第16話「視線(サイン)」
「あ、あの……安藤くん、おはよう!」
「あ、うん。おはよう、朝倉さん」
(何だろう? 今日の朝倉さんはいつにもまして挙動不審だな)
(ヤダ! 今まで挨拶くらいならふつうにできたのに……安藤くんへの『恋』を自覚したら、朝の挨拶でさえ恥ずかしくなってきちゃったわ!)
(うーん、朝倉さん一体どうしたんだろう……あれかな、トイレでも我慢してるのかな?)
(それもこれも……全て安藤くんがこの本を私にくれたから)
(あ、あれはこの前、俺が朝倉さんにあげた『ソノタの心臓を食べたい』じゃん。朝倉さん、あの本を取り出して急にニコニコしだしたけど……よっぽど、あれが気に入ったんだろうな! よし、今度あの本の感想を話せる日が楽しみだ)
(この本を私にくれた事といい、この前のお見舞いのセリフといい安藤くんが私に気があるのは確かなはず。で、でも……イマイチ自信が無いわ。でも、だからといって本屋さんの時のような失敗はしたくないし…………できれば、それとなく私の気持ちをアプローチして安藤くんから告白させるようにしたいわね!)
(ん、何だ? 朝倉さんが急に本を抱えながら意味深な視線を送ってくるんだけど……)
(安藤くん……この本は私の大事な宝物よ。だから、これを大事に持っている私の気持ちも気付いてくれるわよね?)
(朝倉さん、もう直ぐ授業が始まるけどトイレは行かなくて大丈夫なのかな?)
(じーーーーーーーーーー)
(何かじっと見つめてきてる…………)
(じーーーーーーーーーーーーー)
(……ん? もしかしてこれ俺に何か期待してる? いや、何をだ……?)
「あ、あの……朝倉さん?」
「は、はい! なんでしょう、安藤くん!」
(うっわ! 何かすげぇ食い気味に反応してきた!)
(も、もしかして、私の気持ちに気付いてくれた!)
「えっと……その――本、どうだった?」
「うん! 凄い泣ける話で感動したわ!」
「だよね! 俺も同じだよ!」
(『俺も同じ!』つまり、私達は『両思い』ってことかしら!?)
(なんだ。ただ本の感想を言い合いたかっただけか……)
(うふふ……これは私達、付き合うのも時間の問題ね!)
(学校では『ぼっち』の俺だけど、朝倉さんとはいい『友達』になれそうだ)
【おまけss】「乙女の秘密」
「それにしても、俺が朝倉さんとこうしてラノベの話をする日が来るなんて……きっと、高校入学直後の俺に言っても信じないだろうな」
「うふふ、そうね。私もまさか、自分が『ラノベ好き』なのを公言できる相手が高校で出来るとは思っていなかったわ」
「だよね。じゃあ何で『俺と朝倉さんが仲良くなったのか?』って言うのなら、それはもう……」
「そ、そうね……」
(そう、まるで私と安藤くんが出会ったのは……いうなればまさに!
『運命』しかな――)
「きっかけは『トイレ』だよね!」
「ヴェ?」
(安藤くん……何を言っているの?)
「だって、俺が朝倉さんと初めて会話したのって『トイレ』の話だよね? 正直あの話をするまでは俺、朝倉さんとは身分(クラスカースト)が違うから迂闊に話しかけれないって思ってたもん」
「そ、それはそうだけど……」
(でも、きっかけが『トイレ』だけはやめてぇええええええええええええええええ!
違うの! 安藤くん!? 私達の出会いは『運命』であって、そんな『トイレ』なんて花も夢もあったもんじゃないわよ!)
「あ、安藤くん……もう少し言い方って物があるんじゃないかしら?」
「え、何が?」
「ヒョッ!?」
(『何が?』ですって!? 貴方それ本気で言っているの! 安藤くんは私達の出会いが『運命』じゃ無くて『トイレ』で本当にいいの?)
「そういえばトイレで一つ気になった事があるんだけど」
(え、安藤くん。この期に及んで『まだ』トイレの会話を続けるの!?)
「な、何かしら……?」
「女子もトイレのドアってノックするの?」
(いやぁ、朝倉さんにトイレの話をしちゃった後に気付いたんだよね。ほら、男子の場合だと個室が閉まってたら大抵は時間がかかるからノックして急かされるけど、女子トイレって全部個室でしょ? そしたら、相手が時間かかるか分からない状態でドアをノックするのかな~? って、思ったんだよね)
「…………安藤くん、貴方に一ついい事を教えてあげるわ」
「ん、何?」
「女の子はね……『トイレ』に行かないのよ♪」
「うぇえ! で、でも――」
「『トイレ』に行かないのよ♪」
「だけど――」
「『ト・イ・レ』に……行かないのよ♪」 ゴゴゴ!
「あ、はい……」
(この日、俺は『女の子』のヒミツを一つ知った)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます