第15話「自覚」
「…………」
(安藤くんが私の部屋にいる。いや、何で?)
「あ、朝倉さん?」
(夢かな? ダメだ。ほっぺつねったけど痛いわ。痛いってことは……現実?
って、現実!?)
「もふょ!」
「え! も……何だって? 朝倉さんどうしたの!」
(朝倉さん、突然固まったと思ったらいきなり奇声を上げ始めたけど、やっぱり体調が悪いのかな?)
「ななな、何でもないわ! ただいきなり安藤くんが現れてビックリしただけよ! それより、何で安藤くんがいるのよ!」
「え、ああ、そうだよね。いきなり来てごめん。実は学校のプリントを届けるついでにお見舞いに来たんだ」
「ふぇ……安藤くんが私のお見舞いに?」
「う、うん」
(やっぱり、お見舞いだからって部屋に上がるのはまずかったのかな――……でも、朝倉さんのお母さんが玄関で『あら……あらあらあらあらあららららら~~』ってものすごく『あらあら』言いながら『ついでだから会ってあげて、その方が面白――じゃなくて、あの子も喜ぶわ~』って言うから上がったけど……)
(あの安藤くんが私のお見舞いに来たの!? 一人で? しかも、安藤くん自ら! ああ、そうか……私、きっと死ぬんだわ)
「じゃあ、私は重い病気でもう長くないのね……でなければ『ぼっち』の安藤くんが私なんかのお見舞いに来てくれるわけないもの」
「いや、朝倉さん。流石に俺もお見舞いくらいは行くからね?」
(……どうやら安藤くんは本当に私のお見舞いに来てくれたらしい……信じられない。まさか、これが病人パワーというものだろうか?)
(てか、俺さりげなく朝倉さんに『ぼっち』ってディスられなかった?)
「そういえば朝倉さん、ピンクのクマさん柄とか……意外と可愛いパジャマ着るんだね」
「へ……って、きゃああああああああ! 私ったらパジャマ姿のまま! いやあぁああああ! 安藤くんこんな私を見ないで!」
(うぉ! 朝倉さん今更自分がパジャマなのに気付いてベッドの中にもぐりこんじゃった。なにもそこまで恥ずかしがらなくてもいいんじゃないのかな? どうせ、見ているのは俺だけなんだし)
(やだやだやだ! 私ったら安藤くんになんて姿を! これがせめて別のクラスの子ならそこまで恥ずかしくないけど……よりにもよって安藤くん! 嫌だわ! 安藤くんの前だけでは私はいつもどおりの完璧な美少女でいたいのよ……って、何で安藤くんにだけそう思っているのよ! 別にこれは……そう! 唯一のラノベ仲間である安藤くんにガッカリされてラノベの話ができなくなるのが嫌なだけなんだからね!)
(お、朝倉さんがベッドから顔だけ出したぞ)
「そ、その……取り乱してごめんなさい」
「う、うん」
「今日は来てくれて……ありがとう」
「うん、朝倉さんは体調大丈夫なの?」
「ええ、この様子なら明日は学校に行けそうだわ」
「そうなんだ。なら、良かった。実は今日、これを朝倉さんに渡そうと思って持って来たんだ」
「これは……ラノベ? それに二冊も」
「うん、ほら……この前書店で朝倉さんにラノベをプレゼントするって言ったでしょ? でも、あの後結局うやむやになってたから……」
(うぅ……そうだわ。あの時、私が変な事を言ってあまつさえ自分の家に招いた所為で安藤くんからラノベをプレゼントしてもらえなかったのよね……って、まさかこれは――)
「うん、その時に朝倉さんへ買えなかったプレゼント。あの時、朝倉さん俺が好きなラノベを読みたいって言ってたから好きなの選んで持って来たんだ」
「…………安藤くん」
(一つは無難に朝倉さんの好きそうな異世界モノにしたけど、朝倉さんが既に読んでいる可能性もあったから、予備として異世界モノじゃないのも選んだんだよね)
(うれぃいいいいいいいいいいいいい! ひゃっほぉおおおおおおおい! 安藤くんちゃんとあの約束覚えてくれていたのね! しかも、二冊もくれるなんて! 嬉しい! 嬉しい! 本当に嬉しいわ!)
