第6話 勇者は飯テロリスト

 少し昔の話をしよう。幼い頃、勇者は、剣の稽古をやらされていたが


「早く帰ってゲームやりたい」


 と、頻繁にぼやく様になり。道場の師範がそんな彼に口約束してしまった


「ここの誰よりも強くなれたら、通わなくてもいいぞ」


 その師範の言葉を聞いた当時の勇者は


「わーい!じゃあ今すぐ倒すね」


「え?」


 素振り用の巨大な木剣を手に取り師範に襲い掛かった


「キエエエエエエエ!」


 自身の流派の性質上、先手を討った方が有利にも関わらず、師範は勇者の打ち込みを受け止め


「ガギン!」


「お、重いッ、これが6歳児の打ち込みか!?」


「キエエエエエエエ!キエイ!キエイ!キエイ!」


「うぅ! キエエエエエエ!」


 師範は勇者と3時間撃ち込み続けどうにか勝利し


「はぁはぁ…負けたぁ」


「ぜぇ、ぜぇ、ま、まだまだ修行が足らないな」


 初回に勝利したものの、次からは顔を合わせるたびに打ち込んでくる様になり


「キエエエエエエ!」


「きえええええ!!」


 風邪の日も・・・


「キエエエ!」


「弱った所を狙ってくるか! させん!」


「ガキン!」


 雪の日も・・・


「キエエエ!」


「雪を切り飛ばしながら打ち込んでくるだとお!?」


 2年後・・・・


「も、もう手に負えません!」


 師範は折れ、両親に直談判した


「どうしよう・・・・」


 剣術道場を追い出された勇者はその後両親に


「対人競技は相手が危ないから・・・これなら」


 と、陸上をやらされた。もちろん、逃げ足が速くなって更に手に負えない存在になったのは言うまでもない


     ・

     ・

     ・ 

     ・




 そして現在。不幸な事から異世界に飛ばされた勇者は・・・


「うおおおおお!」


 勇者は大人になっても欲望の赴くまま、邪魔者を排除する為ダンジョンへ走っていた


「ピギギッ、人間が出て来たぞ!!」


 その勇者の前に物陰から次々と魔物が現れ、道を塞いだ


「ヒャッハー!昼飯だ・・・あ?」


「あの人間、目がヤバくないか?」


 ゼリーアメーバ軍団が勇者をそう為にあらわれた、のだが勇者は数十体の魔物を見ても躊躇することなく突進する


「うおおおおおおおおおおおおお!」


「ブチィ!プギ!グシャリ!」


 ゼリーアメーバA、B、Cは勇者に踏み潰されて倒された


「むっ!これは!!」


 勇者はレベル2になった


「レベルアップか! たくさん雑魚が湧いてるし・・・まさかここは経験値を稼ぐためのボーナスステージ!」


 ゼリーアメーバの群れを通り過ぎた勇者は目の色を変えて方向転換しゼリーアメーバたちに迫る


「…・・・ドドドドドドドッ」


「ぴぃぃぃ!? アイツ戻ってくるぞ!」


「皆殺しにする気だ!」


「逃げろぉー」


 怯えたアメーバ達は散りじりになって逃げたが、勇者は適当なの群れに駆け寄った


「ピギィ!」


 ゼリーアメーバは勇者をまくために林の中に逃げる。林の木には色とりどりの果物が実る綺麗な土地だった。魔物が居なければ楽園の様な場所だろう、ついでに鬼の形相の勇者も居なければ


「ゼリー風情が、ケーキ職人から逃げられると思うなよ!」


「ピ、ピイ!?」


「キエエエエエエエエ!」


 勇者は背中からサクスを抜き、がむしゃらに振り回した。勇者のサクスによりアメーバ達は周りの木々と共に細切れにされ


「ザスザシュガシュズブリ!」


 ゼリーアメーバ達は、季節の果物の甘みとゼリーアメーバの鹿おも溶かす酸味の織りなす豊かな香りの一品に仕上がった


「よし!色合いもバッチリだ」


 勇者はレベル3になった。火炎魔法ボウリンを覚えた


「魔法か、これで楽になるか・・・む!?」


「ピッ!?」


 勇者は生き残りの魔物を発見し、火炎魔法を放ちながら追いかけた


「ボウリン、ボウリンボウリンボッボッボッボッボッボッボボボ!」


「ブワン、ボオオウ、バアン!」


 呪文の詠唱時間は唱える度に短くなっていき、無数の火の玉がアメーバ達を襲う!


「ピギイイ! 皆殺しどころじゃねえ!! ヤツは俺達を料理して食い殺す気だ!」


「ピピィ!あそこに川があるぞ!飛び込め―ぇぇ!」


「バシャアアン!」


 ゼリーアメーバ達は川に飛び込んだ


「こしゃくなっ! ついでに火炎魔法が水でどれだけ弱体化するか試すとするか!」


 勇者は魔力を高めて川に火炎魔法わ放った


「ボオォリイィィィィン!!」


「ブジュウウウウウウ!」


 勇者の火炎魔法で川が沸騰する。水温が急激に上がった事によりウナギ達が一斉に動き出した


「ウネウネウネ」


「ピッ!ガゴボオ・・・」


 ウナギは少しでも冷たい場所に行こうと、自らゼリーアメーバ達の身体の中に次々と入って行く。本来ならアメーバの酸で軽々と溶かされてしまうのだが、アメーバの許容範囲を超えてしまいゼリーアメーバ達は力尽きた。勇者は満足したように腕を組んで頷いた


「うん、十分な威力だな!」


 ウナギゼリーアメーバ、酸で程よく溶かされて骨まで食べれる丸ごと入ったウナギと、よく煮込まれ苦悶の表情を浮かべるゼリーアメーバのグロテスクな珍品に仕上がった


「しかし、これだけの数を倒してももうレベルは上がらんか・・・・先を急ごう!」


 勇者はダンジョンに向かって再び走り出す


「うおおおおおおおおおおおお!このまま突っ切ってやるー!」

 

 勇者は今日も自分の楽しみを邪魔する者には手段を択ばず、容赦は無かった

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