第2話 夫の仕事を紹介します。
◆元勇者ゆーさん
①「ゆーさんは元勇者です」
剣をかまえ凛々しい表情の少年ゆーさんの絵。
②「昔は異世界で魔王軍の部下たちを退治していました」
可愛くディフォルメしたモンスターたちを剣技や魔法で退治するちびキャラゆーさん。
③「でも今は--」
青年ゆーさんが真剣な表情で部下に「行ったぞ、そっちだ!」などと頼もしく指揮する絵。
④「こちらの世界で野良モンスターを捕まえています」
ピキューピキューと鳴く大量の小動物型ペットモンスターをサイクロン式掃除機をもって追いかける作業着姿のゆーさんたちのコミカルな絵。
(本文)
ゆーさんは現在こちらで異世界がらみのトラブルを処理するお仕事をしています。
この前のお仕事は自治体に依頼された野良モンスターの駆除でした。
野良モンスター問題、最近ニュースで話題ですよね。
こちらでも去年おまつりで子供たちに買われて捨てられ野生化したペットモンスターが大繁殖して大問題になりました(悲しい表情の絵文字)。
マナやエナジー、マスターとの絆をかてに生きるペットモンスターは確かにリアルな小動物とは違ってエサも食べませんしフンもおしっこもしませんので飼うのは楽ですが、自然界のエナジーバランスを崩してしまうのでやはり無暗やたらに繁殖させるのは大問題です。
モンスターだって動物と同じ、飼うなら子供たちに最後まで面倒見るようにとしっかり伝えたいですね☆
「おりゃあああ!」
耕作放置され雑草まみれな元水田を、部下の佐藤える子が大声を張り上げて指定されたポイントへ野良モンスターを追い込んでゆく。ピキュピキュ、キュキュキュー! 大騒ぎしながら黄色やピンクに水色といったまん丸くて愛らしいモンスターたちが追い詰められていく。
「社長、行きました!」
「了解!」
ポイントで待ち伏せていた雄馬は用意していた掃除機のスイッチを入れた。景気よくうなりだした掃除機は変わらない吸引力でモンスターたちをぐいぐい吸い込む。サイクロン式のポットは色とりどりのモンスターですぐにぎゅうぎゅう詰めになった。
触ることはできるエネルギー体のペットモンスターたちの殆どは一リットルほどのポットに一見たやすく掃除機に吸い込まれた。
目視できる範囲ではすべてのモンスターを吸い込んだ筈だが、確認のためにあたりを見回すと佐藤える子が声を張り上げる。
「社長、後ろ!」
振り向くまでもなかった。凶暴な敵意が自分に向けられる。いくらおとなしいペットモンスターでも生命の危機に瀕すれば人を襲うこともある……。しまった、と悔やんだより早く、人を飲み込むほど大きく膨らんだペットモンスターに一枚の呪符がつきささり、風船が割れるような音を立てて爆散した。
「大丈夫ですかあ~?」
呪符を打ったのは今回の仕事に同行していた中学生くらいの女の子だ。制服の上に神職に携わるような人間が来ている狩衣と呼ばれる衣装をまとっている。このあたりの霊がらみのトラブルを1999年以前から請け負っている霊能者だか陰陽師だかの元締め団体から派遣されてきた術者と聞いてはいた。霊能妖怪がらみのトラブルには彼らの顔を立てる必要があるので団体そのものとはつきあいがあるのだが、この少女とは初対面だった。
「ごめんごめん、ありがとう。えーと……」
「
にっこり、きれいに切りそろえた前髪の下にある形のよい目を弓のようにして少女は微笑んだ。
「そうだったね、ありがとう門土さん」
「どういたしましてえ。これくらいなんでもありませえん」
こちらには微笑みを向けたあと、佐藤える子にはちらっと視線を送ったあとプイっと顔をそむけた。
「ナイスフォローありがとう、みかどちゃん」
える子の声かけに無視をして、門土みかどは雄馬の服の袖をぎゅっと掴んだ。こらこら無視はよくないぞ、無視は……と注意しようかとちょっと迷った瞬間、がさごそと茂みから音を立てて今回の依頼人がやってくる。
「やー、どうもっす。相変わらずお見事っすね、火崎さん」
「お陰で今日から安心して眠れますじゃ」
ネクタイをしめたシャツの上に作業着を羽織り「西原」という名札をぶら下げたった若者と、小柄な老人の二人連れだ。老人は若者の胸元あたりまでの身長しかなく全体的にぷっくりと丸い。背後を見ればふさふさとした茶色い尻尾があった。
「わしらも出来ればモンさんたちと仲ようやりたいんじゃが、ピイピイキュウキュウばかりで話が出来んので往生してなあ」
