第8話モニカ、ここが楽園なんだ
伝説の都、アクアディア。
遠い遠い昔に沈んだとされる古代都市。
そこには数多くの財宝が眠っていると言われている。数多くの海賊たちがその都を目指すものの、そこにたどり着くことはできなかった。
それもそのはず、その都市のそばには怪物がいたからだ。お宝を狙う人々を喰らう海の王者。その名もリヴァイア。
3大海魔の1匹である。
彼らの前ではどんな船もひとたまりもない、故に、アクアディアに人はだれも近づけない。そう、人だけは。
「ふん、ふ〜、ふ〜、ふ〜ふふん♪」
海底都市アクアディアに陽気な鼻歌が聞こえる。黄金に輝く神殿の奥深くで1匹の小さなカニが歩いていた。
カニは太陽の訪れを喜ぶような笑顔で気分良く鼻歌を歌い終わるととつぜん立ち止まり、叫ぶ。
「起きろぉぉぉ! 我が子たちぃぃぃぃ!」
1匹のカニの言葉が神殿中に轟き、静かになる。すると、どこからか大量のカニたちが彼の周りに集まった。
「おはようぅぅぅぅぅ! パパァァァァ!」
カニたちは父の言葉に笑顔で答える。
「よーし、今日も元気に働くぞ! それじゃあ、我が子たち! チームを組むんだ!」
父の言葉にカニたちはそれぞれの集団を作る。
「よし、左にいるのはA班だ! 真ん中はB班! 右はC班だな! A班は神殿の壁を磨け! コケが一個もないようにな! B班はここの床を綺麗にしよう! C班は天井だあ! 見えづらいからって手を抜くなよ〜」
そう言って、カニは大きく両手を振り上げ、カチリカチリと音を鳴らす。
「よ〜い、スタートォォォ!」
その言葉を合図にカニたちは散らばった。ニコニコとしながら働き出す子供達みるカニ、しかし、その顔はじょじょにくもり、不機嫌そうな顔で1匹のカニを見つけた。
彼は自分の顔を近くの壁で確認しながら、作り笑顔を何度か練習した後で、そのカニに近づいた。
「どうしたんだい? 我が子〜。キミも働かないと〜」
彼の言葉に、嫌そうな目で見返す。
「モニカよ、パパ」
「ん?」
「あたしの名前はモニカだって言ってるの」
「ああ……モニカね。もちろん知ってるとも。さあモニカ、愛しいモニカ。キミはなんでいつもパパの言うことを聞かない?」
モニカは父の言葉にため息交じりで返した。
「パパ、あたしこんな仕事嫌だわ。外に出たい」
そう言うと、父親は目を見開いて、モニカの口をふさぐ。
「モニカ〜、ノンノンノンノン、モニカ〜。滅多なことを言うもんじゃないよ。いいかい、私たちはリヴァイア様のおかげで生きている。あの人が守ってくれるからこそ。パパはたくさんの子供たちをこの神殿で育てられているんだ。あの人のために、私たちはあの人の鱗や歯を磨くし、この神殿も綺麗にする。そういう約束なのさ」
「そんな人生嫌だわ。あたし、外に出たいの。この神殿の外に出て、海に出て、陸に出てみたい」
「リリリリリ!ーー」
娘の言葉に思わず父は壊れたインターフォンのようにリリリと連発する。
「ーーリリリ陸に行こうだなんて! なんてことを言うんだ!」
「パパ、知っているのよ。私たちオカルガニは本来は海と陸の両方で生きることができたって。あたしたちはどこにだって行けたはずよ」
「モニカ! いいかい! 陸なんて言っちゃダメだ。確かに……」
父は囁くように彼女に言う。
「モニカと同じくらいの頃、パパだって外の世界に憧れて、旅をした。雪山、砂漠、街や海。いろんなところにだーー」
彼はこの一言の間でさまざまな表情を見せた。喜び、ワクワク、好奇心、恋、そして最後に見せるのは恐怖、悲しみ、不安。
「ーーでもね、なかったんだよ。モニカが期待するようなものはどこにもなかった。ここにいるのが一番安全なんだ。ここはパパが旅の末にみつけた楽園なんだよ」
「安全が欲しいわけじゃないわ!」
「ああ、そうだね。モニカが今欲しいのはそれじゃない。でも、きっといつか欲しくなる。ここを出て、海の危険を知ればきっとね」
そう言って、父はため息をついた。
「それじゃ、モニカはまた人魚のところに行くといい。リヴァイア様からパーティまでの間、お世話をするように言われているからね」
「……わかったわ」
そう言って、モニカは神殿の地下へと歩いていった。
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