第8話 ラスボスイベントは長くて、鬱陶しい!

 ついに魔人エルゲムの部屋にたどり着いた勇者。エルゲムは笑いながら言う


「ケーキ職人?ふざけた事を。先ほどの身のこなしは、明らかに剣士のものであろう。まあ、しょせんは人間技だがな」


 勇者は ”ああ、その通りだよ畜生” と心の中で毒づいた。勇者の剣術は人間同士の戦いを想定したもの、魔法を使う相手は想定されていない。連射の利く銃と戦うようなものだ


「子供の頃に少し習っただけだ。ケーキ作りが本業だ」





 勇者は事態を打開するための案を高速で思考する ”銃の方がまだいい。あの空気の刃は連射できるのか? 出来ないから話しかけて出方をうかがってる? なら、撃たせてから斬るか。いや、あれだけがアイツの魔法とか考えにくい、手の内が読めん。剣で跳ね返せる!わけないしな、伝説の剣装備してないもん”





 と悩んでいる勇者に、エルゲムは鋭い目で言い放った


「ここまで来た事は誉めてやろう。そうかケーキ職人か、では祝いのケーキ代わりにだ…その命、吹き消してやろう」


 勇者の頭に様々な案が浮かんだが、ある思考が常に前に浮かぶ


 ”ああ、早く帰りたい”


「ボウリン!」


 勇者は危険を察知し、火炎魔法を前方に放つた


「えい!」


 エルゲムが手を振ると空気の刃が炎を切り裂き勇者に迫る


「ビュン!」

「ブオン!」


 勇者は切り裂かれた炎から空気の刃の軌道を読んで避ける


「せい!」


 攻撃を躱されたのにもかかわらず、エルゲムは笑う


「貴様、魔法も使えるのか。ではこのまま撃ち合うか!?」


「冗談じゃない!本職と誰が張り合うかアアアアアア!!」


 奇声を上げエルゲムに勇者は斬り込む!


「シェエイ!」


 エルゲムは勇者を近づけさせまいと二連続で空気の刃を放った


「ビュン」

  「ビュン」


 勇者は先に放った火炎魔法によって高温に熱せられた床から上る陽炎を頼りにエルゲムの風刃を見切り姿勢を低くして躱し


「キエエッエエイエイ!!」


 そして勇者は自らその熱い床の上を身を焼きながら地面を這うように進んだ


「チイィィィイイイ!」


 ”あと一歩で間合いに!”と勇者が思った瞬間


「ふん」


 エルゲムは手をクイッと上げると


「キエエえうわァ!?」


 突然勇者の真下から突風が吹き、勇者は宙に浮く


「っ!?」


「空中では逃げ場がないだろう。終わりだ!」


 エルゲムは勇者に止めの空気の刃を放った


「ギュン!」


 攻撃しても届かない。あと一歩の距離を埋める為、勇者は剣を両足で挟んでその切先をエルゲムに向けて蹴った


「やかましい!とっとと死ねええ!!!」


 ロングソードと言う重りをつけた蹴りにより勇者の身体は大きく下がり。勇者の首を狙ったエルゲムの斬撃は外れる


「ぐをお!?」


 エルゲムの身体に勇者の剣が深く刺さった。勇者は足を離して地面に落ち転がる


「熱いアツイィィ!まだ冷えてないのか床ぁ!」


エルゲムは苦悶の表情をうかべたが


「ギロッ」


 エルゲムは大きく見開いた眼で勇者をにらんだ


「まだ生きてるかッ!」


 勇者はブーツナイフを抜きながら起き上がり、エルゲムを刺そうとしたが


「パシッ」


 エルゲムに前腕を掴まれて止められてしまう


「このッ」


 勇者はエルゲムの身体から剣を引き抜き


「ズブシュ」


 ナイフを持った腕を掴んでいるエルゲムの腕を手首を回す様にして斬り


「シュン」


 振りほどいて距離を取った


「はぁ…はぁ・・・さっさとくたばれってんだ。バケモン」


 勇者の悪態にエルゲムは笑みを浮かべて応えた


「貴様も大概だがな人間。だがもう遅い」


「なに…っ!?」


 床全体に魔法陣の様な物が浮かび、ダンジョン全体が大きく揺れる


「儀式は、もう完了する」


 エルゲムはそう言って、地面から上がって来た壁の中に隠れてしまった。壁はドーム状になり、中からエルゲムの笑い声がして誰に言うのでもなく叫んでいる様だった


「ハハハハハ! これで私は生まれ変わる事が出来る!新たな力を手に入れ、私が魔王に成り代わり魔族の支配する世界を作るだ!」


 勇者はゆっくり立ち上がり、気怠そうに言った


「ラスボス第二形態ってか? これだから嫌なんだよラストは面倒なイベント多くて…」


 勇者は息を整えて剣を構え、宣言する


「さっさとテメェ黙らせて俺は早く帰らせてもらう! もったいぶってないで、初めから全力できやがれってんだぁぁぁ!!」


 勇者は叫びドームに連続で斬りかかった!


「キエエエエエェェエエエエエェエエ!!!」


「ガンガンガンガン!」


 勇者は ”少しでもッ、穴が空けば!” と思い剣を振るうが、ドームはビクともしない。勇者の焦りをあざ笑う様にエルゲムは言い放つ


「ハハハ!無駄だ!この壁は膨大な魔力の塊ッ!ただの剣で傷一つもつかんわぁ!!」


「そうかい。だったら!」


「ガギン!」


 勇者は剣を床に叩きつけて、床を剥がし始めた


「ガンガンザクザクッ」


 エルゲムも外の様子が分かる様で勇者を嘲笑った


「今度は床の魔法陣を壊そうと言うのか?無駄無駄ッ、すこし削れた程度で儀式は止められん!」


「ッ!」


 勇者は剥がした床の地面に剣を突きたて地面を掘り始めた。エルゲムは呆れたように勇者に言う


「穴を掘って下から侵入する気か?悠長な事よ・・・」


「ザクザク、グリグリ…」


 勇者は剣の棒鍔を持ってドリルの様に穴を広げて後、剣を投げ捨てて。深く息をついた


「ふう・・・・」


 勇者は剣で掘った小さな穴に集中し、火炎魔法を放った


「ボオォウウゥゥリイイィィイ――――――」


 勇者の渾身の魔力が注がれた炎が地面の中かで炸裂する


「ぐ、うをッ!なんだ!?」


 勇者の思惑どうりド-ムの中のエルゲムは苦しみだす


「イイイィィイイイイ――――」


 勇者は呪文の発声を続けたまま心の中で嘲笑った


”この石の材質は保温性が高いみたいだからな、熱いだろう!貴様は自らオーブンに入ったのさ!! こんがり蒸し焼きにしてやる!!”


「うおおお!止めろおお!!」


”やかましい! そんなの生まれ変わりたきゃ不死鳥の様に炎の中で生まれ変わってみやがれ!!”


 勇者は手ごたえを感じ、容赦なく火力を上げた


「イイイリイイィィィ――――」


「うがあ!!」


 ドームの壁の一部が崩れて、中からエルゲムが飛び出した。勇者は発声を止めて、投げ捨てた剣を拾いエルゲムに構える


「インンっ!」


「カチッ」


 黒い人型の影のようになったエルゲムはポツリと呟き


「ま…おう・・・様、あ…なたは・・・甘すぎ…る…のです」


 勇者は苦しませる必要は無いと思い、エルゲムの首を切り落とした


「キェエイ!」


「ブシュウウウン!」


 エルゲムは四散し塵となった

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