第7話リヴァイアさんと呼べ
海の向こうから目覚めた太陽の光が、海底に潜む巨大な神殿にも届く。
神殿は太陽に照らされて黄金に輝いている。
その神殿の輝きは水面からもわかる。
巨大な船の中から、望遠鏡を覗き込んで。輝く黄金の神殿を見るの一人の男。
大柄で、でっぷりとした腹を抱えた狸のような男。そばには、四人の子分が、ボロボロの歯を覗かせて下卑た笑みを浮かべた。
「やりましたね、親分」
子分の一人が言った。
「ああ、あれこそが伝説の都、アクアディア......」
親分と呼ばれた男はニヤリと笑った。すると黄金の歯がキラキラと光った。
「水面からでもわかる黄金、あれをほんのちょっと持って行くだけで一生遊んで暮らせるぜ」
「親分についてきた甲斐があったゼ」
「さすがは親分だ」
親分を褒めちぎる子分たち。フラつきながらもやったやったと小躍りしながら喜びを噛みしめる。
しかし、その中の一人が不安げな顔で呟いた。
「でも、どうやって海の奥から財宝を取り出すんですかい?」
「なんだってぇ?」
親分が声の方向をにらみつける。
目にクマのできた、見るからに不健康そうな男性がキョどりながらも、しどろもどろに答えた。
「いや、お宝があると言ってもですよ。ここに来るまでに食料もわずかで。みんな体力もない状態です。そんななかでどうやって海の中にある財宝を取ろうっていうんでしょうか......」
「なるほど……なるほどねぇぇぇ!
ヒョードル、お前、賢いなぁぁぁぁ!」
親分は金歯を覗かせながら、ヒョードルの肩を叩く。
「へ、へへ……」
ヒョードルは気まずそうな、どんな顔をしていいものかわからないような顔をした。
親分はクワっと目を見開いて、ヒョードルの両肩を掴むと。縄で巻いて彼を海に放り投げた。
「お前が取りに行くんだよぉぉぉ!」
子分たちは一瞬のことに驚くも、真面目な顔をして、親分の意見に同調する。
「そうだそうだ! ゼッテェ、取りに来いよ」
「何も持たずに上がってこようもんなら、上からションベンをかけてやラァ!」
「速く泳ぐんだよぉ! ノロマ!」
子分たちはカラカラの喉を震わせて、ヒョードルを罵倒する。
水も飲んでなく、食料も満足に食えない中。体力を振り絞って自分で考えられるだけの暴言を吐いた。そうしないと、次は自分なるからだ。
ヒョードルはおっかなびっくりな様子で、巨人に驚く蛙のように神殿に向かって泳いで行った。
「ふ〜、ちゃんと戻って来いよ……財宝を持ってな……」
親分は祈るように呟いた。黄金の神殿の噂は聞いていた。その神殿をついに見つけたのだ。あの黄金をほんの少しでも持ってきてくれれば、俺たちはやり直せるんだ。
ちっぽけな存在から大手を振って夜の街を歩けようになるんだ。俺たちを見下している大金持ちの鼻くそほどの資産を手に入れさえすれば。
そんな弱音が腹の虫とともにぐるぐると回った。
その時、船が突如揺れた。
「なっ、なんだ!」
船は巨人の手の中にあるワイングラスのように大きく揺れた。
そして、次第に小さくなる。
「津波にしてはへんだな……」
親分は首をかしげる。
「おい、海の様子を調べろ!」
親分の命令で海を覗き込む子分たち。
しかし、海はなんともない。やはり津波だったんだろうか。
「へぇ! 海は問題ありまーー」
その時だった。
ザバァンと大きな水しぶきが上がると、そこには巨大な怪物が現れた。
陽に当たったシャボン玉のような色の鱗。震え上がりそうな巨大な蛇の目。気持ち悪いほど大量に並んだ鋭い歯。
「ーーせ……」
せん、と言い切らないうちに怪物は子分たちの一人を飲み込んだ。
「なっ……ケリィィィィィィン!」
子分の一人が思わず叫ぶ。
