第4話 ここから


 僕がスイーツエンジェルで働く事を決心し、それを伝えたのが昨日の夜の出来事。

 今日から新しい生活に新しい仕事、色々あるけど頑張るぞ! と気合いを入れて起きた矢先……僕は目の前で起こっている別の問題に────困惑していた。

 

 「すぅー、すぅー」


 その困惑の原因……それは何故か隣ですーすーと寝息を立てて寝ている彼女──櫻宮愛音さくらみやかのん

 僕が目を覚ますと何故か彼女は僕の隣で寝息を立てていたのだ。


 「ちょっと待て……一旦考えよう。僕はこんな痛いけな少女を自分の布団へ連れ込む最低野郎だったのか? 否! 断じて否だ!」


 そうだ、僕は恩人に対して……しかもこんないたいけな女子中学生相手にそんな事をするはずがない……と、思っている。


 「でも僕が連れ込んだのではないとしたら、何故愛音さんは僕の布団に……」


 彼女の部屋にはベッドがあり、もし夜中に起きて間違えたのならベッドに入るはずだ、しっかりものの彼女が布団に間違えて入る確率は恐らく低い。


 「不味いな……考えれば考える程僕が連れ込んだのでは? という疑惑が出てくる……いや、潮乃しおの 夜空よぞら! 自分を信じろ! 僕はあいつみたいにロリコンではないと!」


 あいつ……それは、小学校中学とずっと一緒だった親友。

 ちなみに一応高校も一緒。

 そいつは自分自身で認とめているロリコンで僕はそいつとよく遊んでいたため何故か無関係のぼくを含めてロリコンビとか言われていた。

 全くもって酷い言いがかりだと思う。


 「────と、今はそんなことより布団から出ないと……よいしょ。流石に何かの事故とはいえ、愛音さんと一夜を過ごしたなんて……」


 これが例え僕の知らない間に起きた事故であったとしても、はたから見たら僕がここに連れ込んだということになりかねない。

 とりあえず僕は静かに布団を出ようと決心し、行動に移す。


 「……どこに、行くんですかっ!」

 「!? って愛音さん! なんで抱きついて……うわっ!」


 しかしそれも虚しく、寝ぼけた愛音さんに妨害され僕は再び布団の中へ。

 それだけでも悲しくなるのに、愛音さんが後ろからしっかりと抱きしめられているので、動くに動けない。

 しかし、その、なんだ。

 よくアニメとか小説では胸が大きい女の子に後ろから抱きつかれると豊満な胸が背中に当たって主人公がドキドキしたりする、そんなシチュエーションがあるけれど……。

 僕はそこで彼女をチラリと見る。

 

 相手が中学生……それも(こう言っては愛音さんに悪いけど)ほとんど凹凸の無い幼児体型の愛音さんだと、そう言ったのは全く無いらしい。

 まぁ抱きつかれたのは少し嬉しいけど……あ、これはあくまでも男なら抗えない感情でロリコンだからとかじゃないからね?


 「本当に僕はロリコンじゃないからね!!?」

 「う、うーん。うるさいですよぅ……」

 「ごめんなさいっ!」


 突然の事でつい誤ってしまう。

 と言うかなんで寝言に謝っているんだ……。

 そう思っている間も愛音さんは僕の事を抱きしめ続ける。

 その時間が経つに連れて、愛音さんの方から花のような甘い香りが漂ってくる。

 意識しないようにしていても、密着しているという状況もあってかどうしても意識してしまう。


 「うーん、これは早めに起こさないようになんとか脱出しなければ……」


 幸い愛音が抱きついているのは上半身の方なので、上を脱げば脱出できる。

 女の子の前で脱ぐなんて……とも思ったがこれは上半身で、なおかつシャツも着ているから大丈夫だと思う。

 それに今は非常事態だからそこは大目に見てもらおう。

 僕は早速上を脱ぐために体を動かそうとするものの……。


 「……って、あれ?」


 が、それも虚しく終わる。

 予想以上に愛音の抱きしめる力が強かったわけではないのだが……がっちり抱きつかれているせいでそもそも動けなかった。


 (うーん、参ったなぁ)