「ま、まぁ! ありがたく受け取ってあげるわ!」
「うん、そうしてくれると俺も嬉しいよ」
「で、何のラノベなの? えーと『e!? : アホから始める異世界生活』……?」
(おっ! この反応は朝倉さん読んだ事無いみたいだな!)
「うん! これは『なろう』の異世界転移モノでも特にオススメだよ。主人公は『死んだら時間が巻き戻る』っていう『死に戻り』の能力を得るんだけど、その能力は使うたびに主人公が『アホ』になっていくんだ。主人公は段々と『アホ』になっていく自分に恐怖を覚えながらもヒロインを助ける為に何回も死んでアホになっていくんだ!」
「へ~なるほど……強い能力を使わなきゃいけなくなるジレンマ系の作品ね。実に私好みだわ。それと、もう一つは……『ソナタの心臓を食べたい』? え、これ一般文芸じゃないの?」
「そう! それは『なろう』では珍しく一般文芸で出ている『なろう』作品なんだよ!」
「ええ! 『なろう』の作品で一般文芸で出てるのがあるなんて私初めて知ったわ!」
「これは主人公の冴えないぼっちの男子高校生が学校一の美少女に恋をする話なんだよ」
(え……『冴えないぼっちの男子高校生』? 『学校一の美少女』? なんかその設定今の私達に似ていない?)
「でも、実はその美少女の正体はバンパイアで、主人公は――」
(って、ことは……『主人公がヒロインに惚れている』って部分も――……ッ!
ももも、もしかして、安藤くん! 私達と似ている設定の小説を渡すことで……さりげなく私に『気』があるアピールをしているつもりなの! まさか! いや、でも、それしか……どど、どうしよう! 私、今彼に求婚されているわ!)
(いや~~この小説は最近読んだ中でも特にお気に入りの作品だったんだよな! 朝倉さんも俺が好きな作品を読んでみたいって言ってたし、是非一度読んでもらって感想とかを言い合いたい! それにしても、この小説の設定何処かで読んだ気もするんだよな……?)
「あ、あああ……ありがたく受け取っておくわ」
「うん!」
(どうしよう……これって返事をした方がいいのかしら? でも、もし違ったらこの前の本屋さんの二の舞に――とりあえず、無難な返事をしましょう!)
「安藤くん、今日はお見舞いに来てくれて本当にありがとうね。実は風邪で落ち込んでいて少しさみしかったのよ。でも、安藤くんが来てくれたおかげで……元気がでたわ」
「朝倉さん」
(そうだよな。朝倉さんは風邪を引いているんだ。なのに俺は彼女の心配と言うよりも……)
「ごめんなさい…………朝倉さんを心配してお見舞いに来たって言うのは嘘なんだ」
「え?」
「朝倉さん言ってたよね『心配してお見舞いに来てくれるなら誰であっても嬉しい』って……」
「うん」
(あっ、やっぱりこれ夢だったんだわ。きっと、ここから『本当は先生に言われて来ただけ』とか言われて目が覚めるんだわ。きっと、そういういつもの『夢』に違いないわ。だから、泣くな私!)
「俺、今日は本当は別の目的があって朝倉さんの所に来たんだ」
「別の……目的? あ、このプレゼントのラノベを渡しに来たのよね!」
「……違うんだ」
(えぇ……ま、まさか『朝倉さんのお母さんに会いに来たんだ!』とか言わないわよね……? や、止めて! それは本当に泣いちゃうわよ!)
「っじゃ……何が目的だったの?」
「…………」
(言え! ちゃんと朝倉さんに言って謝罪するんだ俺! じゃないと、風邪で寝ていた朝倉さんに失礼だろ!)
「俺、本当は――『朝倉さんに会えないのが寂しくて』俺の為に朝倉さんに会いに来たんだ!」
(ほら来たー、やっぱりこれは夢――って)
「………………はぇ」 ズキュゥウーーンッ! ← 朝倉さんのハートに何かが突き刺さる音
「本当にゴメン! 朝倉さんは病気なのに俺は自分の事しか考えなくて会いに来ちゃって……朝倉さんも風邪で寝ているのに迷惑だよね」
(ほえぇえええええええ! ちょっと待って! まってまてまてまて! ウソ!? 何これ、この胸が温かくなる気持ちは? ああもうダメ! 彼の言葉が嬉しくて顔がニヤけちゃう!)
