第10話 エイト、アヌスにいじられる。

 俺は荒涼こうりょうとした大地に立っていた。


「ここは、どこだ?」


 初めて来た場所のはずなのに何処か懐かしい、草やこけの一つすら見当たらない赤茶けた大地。

 転生する前に何かの写真で見た覚えのある風景。

 ……間違いない。


「ここは……火星だ」


 どこからともなく声がする。


(こ、これが……男の人の……なの?)


 アヌスタシアの声だ。


(お嬢、もしかして見るのは初めてか?)


 スケさんの声もしてきた。


(う、うん……お父様は赤ん坊の頃に亡くなっているし、お祖父様と一緒にお風呂なんて入ったこと無いから……)

(おい、スケさん! そんなものをお嬢様と一緒に観察してるんじゃない!)


 カクさんの声までする。


「みんなあぁっ! どこに、いるんだあぁっ!?」


 俺は周囲を見回しながら叫んだ。


(……なにかブツブツ寝言を言っているわよ?)

(夢でも見ているんじゃないのか?)

(気絶していたというのに呑気のんきな奴ですね)


 相変わらず三人の声は聞こえるのに姿が見えない。


(それにしても変な形をしているわね……ミミズかヒルみたい……)

(いや、お嬢……これは包茎といって特殊なタイプで……本当は、ほら、こうすると……)

(おいスケさん、その手は後で良く洗えよ? 間違っても洗う前に私に触れるなよ? 殴るからな?)


 ……うおっ!?

 なんだか股間が気持ちいいぞ?


(きゃっ!? な、なにこれ……皮の中身が亀の頭みたいになってる)

(仮性だな。けないと真性だ)

(貴様……よくそんな事ができるな? やっばり婚約者のいる奴は、男に対する免疫めんえきが違うな)

(……カクさん、言っておくが俺の婚約者は、仮性でも真性でもないからな?)


 俺は何故この赤い大地に立っていなければならないのか、理解できたような気がした。


(それにしても……レベルの刻印が見当たらないわね?)

(てっきり剥いた中身にあるもんだとばかり思ってたんだがなあ……)

(あと確認していないのは、太腿の付け根と……お、お尻の穴の周りと……た、タマタマの裏辺りでしょうか?)


 おい……。

 あんたら俺が覚醒しないのを良い事にナニをしているんだ?


(ぼ、棒の裏も確認はしていないわ)

(どれ? 摘んでペラーンと……)

(ありませんねぇ……)


 あっ!

 ちょっと今の気持ち良かった……。


(や、やだ……なにこれ、ふくらんできたわよ?)

(良かったじゃないか? てっきり、お嬢の一撃で使い物にならなくなったのかと思っていたよ)

(えっ? えっ? えっ? こ、こんなに大きくなるものなのか?)

(まだまだ大きくなるかも知れんぞ、カクさん? お嬢も触ってみますか?)

(……えぇっ!?)

(おいこら、スケさんっ!?)

(どうせ何れはイヤでも触れるモノだし、今の内に慣れておいた方がいいって)

(で、でも……流石に素手で触れるのは……ちょっと無理よ)

(その黒いタイツを履いた足でも、いいんじゃないかな?)


 ……はい?


(じ、直に、触れるんじゃなきゃ……いいかな?)

(お? 意外と興味がおありですね?)

(お、お嬢様……ご無理はなさらないで下さい)

(……えいっ!)


 ふにょん。


 はうあっ!


(や、やだあ……最初は、ふにふにしていたのに段々と硬くなってくるわ……これ)

(おお、まだまだ伸び代があったみたいだな)

(ふ、踏まれて立たせるなんて……変態か、こいつは?)


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


 あぁっ、そ、そこは……だ、だめだっ!


 どうやら、ここは俺の夢の中のようで、現実世界で俺はアヌスタシアに股間を踏まれているらしい。


(へ、変態だから女装していたのかしら?)

(分からないが……変態なのは間違いないな)

(おい? なんだか私が先ほど入ったトイレで嗅いだ変な匂いと同じ匂いがしてきたぞ?)


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


 あぁっ……ダ、ダメだっ……こ、このままではっ!?


(さっ、先っぽから何かしずくが出てきたわ? お、おしっこかしら? それとも、もしかして……これが、子種こだね?)

(いや、そのどちらでも無いな。ガマン汁って奴だ……。まあ、これにも混ざっている可能性は、ほんの少しあるらしいから、赤ちゃんが出来る確率が絶対にゼロとは言い切れないらしいけど……)

(お嬢様、危険です! おやめくださいっ! それに、それ以上その黒タイツが汚れてしまったら、私は洗いたくありませんっ!)

(さ、流石にもう捨てるわよっ! こ、これが終わったらね……)


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


 んほぉ! あぁん! ひゃうあぁ!


(な、なんだか、息が荒くなってない? こいつ……)

(確かに……そういえばカクさんは、こいつの裸の側にいて大丈夫なのか? 男の裸は苦手だっただろ?)

(ああ、まあ、その筈だったし最初は驚いたんだが……なんというか女の私でも羨ましくなるぐらい肌が綺麗で、男という感じがしないんだよな……)


 さわさわさわさわさわさわさわさわ。


 えひゃうっ!


 な、なんだっ!?

 今度は急に乳首まで気持ちよくなってきたぞ!?


(ちょっ!? ちょっとカクさん? ど、どこをでているのよっ!?)

(お嬢、大変だ! カクさんの様子がおかしいぞ!?)

(うふふ……男のくせに……私より綺麗な肌をして……ちょっと触ったくらいで……乳首まで勃たせて……)


 や、やめろおおぉぉっ!

 こ、このままでは……イ、イってしまううぅぅーっ!


(や、やだ……カクさん、やめて……私まで変な気分になっちゃう……タ、タイツに汁が染み込んで……足がヌルヌルして気持ち悪いのに……と、止められないのぉ……)

(いかん! お嬢まで何かに目覚めかけているっ!?)

(うふふ……ピクピクしている……こ、今度は……つまんで、あ・げ・る♡)


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。

 クリクリクリクリクリクリクリクリ。


 あ、ああっ! も、もう! らめええぇぇっ!?


(あはははははっ! 女装が趣味の変態の愚民の分際でっ! 感じているのっ!? 生意気よっ! ああっ! 平民を踏みつけるって最高っ! 支配欲がっ! 嗜虐心しぎゃくしんがっ! 私の中で、あらゆるサディスティックな感情が目覚めてたかぶってくるわあぁ〜!)

(あぁ……なぜか知らんが今のお嬢の姿をとうとく感じるっ! こ、これはれるわっ!)

(お、男のっ! 男のくせにっ! こ、こんなに綺麗なピンク色の乳首をしてっ! に、憎たらしいわっ! ……な、舐めちゃおうかなあ?)


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。

 ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ。


 ああっ! も、もう! イッ、イッ、イッ、イーッ!


「……いい加減にぃ……しろっ!」


 俺は目覚めて起き上がると、三人をまとめて突き飛ばした。


「きゃあ!?」

「うおっ!?」

「わあっ!?」


 ぜえはあ、ぜえはあ……。


 四人で一斉に荒い息を吐いて呼吸を整える。


 俺は横座りになると、しなをつくって三人を哀しげな瞳で見つめる。


「酷いです……よってたかって……こんな……私が眠っているのを良い事に……くすん……」


 俺は口に手の甲を当てて一雫ひとしずくの涙を流した。


「遅いわっ!」


 アヌスタシアの横蹴りが俺の延髄えんずいにヒットした。

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