「おいおい、こいつはお前の友達だったのかよ」
と、目の前の怪物は言った。
「お前は何者だ……」
親分は震え声でつぶやく。
その言葉に怪物はケラケラと笑った。
「俺の名前は俺はアイアムリヴァイアさん!」
そう言うと、怪物は突如発光する。蛇の形から一転して、人の形になる。
金色の長髪に虹色のロープ。右手には大きな杖を持っている。ヴィジュアル系にでもいそうな格好の男がそこには現れた。
「リ……リヴァイアだと!」
リヴァイア! 海賊たちはその名に衝撃を受けた。
海の3大魔獣の一体、討伐ランクA級の海龍、それがリヴァイアだ。
「リヴァイアさんだろうがよぉぉぉぉ!」
リヴァイアは杖で親分の首筋を指した。
「ハっ、フッ、ウェェェェ……」
親分は吐き出す。
リヴァイアは周囲を見回して、子分の一人に尋ねる。
「おい、俺の名前はなんだぁ!」
「はっ……はい! リヴァイア……さんです!」
「そうかぁ、よく知ってるな〜。それじゃあ、ここがどう言うことかわかってるか?」
「へっ……それは……」
リヴァイアは子分のみぞおちを蹴る。
「ここは俺の10000歳の誕生パーティーの会場なんだよぉぉぉ!」
リヴァイアはイライラしげに足を踏みならしながら、みぞおちを押さえたまま呻く子分に肩を回す。
「なあ、誕生日の大切さは人のお前らにもわかるだろ。しかも、今回は俺がさらなる力を手に入れたことを知らしめる大切な日だ。世界中の海の化け物たちをこの神殿に招待している。食事も何万年も前から準備させた珍味があるんだ」
そう言って子分たちおをギロリと睨みつける。
「お前らも……祝ってくれるよな……」
「は……はい!」
「そうかそうか……じゃあ、お前らの中で俺に捧げるべきものを一つ選べ。それが俺の気にいるものだったら。寛大な俺はお前らを許そう」
「捧げるべきもの……」
「そうだぞ、今、すごいお腹が空いていてな〜。あ〜あ、何か美味しいお肉がたべたいな〜。柔らかくて豚のようにコッテリと太ったお肉がさ〜」
お肉、そんなものこの船の中にはどこにも……いや、待てよ。
子分たちは気持ちがシンクロしたかのように。一人の人物に視線が吸い寄せられる。いるじゃないか、一人だけ食料を独占し、お酒も飲んだ。超えた豚のように太った男が。
「やっ……やめろ! 何を考えている!」
「うるさい! そもそもお前が船を出そうとさえしなければこうならなかったんだ!」
そう言って、男たちは親分であったものに暴力を振るう。ある者は酒ビンをもって。ある者は棍棒を。ある者は足で。
太った男を暴行した。
男は、惨めに芋虫のように丸めてじっと息を潜めていたが。次第に静かになり。子分だった者たちが疲れて手を止めると。動かない死体となっていた。
「さあ、リヴァイアさん! こいつなんていかがでしょうか!」
ニッコリと笑う子分。リヴァイアもニッコリ。笑顔の子分の肩に手を置く。
「こんな油だらけの男が食えるかぁぁ!」
「えぇぇぇぇ!」
「先ほどっ! 先ほどコッテリとしたものが食べたいと言ったのに!」
「何がコッテリだ! ここまで油の濃い肉など食いたくもないわ! 死ねぇぇぇ!」
そう言って、リヴァイアが呪文を唱えると子分たちは炎に包まれた。
「さて、パーティーの準備に戻るとするか」
そう呟いて、歩くと足元にコロコロと転がってくるものを見つける。
「むむっ?」
それはワインボトルだった。
「ほう、飲みかけのようだが……まあいいだろう」
リヴァイアはワインをグイっと飲むと、海龍に姿を変えて海に潜っていった。
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