第21話「手紙」





「あのね……その笑わないで欲しいのだけど、実は私! あ、あああ、安藤くんと一緒にお昼ご飯を食べたいの!」

「え……朝倉さん」

「何かしら……」


(さぁ、心の準備はできているわ! どんな返答もバッチこいよ!)


「その――何でそれをクラス委員長の私に言うのかな?」

「だって、安藤くんを誘うのが恥かしいのよぉおおおおおおおおおお! 委員長、私の恋を応援してくれるって言ってたじゃない! ねぇ、お願い! どうにかして安藤くんをお昼に誘う方法を一緒に考えてよぉおおおおおおお!」


(あーーなるほどね。どうして急に私が朝倉さんに図書室に呼び出されたのかようやく理解したわ)


「うーん、どうするも何も……さっき朝倉さんが私に言ったセリフをそのまま安藤くんに言ったらいいんじゃないのかな?」

「そんな事言えてたら苦労しないわよぉーーっ!」

「…………ウン、ソウダネ」


(うわぁ、メンドくせ~~)


「じゃ、じゃあ……手紙に書いて渡せば?」

「それよ!」



 キンコーンカーンカンーコーン♪



(ふふふ……安藤くん、今日こそは私と一緒にお昼でラノベ話に花を咲かせてもらうわよ! 幸いなことに私は安藤くんの真横の席! 授業中に手紙を渡すのも楽勝よ! 手紙もこの通りあらかじめ書いたしね)


「えー、この式が次のテストに出ます。あと、ぶっちゃけると教科書の問③もそのままテストに出ます。少しでも点が欲しい人はちゃんとノートを――」


(さて、この手紙を安藤くんに渡すわよ!)


「安藤くん……安藤くん」

「え、朝倉さん?」

「こ、これ……」

「これは……手紙?」

「そう」コクコク


(やった! 安藤くんが手紙を受け取ってくれたわ! これで――)


(何だろう? 朝倉さんから手紙が渡てっ来たぞ……? こういうクラスで手紙を回すのって俺『ぼっち』だからやったこと無いんだけど、とりあえず前の奴に渡せばいいのか?)


(って、ええええええええええええええええええええええ! あああ、安藤くん、何でもらった手紙を前の席の人に渡しちゃうのよ! もらった子も誰宛か分からなくて……どんどん他のクラスメイトに回してるしぃいいいいいいいい! ヤメテーっ! その手紙を安藤くん以外に読まれたら私恥かしくて死んじゃうぅううううう!)


「………………」


(何故か朝倉さんが安藤くんへ書いた手紙がクラス委員長の私にまで回ってきたんだけど……横からその様子を見ていたけど、朝倉さん手紙の表面に『朝倉より』って書くから皆、誰宛か分からず中を開かないで回し続けたのね……確かに、あの朝倉さんの手紙を間違って開けたら、気まずいから開けないで手紙を読まずに回すのは分からなくもないけど……てか、安藤くんは流石に自分宛だって気付きなさいよね)


「因みに、朝倉さんどんな手紙書いたんだろう……」 ビリ





『拝啓、安藤様。

 突然のお手紙失礼します。

 いつも私と挨拶を交わしてくれてありがとうございます。貴方様と声を交わせるだけで私の心臓は早鐘を打ちつけこの胸を焦がします。

 さてさて、実は本日からこの学校の食堂に春キャベツをふんだんに使用した新メニューが追加されるそうです。

 もし、安藤様のご予定の都合が付きましたらこの機会に私とご一緒にその新メニューを堪能してもらえますでしょうか。

 良い返事を心よりお待ちしております。

                朝倉』




(…………前半、ラブレターかと思ったわ)










【おまけss】「朝倉さんの華麗なグルメ」




「皆、今日はお昼に誘ってくれてありがとうね」


『はーい!』


(ウフフ、今日のお昼はクラスメイトの女子に誘われて女の子十人で一緒に学食よ。私も普段からよくお昼を一緒にする親友はいるけど、それでもクラスの内外問わず私とお昼を共にしたいって子達は良く現れる。だから、こうしてたまにはそういう子達ともお昼を一緒にするようにしているのよね)


「わ~あの朝倉さんと一緒にご飯が食べれるなんて光栄です!」

「とっても嬉しいフレンズなんだね!」

「私、今日は奮発して春キャベツのスペシャルメニュー頼んじゃいます!」


(フフ、皆楽しくていい子達ね)


「じゃあ、食べましょうか? いただきます」


『いただきまーす!』


(やっぱり、お昼はこうして大勢でにぎやかに食べるのがいいわよね。じゃあ、私も頼んだハンバーグプレートを食べようかしら)


「でも、私……朝倉さんが『ハンバーグ』を頼むなんてビックリしました」

「とっても意外なフレンズなんだね!」

「私もです! 朝倉さんって『優雅』で『気品』のあるイメージだからもっと『スパゲッティー』とか『おしゃれなメニュー』をイメージしてました」


(まぁ、そうよね。でも、ハンバーグは私の大好物だし、それでイメージが崩れようが私は特に気にしないのだけどね。だって、そんな薄っぺらいイメージなんか私は必要してないもの)


「ウフフ、そんなに私が『ハンバーグ』を頼むのが意外かしら? これでも、私こういうメニューが好きなのよ。フフ、なんだか子供っぽいでしょう?」


(だからこそ、私は堂々と『学校一の美少女』の仮面を被ったまま大好きな『ハンバーグ』を食べるわ!)


「そんな! 子供っぽいなんて全然! むしろ、朝倉さんが食べる事で『ハンバーグ』がまるで高級フレンチにさえ見えてきます!」

「とっても美味しいフレンズなんだね!」

「それに、朝倉さんのナイフとフォークの使い方も上品です! 朝倉さんにかかれば『ハンバーグ』も『おしゃれなメニュー』に早変わりです!」


「フフフ、ありがとうね。でも、人に食べる所を見られるのは少し気恥ずかしいわね」


『う……す、すみません』


「ウフフ、別に慣れているからいいのよ?

 あーん……」パク


『…………』 じー


(((きっと、朝倉さんのことだから、食べた瞬間にグルメ番組のリポーターも顔負けするようなすっごい『オシャレ』で『上品』で『優雅』な味の解説があの口の中で行われているんだろうな……)))



(美味ッ! 何これメッチャ美味いわ! このハンバーグ超美味いわ!)



「……うん、美味しいわね♪」 パクパク♪




 これが、安藤くんと出会う前の【朝倉さん(完全体)】の姿である。







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