第11話「ぼっち三原則」





「…………」

「…………」


((き、気まずい……))


「安藤くん、ジュース飲まないの?」

「え、ああ! いただきます!」

「ど、どう?」

「へ……?」

「ジュースよ。美味しい?」

「うん、美味しいよ」

「……そう」


(良かったわ。安藤くんの口に合ったみたい!)


(うわぁー緊張しすぎてジュースの味とかわかんねー)


「と、ところで安藤くん。本屋での……その、私の言った言葉だけど」

「はい!」


(き、キターッ! やっぱり朝倉さんが俺を家に連れてきたのはその話をするためだよな)


「あれは……その、違うのよ」

「うん! 大丈夫! 分かってる! 俺ちゃんと分かっているよ! あれは朝倉さんのいい間違いで本心なんかじゃ決して無いんだよね!」

「ち、違う! って……あ、アレ?」

「ん? え、へ……?」


(あ、アレ? 私なんで今の安藤くんの言葉を否定しているのよ! これじゃあ、本当に私が安藤くんの事を好きみたいじゃない!)


(う、嘘だろ! もしかして朝倉さんマジで俺の事を……でも、いや! けれど、まさか!?)


「あ、安藤くん!」

「は、はい!」

「今のは……ちゃうんです」

「ちゃ、ちゃうん?」

「いい間違えたわ……今のは違うのよ」

「ち、違う?」

「そう『違う』の……いい?」

「えっと……それはさっきの言葉が? それとも本屋での――」

「と、とにかく『違う』のよ! もう、、これくらい分かりなさいよね! とりあえずさっきの言葉も本屋でのことも全部『違う』の!」


(そう! 私が安藤くんに惚れているなんて『違う』のよ! そんなのありえないんだから!)




(わ・か・ら・な・イィィィィイイイイイイイイイイイイっ! いや、マジでどう言う事!?

 まて、こういう時こそ冷静になってぼっち三原則を思い出すんだ。


『声をかけられても振り返らない』

 振り向けば人違いで恥ずかしい思いをする。ぼっちに声をかける奴などいないのだ。


『異性と話すときはなるべく心を開かない』

 ぼっちはとにかく惚れやすい。どうせ告白しても振られるんだから最初から希望など持つな。 


『話しかけて来る人がいても、自分に好意があると勘違いしない』

 そいつは俺に利用価値があるから話しているだけだ。ぼっちの俺に誰かが好意をもつ理由なんてあるわけが無い。


 以上三点を踏まえてもう一度、朝倉さんの事を考えてみる……なるほど、真実が見えたぞ!


 きっと、本屋での朝倉さんの言葉は俺の聞き間違いだったんだ!

 正確に言うのならば異性に惚れやすいぼっちの脳が勝手に朝倉さんの言葉を都合のいいように解釈してしまったのだろう。だから、朝倉さんはあれほど俺に『違う』っと連呼していたのだ。そうか、そうか……あの『違う』ってセリフは俺の解釈が違うと言うことだろう。でも、だとしたら朝倉さんはあの時本当は何て言っていたのだろう?

 うーん、思い返せば朝倉さんはなにかと俺に話しかけてくる。でも、それはきっと恋愛感情なんてものではなく何かしらの『利益』が俺と話すことによって生まれるからなのだ。俺と話すことで生まれる『利益』そして俺と朝倉さんの共通点……『ラノベ』か?

 そうか! つまり、朝倉さんは俺と『ラノベ』の話がしたかったからあんなに俺に話しかけてきたのか! だとしたあの時、朝倉さんが言った言葉は、


『私、安藤くんが大好きなの!』


 では無く!


