第4話 勇者発進!

 アルガントゥム王国神殿。この銀色に輝く神殿で神官達が祈りを捧げている。その光景を王は険しい顔で見守っていた


「このままでは、魔人エルゲムの魔の儀式が完了してしまう・・・、そうなってはこの国がッ。早く来てくれ勇者よ」


 王の願いが通じたのか魔法陣が光り輝き始めた


「パチパチッ」


「おお、召喚の儀は成功したか!」


「ブオン!」


 魔法陣の中心に天から光弾が堕ち、人影が現れた


「これが勇者・・・」


 召喚された勇者は純白の服に身を包んだ男だった。王は ”エプロンや帽子をしたらパテシエに見えてしまうのでは?” と考えてしまったが ”いかんいかん、異世界の装束を侮辱するような発想は” と思い、考えを振り払った


「痛ちちち…乱暴な召喚しやがって。あ・・・」


 勇者は自分の足を見て、靴を履いてない事に気付いた。これでは直ぐに外に出れないと焦ったが、立ち上がる為に手を床に付くと指先に何かが振れる


「俺のブーツじゃないか、気が利くね全く…」


 勇者は無言でブーツを履き、丁寧に紐を結んだ。王は勇者を歓迎しようと前へ出たのだが・・・


「おお、勇者よ!良く来てくれ・・・」


「ギュッ」


 勇者は靴紐をギュっと縛って、あまった紐をブーツの中に押し込むと。王をキっと見据えて言い放つ


「悪いがチュートリアルはスキップだ!」


「何を言って・・・?」


「邪魔だどけ!」


 王は勇者の意味の分からない言葉に困惑していると、勇者に跳ね飛ばされた


「勇者殿!?」


 困惑する王に見向きもせず、勇者は走った!力の限り早く・・・より早く!


「ドゥエイ!」


 変な奇声を発しながら前転、スライディング、バックステップ、サイドステップなど、あらゆる移動手段を試し、より早い移動法を模索しながら勇者は城内を駆け巡った


「なっ、なんだ!」


「侵入者だ!不審人物が城内に居るぞー!」


 事情を知らない衛兵が勇者を発見し止めようとしたが、勇者の高速かつ不規則な動きに全く対応できなかった


「むっ、む!ほぁい!!」


「「飛んだ!?」」


 勇者はバク宙で階段を飛び降りたが――――


「グキッ」


「ふっ!痛っ!ちぃ!!」


――――着地に失敗して転んでしまった


「「転んだ!?」」


 衛兵達が勇者の様子に驚いていると、騎士団長から怒号がとんだ


「バカ!今がチャンスだ取り押さえろ!!」


「「了解!!!」」


 衛兵達が勇者を取り囲む前に、勇者は叫びながら起き上がり包囲網を突破した


「あぁああ!!普通に走った方が早ええぇ!!」


 出口に走る勇者の前に一人の屈強な騎士が立ちふさがる


「待たれぇい!」


 その騎士のミスリルの鎧は銀に光り輝き、手に持つハルバートはあまりにも分厚く大きな斧を持っていた。その騎士が勇者に向かって名乗りを上げる


「何者かは知らぬが、城外に出すわけにはいかぬ! 我が名はディエル・ファルキンス・ロー・ジャンロム……」


「長いわぁああぁあぁああ!!!!」


 勇者は騎士の長い名乗りに怒り。立ちふさがる騎士に奇声を上げ突撃した


「キェエエエエエエエエエ!」


「物狂いか!? ちぃ」


 騎士は勇者を迎撃しようと武器を振り下りした


「キェェェエエエッ、ウエエイ!!!!!」


「むっ!?」


 騎士も含めて他の誰もが勇者の頭に振り下ろされると思われたハルバートが空を切ると同時に、勇者は大きく半身になりながら騎士の顎に掌底を食らわせた


「ガスッ!」


「うっ!?」


 騎士にダメージは無かったが隙が出来て、その間に勇者は城外にでてしまった。勇者は流石に悪いと思い、騎士に助言を言いながら去る


「敵の攻撃を誘って攻撃するのはアクションゲームの基本だ! それと耳!FPSやって耳鍛えろ!銃声や爆音の中でも足音を聞き分けられるようになれ!!」


 勇者の意味の分からない言葉を聞きながら騎士は奉仕状態になり、一言呟いた


「私が間合いを見誤った・・・・なぜだ?」



※勇者のスキル{猿叫}


 勇者が幼い頃、両親が家に籠ってゲームばかりしている勇者を運動させようと地元の剣術道場に通わされていた時に習得した技


 人間は視覚情報と聴覚により相手が迫ってくる音を聞き分け間合いを判断する。これを利用し、歩法と組み合わせて利用される


 その歩法とは一定のリズムとスピードで相手に迫り、相手が行動を起こすであろう間合いに入った瞬間にリズムを変え相手を惑わす。相手が反応したら手前で歩みを変え虚を打たせ懐に飛び込む、相手が反応出来ていなかったら大きく踏み込んで一撃を加える


 猿叫はこの歩法の足音を大声でかき消し、足さばきを悟られないようにし、接近する際に声のトーンを変えて間合いを錯覚させる


 徐々に声の音量を上げて実際よりも早く接近してると錯覚されたり、声を絞る様に出して相手に攻撃してくると思わせるのである


 叫んで迫った時には敵はすでにこちらの術中――――


――――敵はこちらの初太刀を躱す以外防ぐ術無し


 勇者の両親は後にこう語っている。初めにこの道場に通わせたのが間違いだった・・・と

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る