第11話 過去の夢
──最近私はよく昔のことを夢で見る。
それは今から数年前、私は初めて恋をした時のこと。相手は自分より少し年上で、その子は私の住んでいる街から遠いところから少しの間遊びに来ていた……。
その人との出会いはあの公園だった。
……その時のことは今でもよく覚えている。
いつも愛優さんや凛菜さんとは遊んでいたのだけれど、その時はたまたま二人とも家の都合で遊べなかった。
こういう日、私はいつも時計塔の最上階へ行ってこの街を眺めるのが恒例となっていた。
この時計塔はお母さん達の青春らしく、私にだけこっそりとそこの入り方を教えてくれた。
お母さん達曰く、そこで他の人に会ったことないと言うのできっとここの入り方を知っているのは本当に数が限られているのだろう。
なので一人で静かに過ごすには持ってこい……だったのだが。
「……あれ?」
最上階へあがるとすぐに違和感を感じた。
最初はなんとなくいつもと違う……そんな気がしていただけなのだが、それはすぐに気のせいではないということを教えてくれる。
「あなたは……?」
そこには見たことがない人が何かをしているわけでもなく、ただ街の風景を眺めていた。
別にここは私やお母さん達だけが知っているわけではないので、他に誰かいてもおかしくはないのだけど、誰かがここにいるなんて初めての経験だった。
名前も知らない男の人……いつもならそのまま引き返していたはずなのに、何故かその時の私は……。
「……この街は、好きですか?」
そう彼に話かけたのが始まりだった。
最初の頃は私が一方的に話しかける形だったのだが、少しずつ時間が経つにつれ彼も話すようになり、気付いたら愛優さんや凛菜さんと同じくらい仲良くなっていた。たった数時間、それだけなのに……とても不思議な人だと思った。
その日の帰りに私は彼の名前を聞くと、彼は春野と答えた。
正確には下の名前もいっていたけど、風が吹いて聞こえなかったのだ。もう一度聞き直そうと思ったが、その時には彼は既にどこかへ行ってしまっていた。それから私は彼の事を「春野さん」と呼ぶようになった。
春野さんとはその次の日やその次の日も公園でお話をした。自分がケーキ屋さんだと言った時、彼が物凄く興味を持ったように見えて、それが嬉しくて自分の家に招いたことが何回もあった。
お母さんやお父さんにも新しい友達が出来たって紹介して、二人でケーキ作りをしたり……。
そんな楽しい日が経つにつれて、私は春野さんの事が好きになっていった。
しかしそんな日々は長く続かなかった。私は彼に会いに公園に行った。もちろん彼はそこにいたのだが、いつもと違いその日は少しだけ元気が無いように見えた。
話を聞くと彼はこの街へはちょっとした観光に来ていて、今日で帰るからこれでお別れになると……。
私はその時この気持ちを伝えようと決意した。もうこれで会えなくなると思ったから。だけど……私は言えなかった。
そんな私を見て彼は。
「また会いに来るよ、絶対に」
そう言って、私の頭を優しく撫でながら優しく微笑んだ。
だけど私は離れるのが嫌で……。
「──嫌です。行かないで、ください」
「僕もそうしたいけど……」
そんなことを言えば彼が困るのはわかっていた。そして現に彼は困った顔をしていた。
それでも私は彼と別れるのが嫌だった。
「……なら文通をしよう。ってちょっと古臭いかな、あはは」
「文通?」
「うん、手紙を書くんだ。そうすればどんなに離れていても寂しくないだろ?」
「…………」
「……ごめんね」
彼の提案に私はいつまでも応えずにいると、彼は何故か謝った。
彼は何も悪くない、悪いのはわがままな自分なのに……。
私は覚悟を決めた。
「──いっぱい、お手紙を書いてもいいですか?」
「……うん、君の手紙いっぱいくるの待つよ」
「今日話せなかったことや、これから先話したいことが出来たら全部書いてもいいですか、例えどんなに多くなってもいいですか?」
「うん。愛音の話したいこと全部読ませて、僕はちゃんと全部読むから」
「それから、それから……」
私はこの時点で涙を抑えるのがやっとの状態だった。
声が震え、頭の中がぐちゃぐちゃになり、何かを言おうとしても上手く言葉にならない。
だけどそんな私に彼は……。
「大丈夫、僕はどんな事があってもここに絶対戻ってくるから。この街と愛音がいるスイーツエンジェルに、その時、また一緒にケーキを作ろう。今度はお店に出せるくらいのやつを」
「……わかりました。約束です」
「うん」
「私もあなたが戻ってくるまで、沢山ケーキ作りの練習をします」
「僕も、愛音に負けないくらい勉強するよ」
そして彼は自分の街へと帰っていった。
……これが私と彼の出会いと別れ。普通に考えると、また会える保証なんて無いけど、私はまた会えると思っていた。
その後、文通で何回もやり取りをした。今日は何があったとか、凛菜さんや愛優さんと遊んだこととか、春野さんと会った日はたまたま彼女達と遊べなかったからなんてことも。
そうしているうちに数ヶ月が経った頃だった。
ある冬の日、冬休みが近くなってきた頃、彼からの手紙に私は心を踊らせていた。
『年末までそっちへ遊びに行きます。十二月二十八日頃、スイーツエンジェルに顔を出します』
そう彼からの手紙の最後に書いてあったからだ。
そして私は彼が来るのを楽しみに待ち続けた。
やっと大好きな彼に会える、そして彼に会ったら今度こそ好きだって伝えるんだ。
……そう思っていたのに、結局彼が来ることは無かった。
その後、彼に何回か手紙を送ったけれど返ってくることも、また彼がここに戻ってくることも……。
それでも私は今でも信じている、絶対に戻ってくる……そう約束したから。
今でも彼の事が好きなはずだから。
……でも、どうしてだろう。何年経っても変わらないと思っていた。
だけど今の私は揺れていた。
最近出会ったはずの彼……ソラさんに。
私はどうしたらいいかな、教えてください……。
──春野 夜空さん。
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