朝の貴重な30分~今日も異世界に帰宅します・B面

於田縫紀

松戸さんの秘めたる恒例行事

 柏は今日も出勤日。

 ついさっき部屋から慌ただしく出ていった。

 これで夜までしばしのお別れだ。

 

 これから少しの間が僕のサービスタイム。

 着ている服をきっぱり全部脱ぐ。

 全裸のまま増設した柏用の寝室へ。

「あなた~。」

 なんて言ってみるが無論あいつはいない。

 居る時にこれが出来る程、僕は心臓が強くないのだ。


 柏のベッドの、まだ僅かに温もりが残っている布団に潜り込む。

 今日もあいつの匂いが僅かだがちゃんと残っていた。

 布団を被り温もりと匂いを最大限に味わいながら、しばしの妄想タイム突入だ。

 

 柏をこの家に招き入れて1年。

 正直あいつを誘い出した時はどきどきものだった。

 何せお願いする内容、要は同棲してくれという事だものな。

 5年ぶりに会っていきなりそれかい、と突っ込まれそうだ。


 だがあいつと別れてから、あいつがどれだけ僕の精神安定に寄与しているかが日に日にわかるようになってきたのだ。

 困った事に大学のほぼ4年間であいつの代役になりそうな奴は見つからなかった。

 気がつけばあいつに少しでも似た奴を目で追っている始末だ。

 我ながらみっともない。

 

 ただ色々探してやっと見つけたこの世界、僕にあっているのも確かだ。

 と言うか柏の面影を振り切るように文献調べて色々実験した結果、この世界を見つけてしまったというべきか。

 頑張ってこの世界の言葉を習得して、開発に成功した魔法で偉い人とコネ作って、向こうの世界から持ち込んだ薬や機械類で王族の支援も取り付けて。

 これで安定した生活が出来る。

 そう思った時に柏の事を思い出して、頭から離れなくなったのが我ながらみっともない。

 

 怪しげな理由つけて、あいつと会う時だって。

 勢いでこじつけた理由で強引に迫ってOK貰えた時のあの嬉しさは。

 我ながら乙女かい!って感じだ。

 まあ確かにまだ処女おとめだけれどさ。

 本当、僕の言いたい事を察してくれる程度に頭が良くて、僕の企みに気づかない位に阿呆で……

 とにかくいい奴だ。

 

 でもその後の進展は芳しくない。

 同居している友達という感じがもうすぐ1年。

 あいつだってムラムラする時があるのは知っている。

 向こうの部屋でこっそり処理してきても匂いと雰囲気でわかる。

 魔女の六感は鋭いのだ。

 でもそれが僕に好意を持ってくれていることと同義かは不明だ。

 男は生理的な要求というものもあるらしいからな。

 

 だいたい僕は身長もあいつと同じくらいだし、体型だって細いだけで女っぽくない。

 言葉だってこんな感じだし。

 女の子なんてある意味可愛いが正義だ。

 あいつも好きなタイプはそんな女の子かな。

 向こうでそんな女の子と話していたりして。

 うおーっ、醜い嫉妬だ。

 別にあいつは僕のものという訳ではないのに。

 今はお情けで一緒に住んでもらっているだけ。

 それだけが確かな現状。

 

 というか、あいつは僕の事をどう思っているのだろう。

 友達とは思ってくれているみたいだけど。

 対人関係に問題のある哀れな社会不適合者。

 うん、事実として正しい。

 きっとこんなものだろう。

 

 それでも少しは僕に欲情したり、もっと言えば襲ったりして欲しいのだ。

 時には精一杯の勇気を出して薄着で迫ったりもするのだが、あいつはいつも知らんぷり。

 少しは生理的要求を感じてくれはするみたいだけれども。

 

 遠慮せずがおーっと襲ってくれていいのだ。

 というか無茶苦茶にされたい。

 野卑な言葉と暴力で汚しまくってくれてもかまわない。

 まああいつには似合わないけれど。

 

 というか襲われたいんだ。

 無茶苦茶にされたいんだ。

 身体に痕を刻んで欲しいんだ。

 あの身体で、あの腕で、あの指で。

 多少痛かろうとかまわない。

 奴が少しで気持ちよくなってくれるなら。

 奴が少しでも感じてくれるなら。

 それで僕もいけるから。


 向こうの世界から持ってきた目覚ましの無情なベルが、僕を現実に引き戻る。

 残念ながらサービスタイムは終了だ。

 名残惜しいがあいつのベッドから出て、正常魔法を全体にふりかける。

 僕の体液と匂いに塗れた布団がきれいになっていく。

 本当はそのままにしておきたい。

 でもそんな度胸は僕にはない。

 

 さあ、そろそろお仕事モードの準備だ。

 僕のここでのお仕事は薬屋さん。

 魔道士の仕事なんて普段は無いので、向こうから仕入れた薬や香辛料を売って生計を立てている。

 まあ市販売薬とは言え現代薬学や医学の結晶を産業革命前の近世類似世界で使うのだ。

 効果があるのも当然だし評判がいいのも当たり前。

 香辛料もなかなかいい値段で売れるしな。

 お仕事用黒マントを着て、扉をくぐって店の方へ。

 

 窓を開け外の新鮮な空気を取り込む。

 店の中を確認して扉を開ける。

 既に出来ていた列が店の中に入ってきた。

 今日も朝から大繁盛、かな。

「いらっしゃいませ。」

 僕は客に言葉をかけ、カウンターにつく。

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