第25話「ニックネーム」





「そういえば、桃井さんが朝倉さんのことを『サクラ』って呼んでたけど、朝倉さんの名前って『さくら』じゃないよね?」

「ああ、あれはニックネームよ。私が『ももい』から『い』を抜いて『モモ』って呼ぶように、モモは私の苗字の『あさくら』から『あ』を取って『サクラ』って呼んでいるのよ」

「へ~そ、そうだったんだ」

「うん……」

「…………」

「…………」


「ダメね。なんか白々しいわ。二人ともやり直しよ」


「何で! 委員長の言うように、朝倉さんと『友達みたいに親しく会話』したじゃん!」


(何で委員長はいきなり『朝倉さんと仲良くなる為に、先ずは友達みたいに親しく会話して』なんて言ったんだ?)


「い、委員長! これ以上は流石に私も……」


(ダメだわ! 委員長の前だとうかつにラノベの話題出せないし、安藤くんに食べている所を見られているのが恥かしくて、そもそも上手く話せないわ!)


「何言っているのよ? 二人は最近よく話しているから『友達なんでしょ?』って聞いたら二人とも『え、ちょっと分からない……』とか言うから私が『じゃあ、今ここで話し合って友達になりなさい!』って言ったんじゃないの」

「いや、だから……そもそも何で俺が朝倉さんと友達になるの?」

「逆に言うけど、安藤くん。私からしたら貴方と朝倉さんはもう十分に『友達』だからね?」


「「え!?」」


「何で二人ともそれで驚くのよ……だから、私からしたら未だにお互いが『友達』だって言い切れていないことのほうが謎なのよ」

「うぅ…………」

「むぅ…………」


(いや、だってそもそも学校一の美人の朝倉さんとぼっちの俺とじゃ身分がつりあわないというか……こんな俺が朝倉さんと『友達』だなんて言うのは――)


(だってだって! 安藤くんは私の事なんかただの美人なクラスメイト程度にしか思っていないけど……わ、私は安藤くんの事を異性として見ているわけで、そんな下心満載の私が安藤くんと『友達』だって言うのは――)


((お、おこがましい気がする…………))


「……あ、あははは」

「……え、えへへへ」


(いや、どう見ても貴方達……超お似合いだからね?)


「はぁ、これだから……」


(でも、だからこそ私が二人をけしかければいいのよ! あの二人に必要なのは……そう! 既成事実!)


「って、事で二人の仲を深める為にちょっとしたゲームでもしてもらおうかしら?」


(何ッ! ゲーム……だと?)


(……げーむ?)


「ふふふ、ぼっちにゲームを仕掛けるとは……委員長、ぼっちは一人の時間が多いからゲームが強い事を知らないな? いいぜ、その勝負受けた! どんなゲームだろうとノーコンテニューでクリアしてやるぜ!」

「委員長、それってどんなゲームなの?」

「丁度この前、中間テストに向けた実力テストがあったでしょう? 二人でじゃんけんして勝った方が好きな教科を言ってその教科の点数が高かった方が勝ちよ。因みに負けた人が勝った人に料理を『あーん』してもらって食べてもらうわ」

「ちぃおっと、待って!?」

「何よ? ノーコンテニューでクリアするんじゃなかったの?」

「いやいやいや! そもそもそれゲームじゃないじゃん! てかそれ俺が勝っても負けても罰ゲームだよね!? 大体そんなゲームを朝倉さんがやるわけ――」

「やるわ」

「――ぇええええええええええええええ!?」


(何で朝倉さんやる気になってるの!)


(安藤くんに『あーん』で食べさせる……安藤くんに『あーん』で食べさせる……安藤くんに『あーん』で食べさせる……安藤くんに『あーん』で食べさせる……安藤くんに『あーん』で食べさせる……安藤くんに『あーん』で食べさせる……)


(うおぅっ! あ、朝倉さん思ったよりやる気ね……安藤くんは凄い嫌がっているけど、こんな美人な女の子に『あーん』で食べさせてもらえる罰ゲームなんだから別にいいでしょ)


「因みに、これを拒否したらこの前、安藤くんが提出した図書室の入荷希望リストのラノベ全部却下するからね」

「ぎうっ! それを人質に取るとか……この悪魔! いや、サタン! むしろ、サタナキア!」

「はっ……褒め言葉と受け取っておくわ。ほら、朝倉さんチャッチャとやっておしまい!」

「う、うん! ありがとう委員長!」

「朝倉さん、何でお礼言うの!?」

「あ、安藤くん、いくわよ!」


「「じゃんけんぽん!」」


「やった! 私の勝ちね……教科は『国語』よ!」

「『国語』ね。じゃあ、朝倉さんと安藤くん、二人の点数は?」


「96点よ!」

「……46点です」


「勝者、朝倉さん!」


「え、あ、安藤くん……国語苦手なの?」

「いえ……国語は割りと『ふつう』です」

「ふ『ふつう』……? ラノベ読むのにこれで『ふつう』?」

「文章問題は得意なんだけど、漢字とか古文とか無理……」

「はい、敗者の安藤くんには朝倉さんから料理を『あーん』で食べてもらいマース」

「ちょ! い、委員長!? 何で背後を取るの! 逃げられないじゃん!」

「だから、背後を取るんでしょ! さぁ、朝倉さん今のうちに私は気にしないで安藤くんをやって!」


(い、委員長! そこまでして私の事を応援してくれて……っ!)


(さぁ、朝倉さん! ここまでお膳立てしたんだからさっさと既成事実を作って『友達』なんて認識の枠をぶち破って安藤くんをメロメロにしちゃいなさい! そして、私を相談役なんて役職から解放して!)


「はい、安藤くん『あーん』して?」

「…………」

「ほら、朝倉さんもこうしてぼっちの安藤くんに食べさせてくれようとしているんだし……そろそろ観念したら?」


(俺は今、食堂で多くの男子生徒から殺意のこもった視線を向けられた中……委員長に背後から押さえつけられ、朝倉さんに食堂のごはんを『あーん』で食べさせられようとしている……

 どうしてこうなった?)


「はい……安藤くん『あーーーーーん』」

「や、ヤメロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」



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