野良化したペットモンスター問題は人間社会だけではなく土着の妖怪社会にも深刻なのだった。減少傾向に歯止めがかからない彼らの生息域に異世界のモンスターや精霊たちも外来種として地球に生息し始めたからである。今までひっそりと暮らしていた彼らも人間社会に積極的にかかわらざるをえなくなる程度には無視できない、なし崩しに異世界交流が進んだ1999年以降の社会問題の一つである。
掃除機の中のモンスターたちを45ℓビニール製ゴミ袋の中にぶちまけ、口をきつく縛る。それをさらに段ボールの中に閉じ込め、門土みかどが呪符をはりつけ封印した。
みかどはその段ボールをかかえ、にっこり微笑む。
「モンスターたちの浄化はいつも通り当方で行いますう」
「すみませんね、いつもお任せしちゃって」
「いいええ、それがお仕事ですんでえ」
市民から異世界がらみの苦情が寄せられた市役所が指定業者に連絡、今回の場合野良モンスターの捕獲は火崎異世界トラブル請負所の担当で、捕獲した野良モンスターの浄化や処理は門土みかどの所属する霊能団体の担当ということになっていた。
市役所職員西原はしげしげと雄馬の持つ掃除機を観察する。
「その掃除機さえあれば俺らでも駆除できんじゃないすかね?」
「そういう訳にもいかないんだよ、こう見えてこれ動かすのに魔力が必要だから」
このご時世にもなんとか形を保っている里山に代々くらす化け狸の長老は、一行の片づけ作業を見守りながらにこやかに茶でも飲んで帰りなされとにこやかに誘う。雄馬と西原は顔を一瞬見合わせた。化け狸と茶……。
「やー、お気遣いなく。市民のサービスに努めるのが市役所職員の仕事ですんで」
西原が調子よく断ると化け狸の老人はほっほと愉快そうに笑った。
「冗談ですじゃ。
「はい、狸ジョーク一ついただきました~!」
西原はどこまでも調子が良かった。異種族だろうが異世界人だろうが元勇者だろうが陰陽師だろうが、彼はどんな相手でもこのノリだった。およそ公僕にふさわしくないキャラクターなのに市役所の地域他種族共生課という謎の部署に配属されているのはこういう性質故なのだろう、と、作業用ミニバンに荷物を積みながら雄馬は思う。
撤収作業が済むと狸の長老と別れて車に乗り込んだ。運転席に雄馬、助手席に門土みかど。雄馬の後ろの座席に佐藤える子、その隣に市役所職員の西原。西原が最後に狸の長老にあいさつをしてからミニバンを発車させる。
バックミラーで狸姿に戻った長老ががさがさと茂みの中に戻っていったのを確認する。
日はもうかなり西に傾き、空はオレンジ色に染まっていた。街のはずれから中心部に戻るための国道に入るミニバンのラジオからはDJのおしゃべりが流れている。
「いやあ火崎さん、今回も見事なお手際、さっすが元勇者っすねえ。で親睦も兼ねてこの後飯でも行きませんか。飯でも」
がっつきすぎだろ、と心の中で突っ込みながら雄馬は苦笑した。西原の目的は銀色の髪と金色の目と作業着を着ていても分かるスタイルの美しさが際立つえる子なのは明白だ。
「飯ってそれはダメだろ。門土さんをおうちまで送らないと」
「みかどと呼んでください」
門土みかどが不思議な割り込み方をする。
「私は構いませんよお。どうせ家には誰もいませんしい。父母も仕事で留守にしておりますのでえ」
ついでに妙に語尾を伸ばした不思議なしゃべり方をしてねっとりした視線をこっちに向けてくる。変わった子だなあ、と雄馬は思う。そこに何か記憶をくすぐられるものがある気がした。
「あーそうすね、じゃあ佐藤さん。この後一緒に飯でもいきません?」
さすがに中学生交えて親睦会はマズイと踏む程度の世間知は西原にもあったと見えてよりダイレクトにえる子を誘った。だからがっつきすぎだってと雄馬はハンドルを握りながら心の中で突っ込んだ。
「ダメですよ。美里と一緒に新しくできた店のラーメン食べに行く約束してるんで」
える子はあっさり断った。西原は食い下がる。
「じゃあ俺も一緒についってっちゃあ…………駄目っすね。了解しました~」
ふふっと隣の席で門土みかどが楽しそうに笑っていた。果たして中学生に聞かせていいような会話なのかと雄馬は少し不安に思う。
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