第6話 水槽の中にいるサメたち

「おい! ジョージ!」

 ウッズの呼びかけに、ジョージは振り返る。

「ああ、ウッズか。どうした?」

「どうしたじゃねぇよ。テメェ、どこ行くつもりだ。まさか、レッドワームの住処に行くつもりじゃねぇだろうな?」

「そりゃ行くぞ。唯一の外に行くヒントだろうからな」

「やめろ! わざわざ喰われに行くようなもんじゃねぇか!」

「喰われるつぅ~けどよ。あれが生物だっつぅ保証はどこにもねぇじゃねぇか!」

 そんな話をしていると、星空からにゅ~と赤い管のようなものが伸びてくる。ジョージ、ウッズ、ビリーは慌てて下にもぐり、岩の陰に隠れる。

「見ろよ。目もねぇ。鼻もねぇ。あの穴は口と言えなくもないが……かみ砕くための歯がない。ありゃ、“水槽”のなかの俺たちの数を減らすためのものだ」

「スイソウ? なんだそりゃ」

「魚をいっぱいつめた箱だよ……」

 そんなことも知らんのかとも言いたげな顔でジョージはため息をつく。

「サカナ、そりゃ俺たちがいるところってことだろ?」

「違ァァう いいか 水槽ってのはな。どっかの偉そうなやつがな。俺らなんか支配できると思いあがっているヤツが。俺らを閉じ込めるために用意した牢屋みたいなとこなんだよ」

「そうかよ……で、これからどうする気だ。レッドワームを観察してたってなんもなんねぇぞ」

「やっぱり、あの管の先にいけりゃいいんだけどな」

 イライラしげにジョージとウッズ、ビリーはレッドワームを見つめている。すると、3匹のサメの背後から1匹のサメが近づいた。

「楽しそうだな?」

 3匹が振り返ると、そこにはマックスがいた。

 魚雷のような円錐の頭。抵抗の薄いしっぽに近い細い尾。灰色のサメ。ダンテールシャークのマックスがニタニタと楽しそうに見ている。

「なんのようだよ……」

「いやな、手伝ってやろうと思ってよ」

 そう言って、マックスは岩場から出る。

「アイツ……まさか……おい! ビリー、ジョージ! アイツを止めねぇと……」

 ウッズが気づくも、もう遅い。マックスは今にも歌い出しそうな声で楽しげに、大きな声で叫んだ。

「お~い! レッドワームここに3匹のサメがいるぞ! のっぽなだけの大きなサメに。歯ごたえのあるサメ。白い柔らかな身のサメだっているぜぇぇぇ!」

 すると、マックスの叫び声に反応して、レッドワームがこちらを向く。

「マックス、なにをしやがるんだ!」

「命知らずって思うかい? けど違うんだな~。だって俺はよ。最速のマックス様だからな!」

 そう言って、マックスはビュンとアメリカのコメディ映画のように泳ぎ去った。残されたのは、ジョージ、ウッズ、ビリーの3匹のサメだけである。

「散り散りに逃げるんだ」

 その言葉を合図に、ウッズとジョージ―は左右に分かれて逃げようとする。しかし、ビリーだけは動けずにいた。

「なにやってやがるんだ! ビリー!」

「岩に挟まって動けないんだよ!」

 そうこうしている間に、レッドワームは動けないビリーに近づく。

「待ちやがれよ!」

 そう言って、ジョージはレッドワームに体当たりした。

「ジョージ、何する気だ」

「お前らは先に逃げてろ。俺はコイツの中に用があるんでな」

 レッドワームは体当たりされたジョージのほうに向きなおると、彼を吸い込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る