第10話「その時、朝倉は思っていた」




『私、安藤くんが大好きなの!』



 その、数十分後。私は自宅の台所で恥ずかしさのあまり転げまわっていた。


「うわぁああああああああ! 私のバカバカバカバカぁ~~……何で、何であんなことを言っちゃったのよぉ……しかも、その後パニックになって安藤くんを家に呼んじゃったし……」


(幸いなことに親は今家にいなかったけど、安藤くんはまだ私の部屋にいるのよね。飲み物取ってくるって言って降りてきたから早く戻らないと……でも、何で私ったらあんないい間違いを――いや、何となくだけど理由は分かる。

 本来あの時に私が言おうとした言葉は……)


『私も、安藤くんと同じでライトノベルが大好きなの!』


 だった。しかし、あの時私は極度の緊張状態になり、その言葉が――


『私 |(も)、安藤くん(と同じでライトノベル)が大好きなの!』


(――っと、このように()内の言葉が抜け落ちてしまったのよ!

 そう! ただ緊張して早く言おうとした結果超偶然的にその部分だけ言葉が抜け落ちただけであって、決して私が本音で思っていた事が口に出たなんて事は絶対にありえない! だって、私は安藤くんのことなんか異性として『好き』なんかじゃないんだからね!

 そうよ。むしろ好かれるなら彼が私に惚れるくらいじゃなきゃありえないんだから! そりゃ別にライトノベルが好きな事に関しては隠さないって決めたけど、別に安藤くんが好きとかは関係無いし、そもそも私は彼に惚れてなどいないのだ。いないって言ったら決してありえない! 無いの無いなのよ!)


「……よし、考えはまとまったわね。まずこれから行うミッションは三つよ。

 先ず安藤くんに本屋での言葉はいい間違いだと力ずくでも分からせる。

 そして、誤解を解いた後に彼へ私がラノベ好きであることを告白する。

 最後に、私は絶対に彼に惚れてなどいない。

 よし、完璧ね。ああ、そうだわ! 飲み物取ってくるって言ったんだから何か持っていかないと……安藤くん、牛乳嫌いとかじゃないわよね? でも、苦手って可能性もあるし……じゃあ、ドリアンジュースに! ああ、でもこれも結構クセが強いから他のにしたほうが……なら、ドクダミジュース? それもでも安藤くんの口に合わなかったらどうしましょう。せっかく私の家に来てくれたんだからちゃんともてなしたいわ……って! べ、別に安藤くんが何を飲もうが私にはどうでもいいのよ! だ、だって私は彼のことなんて全然意識して無いんだからね! そう、だから彼のジュースなんて100%しぼりの甘さスッキリりんごジュースで十分よ!」


(でも、どうして私は安藤くんを引き止めるために家に呼んじゃったのかしら?

 うーーん……あぁ、思い出したわ!)




『……ふぇ! わ、わわわ、私今何を――まって! 違うのよ! いい、今のは言葉が足りなかったと言うか練習不足で……いやぁああああああああ! 私なんて事を口走っているのよぉおおおおおお!』

『あ、朝倉さん……つまり、今のは言い間違いなんだよね? だ、大丈夫! おおお、俺はぼっちだからこんなことで変に勘違いなんてシナイヨ? だ、大体あの朝倉さんがぼっちの俺を 好きなんてありえない もんね!』




(そうよ、そう! 何故かあの時の『あの朝倉さんがぼっちの俺を好きなんてありえないもんね!』ってあのへんの言葉が無性に腹が立ったのよね。まったく……今思い返せば『あの朝倉さん』って誰よ! 私はアニメで出てくる生徒Aじゃないのよ! きっと、そういう言葉に無意識でキレちゃったんだわ。うん、そうね。きっと、そうだわ)


 そして、納得した私は二人分のジュースを持って自分の部屋に戻った。


「お待たせ」


(なんか思い出したらまた腹が立ってきたわね)


 私はその怒りを表すように彼の方へ『ガツン!』っとジュースの入ったコップを置いて口を開いた。


「さぁ、話をしましょうか……」


(私は、絶対に貴方の事なんか好きじゃないだからね!)



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