第8話「気持ち」




(なんだが勢いで朝倉さんにラノベをプレゼントする事になったけど、ここは無難に朝倉さんに欲しいラノベを聞くとするか)


「朝倉さん、何か買おうと思っているラノベや気になっているタイトルってある?」

「うーん、そうね……買おうと思っているのはまだ発売してないけど、書籍化の決まった『異世界チート詐欺師(ペテン師)』かしら。気になっているのは今のところないわね……

 そうだ! 安藤くんは今どんなのを読んでいるの?」


(どうせなら、この機会に安藤くんの好きなラノベとか聞いて良ければそれを買ってもらおうかしら。そうしたら、読み終わった後に学校で自然とラノベの感想とか言い合えるわよね! もう、私ったら天才でしょ!)


「お、俺? 俺が今読んでいるのはこれかな」

「どれどれ……って『強欲の聖女』? これ、確か女主人公モノのなろう小説よね?」

「うん、これ女主人公モノだけど結構面白いんだよ。何の欲も持たなかった所為で長生きできずに死んだ主人公が世界から争いが絶えないのを悲観して、今度は世の中から争いを無くす為に自分が世界の全てを手に入れて強引にでも世界中の人を幸せにするって言って魔王に転生する話なんだ」

「へー、あらすじを聞くと意外と面白そうね……ねぇ! 他には無いの?」

「うっ……あ、えーと……」


(あれ? 安藤くん急にうろたえてどうしたのかしら?)


(や、ヤバイ……朝倉さんが急に笑顔を向けるから思わず緊張しちゃったぜ。ぼっちは美少女に優しくされることに対しての耐性が薄いからこのままだとうっかり朝倉さんに惚れかねない……もし、そんな事になっても学校一の美少女が俺なんかと付き合ってくれるとかありえないからな……ここはそんな事にならないようにちゃんと自我を保つんだ!

 ふぅ、落ち着け俺……あれは美少女じゃない。そう、あれはグレムリンだ。グレムリン、グレムリン、あれはグレムリン……よし!)


「そうだね。あとはこれも最近読んだんだけど面白いよ」


(あれ? 安藤くんの様子がいつもどおりに戻ったわ。さっきの間はなんだったのかしら?)


「何々?『悪役令嬢は敵国の王子を調教する』何これ……エッチぃ本じゃないの……?」

「そういう本じゃねえよ!」

「ゴメンゴメン、でも、タイトルが……」

「まぁ、タイトルが紛らわしいのは認めるけどね。でも、ちゃんと一般向けでそういうシーンも無いから……これは乙女ゲーの世界に悪役令嬢として転生した主人公がゲームのバッドエンドを回避する為に敵国の悪い王子をムチで更生させてハッピーエンドを目指すラブコメだよ」

「へー、これも内容を聞くと面白そうね。でも、安藤くんってこういう女性向けのラノベも読むみたいだけど、恥ずかしくは無いの?」

「恥ずかしいって?」

「安藤くんは堂々としているけど……ほら、学校ってこういうライトノベルとか読むの恥ずかしいって空気あるじゃない? ふつうのラノベでさえそうなのに安藤くんが学校で読んでいるラノベの中にはこれみたいに表紙が思いっきり女性向けだったり中には少女漫画みたいな画風のもあるでしょう? だから、そういうラノベを他の人に見られるのは恥ずかしくないの……かな? ってね」


(それは私が前々から気になっていたこと……むしろ最初に安藤くんを気にするようになったきっかけ。私は自分がラノベオタクであると言う事が恥ずかしくて学校ではラノベ趣味を隠している。だけど、安藤くんは初めて見た時から堂々と一人教室で『妹はお兄ちゃんと結婚します!』ってタイトルのラノベを透明なビニールカバーをつけて読んでいた。

 その時、私はそれを見て雷に打たれたような衝撃を受けた『え、カバーをつけるなら何故表紙を隠せるものにしないの!?』『てか、それ恥ずかしくないの?』などと……だから、私はどうして彼がそんな堂々と教室でラノベを読めるのか知りたい)


(朝倉さんの質問は一見冷やかしのようにも思えるけど……きっと、彼女はそういう意味で質問したのでない。だって、それは朝倉さんの目を見れば分かる。彼女の瞳には女性向けラノベを読む俺をあざ笑うような腐ったリア充の目では無い。むしろ……そんな俺を羨ましそうにさえ思って見える。

 だから、これは真剣に答えなきゃいけないと思った)


「無い。恥ずかしいなんて俺は思わないよ」

「…………」


(言い切った)


「それは、どうして?」

「例えば――朝倉さん『八男転生』読んでたよね。あれ面白かった?」

「え、ええ」

「じゃあ、もし知らない人が『八男転生なんてつまらねーよ』とか言ったらどう思う?」


「ぶっ殺すわ」

「……………」


(『どう思う?』って質問なのに『どうする』って答えたよ。流石グレムリン)


「あはは……でも、俺も同じだよ」

「え」

「俺も知らない奴が俺の好きなラノベを笑うなら『ふざけんじゃねーっ!』って思う。だって、そいつらはそのラノベがどんなに面白いかを分かっていないんだよ? 俺はラノベが好きだ。だから、面白いラノベを書く人は『すげー』って思うしそれを読んでいる事を『恥ずかしい』だなんて思わない」

「…………」


「だってさ、そのラノベが面白いってことは読んでいる自分が一番知っていることなんだから、それを『恥ずかしい』だなんて思ったらそのラノベを作ってくれた人達に失礼じゃんか。だから、俺は堂々としてラノベを読むんだ。胸を張って『俺の読んでいるラノベはこんなにも面白いんだぞ! 恥ずかしいものなんかじゃないんだーっ!』ってね」

「……そっか、そうよね」


(私はなんて恥ずかしいのだろう。安藤くんの言う通りだ。私はいままで自分のプライドを守るためにラノベ好きなのを隠してきた。そして、自分のプライドなんてちっぽけな物を優先して安藤くんにラノベ好きなのを言い出せずにいた。なのに、それを棚に上げて『なんで彼は気づいてくれないの?』とか『話しかけてよ!』とかなんて自分勝手なのだろう……)


「あっ! もちろん、これは俺の勝手な自己満足なだけで、別にラノベ好きなのを隠すのを否定してるわけじゃないよ! だって、俺と朝倉さんじゃ立場というか人の注目も違うわけだし……ほら、俺は『ぼっち』だから人から何を思われても大して関係ないというか」

「安藤くん、いいの」

「え……?」

「決めたわ。私も隠さない……貴方だけには私の本当の気持ちを言うわ」

「あ、朝倉……さん」


(そう、私も安藤くんにはっきりと『ラノベが好きだ』と言うことを伝える。彼と同じ立場になるために……ちゃんと自分から堂々と胸を張って『ライトノベルが好きだ!』ってことを伝えるのよ。

 大丈夫……言える。この言葉だけはいつも言おうとして毎晩寝る前に明日こそは言おうと練習していたのだから……『私も、安藤くんと同じでライトノベルが大好きなの!』よし)


「安藤くん」

「あ、はい」


(よ、よし! いいいい、言うわよ……『私も、安藤くんと同じでライトノベルが大好きなの』『私も、安藤くんと同じでライトノベルが大好きなの』『私も、安藤くんと同じでライトノベルが大好きなの』)

(何だ何だ! また急にガン付けられ始めたけど、俺は何を言われるんだ!?)




「私、安藤くんが大好きなの!」




「…………へ?」

「…………ん?」


((アレ、今……なんて言った?))



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