第5話 シェリー、キアンと取引をする。

 エイトがアヌスタシア達と食事をしている頃。


 キアンは警備隊の隊員二人に両側から挟まれるように並ばれながら、シェリーのいる執務室へと連行されていた。


 執務室前に到着すると、隊員の一人が扉をノックする。


「入ってよし」


 部屋の中からシェリーの凛とした声が響いてきた。

 ノックをした隊員が、扉を開ける。

 キアンは二人の隊員達に部屋の中へ入るように促されて入室した。


「こんばんは」


 シェリーはキアンに向かって微笑んだ。


 キアンは既にメイド服を脱がされて、真っ白で縞模様は無いが囚人服のようなものを着せられている。

 シェリーもマントと鎧を脱いで制服に着替えていた。


「お前たちは下がっていい」


 二人の隊員達はシェリーに、そう命じられると敬礼をして退室した。


 シェリーと一つの部屋の中で二人きりになったキアンは、顔を青白くしたままで俯いていた。

 彼女の両手には手枷が付けられていて、それなりに自由が奪われている。

 だが仮に両手が自由であったとしても、逃げ出そうとする気力が今のキアンには無い。


 ヴァーチュリバー王国、首都ジアングドア、北方警備隊隊舎。

 隊舎とは名ばかりの、ちょっとした要塞のような広く堅牢な施設だった。


 仮に、この部屋から逃げ出せても外へ脱出するのは不可能。

 キアンは、その事には気がついていた。


 その上、仮に脱走可能だとしても外の世界で彼女を受け入れてくれる場所は、今まで以上に限られてくるだろう。


 何もかも疲れ果てて自暴自棄になっていたキアンだったが、シェリーを目の前にすると自分のした行為に対する罰に関する恐怖が頭をよぎった。


 王族に対する反逆罪。


 キアンは青いままの顔を少しだけあげて、シェリーに質問をする。


「私は……死刑になるのですか?」

「まさか」


 シェリーはキアンを安心させるように、さらりと答える。


「姫将軍様から、貴女への処罰を大げさにしないように、よろしく頼まれているわ」


 アヌスタシア達は、お忍びで任務を遂行中の身なので事件を公にしないように、シェリーは頼まれていた。

 普通であれば王族への反逆罪は死罪だが、内々に済ませる必要が出来たので、キアンの罪は闇カジノで働いていた事だけになる。


 しかし多少の罰の上乗せは、しなければならない。

 シェリーは、そう考えていた。


 机の席に座っていたシェリーは、立ち上がってキアンに近づく。

 キアンの手枷に触れると粉々に破壊した。

 キアンは驚いてシェリーを見る。

 いったいシェリーは、どのような技を使ったのだろうかと、キアンは不思議に思った。


「まあ、姫様を傷つけようとしたのだから、何もお咎めなし……というわけには、いかないけれどね」

「では、私への罰というのは?」


 シェリーは楽しそうに身体を一回転させると机の上に両手と、お尻をつけてサディスティックな視線でキアンを見つめる。

 シェリーは目を細めて、いやらしく軽い舌舐めずりをしながら唇を歪めて答えた。


「そうね……鞭打ち百回といった所かしら?」


 キアンの表情が更に深い絶望へと変わる。

 死ぬよりはマシかも知れないが、鞭打ちも死ぬ程つらい痛みである事に変わりは無い。

 キアン自身に鞭打ちされた経験があるわけでは無いが、同じ獣人の仲間から体験談を聞いた事くらいはある。

 それほど殺傷力が高くない鞭が使用されているので死ぬ事はないが、三日三晩は身体中の痛みのせいで横になって安眠をとる事すら出来ない。

 仲間の内の一人が、そう語っていた。


「鞭打ちの刑は明日の太陽が天辺で輝く時に、この施設の正門前で行うわ」


 シェリーは机から離れると、キアンの顎に右手を添えて顔を持ち上げた。

 シェリーの掛けた眼鏡の向こう側にある赤い瞳に見つめられたキアンは、彫像のように動かなくなる。

 シェリーはキアンに触れたままで、ゆっくりと片手を下へと降ろした。


「当日は着ている服を全て脱いで貰うわよ?」


 シェリーの右手の人差し指が、キアンの乳首を服の上からなぞる。


「これも……」


 キアンの穿いているズボンにシェリーは、指先を掛けて引き摺り下ろす。

 キアンの下着が露わになった。

 シェリーは手の平で彼女の下着を前から撫で回す。


「この下着も脱いで貰うわ」

「そんな……」


 正門前で一般大衆へ公開する全裸での鞭打ち刑。

 恥ずかしさで言えば死刑よりも酷い罰だった。

 違法営業をしていた店で働いた者に対する普通の鞭打ち刑とレベルが違う。

 王族に逆らうという事は、こうも重い罪なのかと、キアンは今更ながら後悔していた。


 これで本格的に、この都市にキアンの居場所は無くなってしまうだろう。

 だからといって彼女に他の都市に移れるような貯金は無かった。


 キアンの両目から涙が流れる。

 彼女は目を閉じて願った。


「どうか……お慈悲を……」


 シェリーは制服の胸ポケットからハンカチを取り出してキアンの涙を拭いた。


「鞭打ちの刑すら拒むの?」

「……はい」

「貴女に、そんな権利は無いのよ? 分かって?」

「……はい」

「……どうしてもイヤ?」

「……はい」


 シェリーは腕を組んで困った表情を作る。


「まあ、全裸公開鞭打ち刑も大袈裟かもね……」


 シェリーは右手でキアンの頰に触れる。

 キアンはビクッと震えた。


「貴女が望むなら……私が主に直接とりなしてもいいわ」


 キアンは少しだけ目を開けるとシェリーを見た。


「本当ですか?」

「ええ、罰を受けなくても済むかも知れない」

「そんな事が可能なんですか?」

「私の主は狭量では無い心の広い御方……」


 シェリーは妖しく微笑む。


「だから、きっと大丈夫よ?」


 シェリーはキアンから離れると執務室の出入り口とは違う所にある大きな扉を開いた。

 その奥は仮眠室と呼ばれていたが、その名称に不釣り合いなほど豪華な内装に、豪奢なベッドが中央に一つあった。


 シェリーは扉を押さえながらキアンに振り向いて微笑む。


「でも貴女の罪を不問にする為には、私にも多少の苦労は必要なの」


 キアンはシェリーの視線から瞳を逸らす事ができなかった。


「だから貴女からの御褒美を前もって受け取りたいわ」


 それどころかキアンの身体は、少しずつ火照ってきた。


「魚心あれば水心あり……私が何を望むのか分かるでしょ?」


 キアンは瞳を潤ませながら、こくりと頷く。


「覚悟を決めたら、服を全て脱いで、こちらの部屋の中へ、お入りなさい……」


 シェリーは、そう言うと仮眠室の中へと入り扉を閉めた。


 キアンは息を荒くしながら上着の裾に両手をかけて脱ぎ捨てる。

 足を引きずるように扉に向かって歩くと、ずり降ろされていたズボンが自然と脱げて床に残された。

 キアンは最後の下着に両手の親指をかけて脱ぐ。

 降ろされた下着と彼女の間が、粘液の糸で繋がっていた。


 夢遊病患者のように焦点の定まらない瞳のままでキアンは扉を開ける。


 そして仮眠室の中へと入ってしまった。

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