まれな――)
ズガーッン!
「えええええええええええ! あ、朝倉さーーん!? 何で勢い良くテーブルに頭から突っ込んだの!?」
「………………虫がいたのよ」
「そ、そうなんだ…………てか、指痛そうだけど大丈夫?」
「……だ、大丈夫だもん」
(何だ何だ? 今日の朝倉さんは本当に変だぞ?)
(次こそ! 次こそは……っ! 安藤くん、勉強会はまだ始まったばかりよ! 絶対今日中に貴方の体にタッチしてあげるんだから覚悟しなさい! 貴方の回避能力が勝つか、私の体が自爆の怪我に耐え切れるか勝負よ!)
(てか、何で俺は朝倉さんに触れないようにしているのに、さっきから朝倉さんは俺に突っ込んで来るんだ!?)
【おまけss】もしかの「もしも朝倉さんが巨乳だったら?」
「安藤くん、おあはよう♪」 ぶるんぶるん!
「あ、朝倉さん……おはよう」 チラ
(むにょにょ~♪ もーう、安藤くんったらまた私の『おっぱい』をチラ見してるわね~♪
本当に安藤くんったら『私のおっぱい』が好きなのね~うにょにょ♪)
(いかんいかん……不意に声をかけられたからと言って俺ってばまた『学校一の美少女で巨乳な朝倉さん』のおっぱいをチラ見してしまった……朝倉さんをそんな目で見るなんて俺は何て最低なんだ! よし、もう今日は『おっぱい』なんかに負けないぞ!)
「安藤くーん? おーはーよ♪」 ボイーーーーン!
「ふぇあ!? もも、桃井さん!? お、おはよう……」 じーーーー
「…………」
(なななな、何で私の時は『チラ見』なのに……モモの時は『ガン見』なのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)
結果
朝倉さんが巨乳になっても『おっぱい』では、桃井さんに勝てない。
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