(朝倉さん、ついに顔をベッドの中に潜り込ませちゃった。そうだよな……親切でお見舞いに来てくれていると思った相手が、実は『ただ会いたかった』って理由で来て寝ているところを起こされたんだからふつうは怒るよね)
「ゴメン、今日はこれで帰ります!」
(安藤くん、帰っちゃった……)
『朝倉さんに会えないのが寂しくて』
(本当は分かっていた。でも、私は『それ』を認めるのが怖くてずっと自分のその気持ちに『プライド』と言う名の蓋をしていたのだ。しかし、今その蓋は安藤くんのその言葉によって完全に粉砕された。そして、ついに私はその気持ちを自覚してしまったのだ)
「どうしよう……私、安藤くんに恋してるわ」
【おまけss】「ラノベ原作アニメ」
「朝倉さん、俺は本来ラノベ原作アニメは一クールで一,二巻派の人間なんだ……」
「安藤くん、いきなり何の話?」
「いやね。ここ最近のテンプレラノベアニメ? 特に一,二年前の『M』や『F』な文庫のラノベアニメ作品を筆頭に、どれもアニメの一クールで原作のラノベ五巻、下手したら既刊全部の内容を一気にアニメでやってたじゃん。俺ってああいうのは否定派だったんだよね」
「ああ……そう言う事ね。確かに分かるわね。やっぱり、ラノベをアニメにしようとしたら精々二巻程度の内容が話をはしょりすぎないでベストって感じがするわ」
「そうなんだよ! もともとラノベって一冊の中で話が完結しているものでしょ? それなのに、アニメの一クールってくくりで五巻以上の原作を詰め込んだら一巻ごとに書かれている大事なテーマを何処かしら端折らなくちゃいけないんだよ!」
「そういうのって原作ファンからしたら『原作のあのシーンが見たいのにどうして無いんだー!』とか『このセリフはあの章の展開をアニメでやらないと伝わらないでしょぉおおおおおおおお!』みたいなのが出てくるわね」
「そうなんだよ! 流石は朝倉さんだね。やっぱり、朝倉さんだけは俺のことを分かってくれるよ」
「ふぇ! そ、そうかしら……?」
(ムホホッホ! ニュホォオオオオ! 安藤くんが私のことを『やっぱり、俺達はラノベという運命共同体でつながってハートが以心伝心なんだNE☆』みたいなことを言ってくれたわ!!) ← 浮かれすぎて少し頭がポンコツになってます。
「でもね。俺は間違ってたって、最近のあるラノベ原作アニメを見て気づいたんだ……」
(最近のあるラノベ原作アニメですって? それはまさか――) キュピーン!
「安藤くん、それって……」
「うん、朝倉さんそうだよ」
「「ナ-マーズ!」」
「やっぱり!」
「うん! ナマズ好きで『ぼっち』の主人公が『学校一の美少女』が所属するナマズ大好き同好会に誘われることから始まるすれ違い系ラブコメ作品なんだけど、あれってアニメが十話で原作の四巻まで進んでいるんだけど、構成と脚本が上手くまとめてあって要所要所端折ってはいるんだけどそれがアニメとしてはいいテンポになってて、うぁああああ! ラノベアニメってこういう見せ方があったのか! って妙に感心しちゃったよ」
「分かるわ~私も最初は『え! 七話で三巻の内容に入ったけどこれ何巻までアニメやるの!?』って不安になったけど、今ではすごくよく作られているって思うわ」
「本当に『ナ-マーズ!』面白いよねー」
「そうね。安藤くん!」
「まぁー」
「でも……」
((『ぼっち』の主人公が『学校一の美少女』に好かれて始まるすれ違い系ラブコメなんて、実際にはありえないよねー))
「「アハハハ~♪」」
この数日後、彼女は恋に落ちた。
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