第11話 エイト、アヌスに向かって言い訳をする。

「で? 結局なんなんすか? 人が裸のままで気絶して無防備な状態の所で身体中を調べまくって……」


 俺は後頭部をさすりながら、アヌスタシアとスケさん、それにカクさんを軽くにらみながら尋ねた。


「うわー、また随分と態度や性格が豹変ひょうへんしたものだな……」


 スケさんが呆れたように感想を述べた。


「いや……エイトがベイエイ出身との話だったからな。悪いが調べさせて貰った」


 カクさんが真面目な顔に戻って答えてくれた。

 俺は自分の中では答えの予想が終わっている質問をする。


「調べるって何をです? 俺の身辺調査なら身体を調べてもしょうがないでしょ?」

「レベルの刻印を調べて、どのくらいの強さなのか推し量りたかったのだ」


 やっばりね。

 少し危ない所だったかな?

 あらぬ疑いをかけられるかも知れなかった。


「俺ならレベルは3くらいですよ。しかも戦闘には全く役に立たないスキルです。大方スパイかも知れないと疑っているんでしょうけど、明日になれば大人しく貴女達とは別れますよ」

「な、なによ!? 男である事を隠して私達の裸を見たり、入浴中のセヴェンを覗こうとしたりしたくせに、偉そうにしないで!」


 アヌスタシアは俺の開き直りの台詞に憤って抗議した。


「そうだな……警備隊に痴漢の現行犯で突き出すか?」


 スケさんが少しだけ俺に軽蔑の視線を送りながら言った。


 ひぇっ!

 それだけは勘弁だ。


 俺は内心の焦りを隠しつつ三人に向かって答える。


「勝手に俺を女だと勘違いしたのは、そちらでしょ? 俺は自分が女だなんて一言も言ってないし、どんな服を着て、どんな喋り方をしていようが俺の自由だ」


 俺は肩をすくめながら目を閉じて言い訳を続ける。


「恩人に飯と宿を奢りたいって、そっちが勝手にやった事でしょう? それなのに裏では、その恩人をベイエイの手先扱いとか……どういった了見りょうけんですか?」

「それは貴様が女装した男だと分かって怪しさが増したせいだ。無礼な行為だというのは重々承知しているが、お嬢様の身の安全が第一だからな。勘違いされるような格好と話し方をしていた貴様にも責任がある」


 カクさんの真っ当な答えが、逆に俺をいらつかせる。


「それは偏見でしょう? そんな事を言ったら、この国中の女装している男達を全員を調べて貰わないと、筋が通らない。そもそも俺がベイエイの手先だったらアヌスタシア様をかばう筈がない」

「どうだかな? お嬢様に取り入る為に犯人と打った猿芝居という可能性もある」

「それなら捕まっている獣人の女の口でも割らせたら、どうですか? 何も出てこないと思いますけどねっ!」


 事実キアンと俺は、あの場が初対面だ。

 闇カジノの店に入った直後に、彼女が際どい衣装を着てポールダンスを披露していたのは見た事があるし、その時に目が合いはしたが……その程度の面識しかない。


 俺の語気が少し強くなった態度に押されて、カクさんは黙ってしまった。

 俺は火傷の痕が残る手の甲を摩りながら愚痴をこぼす。


「こんな目にってまで疑われるなんて最悪ですよ……」


 その瞬間にアヌスタシアが俺に向かって歩み寄って来た。

 俺は警戒しつつ顔を上げ彼女に向ける。

 少しだけ緊張していた俺に近づいて来る彼女を見て少し驚いた。

 アヌスタシアは目尻に涙を浮かべて俺の手を取り、その甲を優しく撫でた。


「そう……そうよね……男の人だからって許される事では無いわよね? 本当に、ごめんなさい……」


 彼女は目を閉じて苦悶の表情を浮かべる。

 予想だにしていなかったアヌスタシアの反応に、俺は驚き慌てて彼女を慰めようとする。


「あ、いや……疑われるのがイヤなだけで本当に傷痕に関しては気にしていないから……」

「……本当?」

「ほ、本当だよ? むしろ、お姫様の盾になって救う事が出来たんだから、この傷痕は俺にとって勲章のようなものさ!」


 俺は笑顔で自慢気にアヌスタシアに傷痕を見せつけながら語った。

 彼女はクスリと笑う。

 引っ掛かったとでも言うかのように……。


 あれ?


「そう、そうよね? この私を助けられたのだから逆に名誉な事よねえ?」


 アヌスタシアは髪を片手で掻き上げながら、ニヤリと笑って俺をめ付ける。


 こ、こいつ……嘘泣きしていやがった……。


「き、汚ねぇぞ? お前……」

「うるさいわねぇ……男に二言は無い筈でしょ? それじゃあ、恩人の件に関しては、これでチャラという事で……貴方の罪と罰について相談をしましょうか?」

「罪って……俺が何したってんだよ?」

「私の裸を見たわ」


 うっ……。


「裸なんて見てねーよ!」

「嘘おっしゃっい!」

「本当だって! 下着姿しか、拝んでいないっての!」


 ブラが外され乳首が露わで陰毛が見えていたけど……あれは断じて裸では無いっ!


「同じ事でしょーが!?」

「全然違うわ! ちっぱいの下着姿なんかで興奮できるかっ!」


 どごおっ!


 俺はアヌスタシアに思いっ切り顔面をグーパンされた。


「いひゃい! なにすんらお!?」


 アヌスタシアは再び涙目になると、顔を真っ赤にしながら俺を鬼の形相で睨んでくる。

 彼女の握り締められた右手の拳は震えていた。


「……あんた……今、なんつった?」


 ……えっ?


「……下着姿なんかで興奮できません」

「……その前よ?」

「…………………………………………ちっぱい」


 げしっ!


 アヌスタシアの蹴りは、俺の腹に突き刺さり身体が、くの字型に曲がった。

 俺は倒れて痛む腹を抱えながら悶絶する。

 口から吐瀉物としゃぶつが出そうになったが何とか堪える。


「……ぶっ殺す!」


 邪悪な微笑みを顔に浮かべながら次期女王様が、にじり寄って来る。


 俺は……。

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