世界を救った勇者の妻である元異世界の王女が描いたほのぼのエッセイ四コマ漫画。

ピクルズジンジャー

第1話 はじめまして

マリママブログ ~異世界からやってきて子育てしてます~


◆はじめまして


①「はじめまして。ようこそいらっしゃいました」

 「マリママと申します。以後おみしりおきを」


  ゆるくウェーブした金髪を持つタレ目の二~三頭身女性キャラクターがコマの中央で三つ指ついてお辞儀した絵。

 吹き出しがふたつ添えられている。


②「こちらは私の旦那様、ゆーさんと、二人のこどもたち、ひめことおーじです」


 マリママ、コマの奥にいる赤毛の短髪でやや釣目の男性キャラクターと、彼がだっこしている二人の子供を紹介する。

 子供のうち大きい方は頭にリボンを結んだ釣目の女の子、小さいのはタレ目の男児。全員二~三頭身のちびキャラ。


③「私たちは家族四人で暮らしています。どこにでもいる普通の家族に見えますが……」


 マリママが家事や育児に奮闘しているイラストに四角い吹き出し。


④「実は異世界の危機を救った勇者と姫だったのです!」


 剣を構え凛々しい表情の若いゆーさんと、巨大な杖を持ち運命に翻弄されるプリンセスらしい風情のドレス姿なマリエッタの絵。そしてギザギザの吹き出し。ドオオオン! というバトル漫画風描き文字。



◆はじめまして その2

 

①「私は悪しき魔王から世界を救う伝説の勇者としてゆーさんを召喚し、異世界を冒険しました」


 ゲーム機につながれたテレビ画面から少女のマリママが飛び出し、コントローラーを持って驚き飛びのく少年ゆーさんの絵。


②「私たちは苦難の旅の末、魔王を退治し世界に平和を取り戻しました」


 悪しき魔王らしき黒い異形のシルエットと立ち向かうシリアスなタッチの二人の絵。


③「今は某県のある町で一家四人、平和で楽しい生活を満喫しています」 


 打って変わってチビキャラによるのどかな日常イラスト。帰宅したゆーさんが、妻のいるキッチンに顔をみせて「ただいま。今日はカレーか」などと言っている絵。それを見て微笑む妻マリエッタ。カレーカレー! と喜ぶ幼い姉と弟も。


④「そんな私たちのごく普通の毎日を漫画にしていきたいと思います☆」

 「どうぞお楽しみに~」



 笑顔で手をふるマリママとその家族。



(本文)

 はじめまして☆ マリママと申します。


 ちょっと変わった経歴をもつ二児の母です。

 子育て漫画を読むのが大好きなので自分でも描いてみたくなりました☆


 漫画でも触れましたが帰化異世界人です。

 元異世界人からみた日常生活なんてのも描けたらなと思っています。

  

 どうぞお楽しみに~(笑顔とハートの絵文字)。




「うわっ」

 スマホの画面を見た社員たちは小さく声を上げた。

「社長の奥さん、めっちゃ絵がうまいじゃないですか」

「ほんと、プロみたいですね。同人でもされてたとか?」


 妻の漫画が褒められているのに社長用のデスクでひじをつき、火崎雄馬はうかない表情だ。


「どうしたんですか、社長? イケメンに描いてくれてるのに」

「いや、そういうことじゃなくて……」


 妻がそれを描くために家事が手抜きになっている、三日三晩できあいの総菜で家の中がとっ散らかっていることが雄馬には不満だった。それを二人の部下に説明しても共感してもらえるだろうか。

 二名の部下は二人とも女子だ。しかも雄馬より十歳近く若い。妻が家事に手を抜くなんて愚痴をこぼそうものなら絶対反撃がとんでくる。


『えー、いいじゃないですかご飯が総菜なことくらい! 死にゃしませんし。奥さん十代でこっちに来てそれからずっと専業主婦されてたんでしょ? 趣味ぐらい好きにやらせてあげてくださいよ』

『部屋が汚いなら率先して掃除くらいしなきゃあ。仕事仕事ばっかりだと熟年離婚されますよ?』


 俺たちの仕事って肉体労働でしょ? そのあと家事するって言ってもさあ……?


『はぁ~? うちだってばりばり肉体労働してますけどお互い家事はやってますよ? ねえ?』

『うちらにできて社長にできないことないでしょう? 甘えちゃ駄目ですよ』


 二人の部下に責められる図をシミュレーションした雄馬は瞬時に黙った。このジャンルで女子相手に口では勝てない。勝てるわけがない。

 なので雄馬は笑顔で取り繕った。


「うん、まあ。そういう私生活を公開するのって俺にはちょっとピンと来なくてさあ。だってわざわざ読みたいと思う? どこかの誰かがどこ行ったとか何食ったとかそういうのって?」


「そっすか。あたしは結構好きですよ? 有名人のインスタのアカウントいっぱいフォローしてますし」

「社長の奥さん、異世界の元プリンセスでしょ? そういう人の描く漫画だったら内容どんなでも読みたいってい人いますよ、絶対」


 そこも雄馬の懸念材料だった。


「そこなんだよなあ……。1999年に魔王と戦った元異世界のプリンセスって探せばすぐに分かるでしょ? 俺らあの時結構新聞のインタビューに答えたりしてるから特定されやすいと思うんだよね」

 

「あー、身バレは怖いっすね。確かに」

「ああいう特定班みたいな人たちってちょっとした情報から住んでるところから子供の通ってる学校まで突き止めるらしいから。その辺は気を付けた方がいいですよね」

 

 今回は二人の部下もうんうんと頷いてくれた。どういう形であっても雄馬の漠然とした不安が共有されたのが嬉しい。


 ある日の「火崎異世界トラブル請負所」の昼休みはそんな具合でのどかに過ぎた。

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