『私 |(も)、安藤くん(と同じでライトノベル)が大好きなの!』


 に違いない! きっと俺のぼっちの脳が無意識に()内の言葉を聞き逃してしまったのだろう。危ない危ない……危うく朝倉さんがガチで俺の事を好きなのかと身に合わない勘違いをするところだったぜ! しかし、無意識とはいえ朝倉さんの言葉をここまで自分の都合が言いように勘違いするなんて俺はそこまで気付かないうちに朝倉さんに惚れていたのか? まぁ、無理もないよな……だって、朝倉さんは学校一の美少女。最近はアレ? 朝倉さんってもしかしたら残念系美少女なんじゃね? とも思っていたが、本当に残念だったのは俺の頭だったってわけだ)



 ――安藤くん? 安藤くん!」

「……うわっ! 朝倉さん!」

「うわ! じゃ無いわよ……どうしたの? 急に黙り込んじゃったけど」


(やっぱり、りんごジュースだと口に合わなかったかしら?)


(朝倉さんが心配そうに俺を上目遣いで見ている……や、ヤバイ! 改めて自分が朝倉さんに惚れているって自覚したら急に朝倉さんがメチャクチャ可愛く見えてきた!)


「な、何でもないよ! それより、俺分かったよ! 本屋さんでの朝倉さんの言葉はあれだよね……その俺じゃなくて別のことが好きだって言いたかったんだよね!」

「そうなのよ!」


(え、嘘! 安藤くん何であの言葉が言い間違いだって気付いたの!)


(よかったぁああ! やっぱり、俺の聞き間違いだったあああ!)


「そ、その……あの時の言葉とかさっきのは全部違うから」

「うん……」

「で、でも……私『ライトノベル』は好き」

「うん!」


(い、言えたわぁ……っ!)


(ああ、やっぱりそれで合っていたかーっ! 安心した……ってか、今頃気付いたけどここって朝倉さんの部屋なんだよな。初めて入った女の子の部屋が学校一の美少女とか……これなんてラノベ?)


「っていうか、女の子の部屋って初めて入ったけど……本棚があるんだね」 

「ひゃっ! だ、ダメ! ジロジロ見ないで!」


(そ、そういえば勢いで私の部屋に案内したんだわ。は、恥ずかしい!)


(女の子の部屋って可愛いぬいぐるみとかあって良い香りがするって思っていたけど、朝倉さんの部屋は本棚があるだけだし、しかもその中身も全てラノベ……本のにおいしかしないからまるで俺の部屋にいる気分だわ)


「でも、こうして本棚のラノベ見ると面白いくらいに異世界チートものしか無いんだね」

「キャアアアアア! は、恥ずかしいから! そんなに本棚の中見ないでよ!」

「え、恥ずかしいの!?」

「恥ずかしくなかったら今までラノベ好きなの隠していないわよ!」


(ヤバイ……恥ずかしがる朝倉さんメッチャ可愛いな)

(もう! わ、私の恥ずかしいのを知っているのは安藤くんだけなんだから……はっ! つ、つまりこれは二人だけの秘密ってことになるのかしら!?)



「ただいま~~」



「「え」」


(誰か……朝倉さんの家に帰ってきた?)

(ヤバイ! もしかして!)


「誰かいないの~?」


「あ、朝倉さん! もしかして……」

「ヤバイわ……ママが帰ってきたわ」

「ママ!? ヤバイって何が!?」


(この足音! 段々と近づいてくる!)

(ヤバイわ! ママが近づいてくる!)


「あら、ねぇ誰かお友達でも来ているのかし――ら?」

「「あ」」

「あら、あらあらあら……」


(こ、この人が……朝倉さんのお母さん?)


「ねぇ、この子はだぁーれ?」

「と、友達の……安藤くんよ」

「あら、あらあらあらあら……うふふ」

「もおおおおう! 何よママ! 言いたい事があるなら言いなさいよ!」

「あらあらあらあらあら……」

「こ、こんにちは! あ、安藤です!」

「あらあらご丁寧に……どうもこの子の母です。うふふ」


(朝倉さんのお母さんめっちゃ若い! お姉さんって言われてもおかしくないほど若いぞ! て、てか……朝倉さんのお母さんの『胸』!)


「あらあらあら……」 ドドーーンッ!


(超デカイ! おっぱい超デカイ! 何これ!? E!? F!? そ、それとも!!

 それに比べて……)


「……な、何よ安藤くん?」 テーン


(超ふつう……Bってところだな)


「――ッ! で、出ていけぇええええええええええええ!!」


「あらあら……フフ」


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