 そこで再び考えていると、まだ半目で眠そうにしている愛音さんと目が合う。


 「……ふぇ?」

 「お、おはようございます」

 「ふあぁ、ソラさん、おはようございまふ……」


 可愛らしいあくびを一つ。

 どうやらやはりまだ寝ぼけているようだ。


 「あの、愛音さんそろそろ離してもらっていいですか?」

 「ほへ? ……わかりましたぁ」


 そう言うと彼女は僕から離れる。

 あぁその後何事もなく部屋の扉の方へと歩いていく……そうだったらどんなによかった事か。


 「愛音さん!!?」

 「……はい?」

 「何やってるんですか!?」

 「何って……私まだパジャマなので制服に着替えるだけですよ~……ほわぁ~」

 「あ〜なるほどなるほど、確かにパジャマのままは不味いから着替えたらもっとまずいことになるよね!?」


 そう、彼女はあろう事かそのまま扉の方へ向かわず、その場で服を脱ぎだしたのだ。


 いけないと思いつつも思春期男子の悲しい性……手で顔を隠しても指と指の隙間から愛音さんの着替えをチラリ。

 そこから見えた光景に思わず息を呑む。


 ──綺麗な肌だ。


 第一印象はそれだった。

 色は完全に白く、この白さは女性ならみんな羨ましがるくらいだ。

 そして、なんと言ってもスラリとした身体。

 ほとんど凹凸が無いとは言え、その身体に僕は見惚れてしまっていた。


 ──って! 違う違う! 今はそんなこと考えている場合じゃない!


 「愛音さん! 今すぐ止めてください! そのボタンを外す手を止めて!」


 「? わかりました……ソラさんは下から着替えないと気が済まないタイプなんれすね……ふぁ~」


 そう言って今度はズボンに手を伸ばす。


 「あああああ!!!! ダメです! 下はもっとダメです!」


 愛音さんってこんな子だっけ? もっとおしとやかと言うか……って、僕はまだ愛音さんの何も知らないのに……。


 「ふぇ? あ、あのソラ、さん?」


 突然手が止まる。

 すると頭上から昨日と同じ落ち着いた声が。


 「ソラさん、おはようございます」

 「おはようございます」

 「あ、あの……それで何故私のパジャマのズボンを掴んでいるのでしょうか……」

 「えっ?」

 

 それは愛音さんがいきなり脱ぎ出そうとしたのでそれを止めていました……と、言いたかったがこの状況を見てそれで納得する人はまずいないだろう。

 どちらかと言えば無理やりズボンを脱がそうをしている僕に対して必死に抵抗する彼女……の方が正しい。

 僕は目の前でチラリと顔を覗かせている魅力の白い布地でさえ目もくれずに恐る恐る彼女の顔を見る。

 

 「あ、あの、愛音さんこれはですね……」


 言葉一つ一つ発する度に変な汗が出てきてしまう。

 ここで発言をたった一つでも間違えてしまえば僕は豚箱という名の牢獄に直行しゲームオーバーになってしまうだろう。

 こんな時に限って変な名言が頭の中をよぎってしまう。

 『YESロリータNOタッチ』

 全くその通りだと思う。触らぬロリに逮捕無し、うんうん。

 などと一人で自己解決していると、以外にも脱がされているようにしか見えない彼女は昨日と同じ冷静に答える。


 「……もしかして私何かやらかしたりしてしまったんでしょうか?」

 「えっとお……やらかしたと言いますか……やらかしそうになったと言いますか……」


 いくら相手が冷静とはいえ、女の子相手にいきなり脱ぎ出しそうだった、なんて口が裂けても言えない。

 とはいったものの、このまま誤解されたままなのもなぁ。

 なんて考えていると、


 「あのすみませんっ」

 「えっ?」


 突然謝られ思わず固まってしまう。

 しかし愛音はそんな僕に構わずそのまま話を続ける。


 「あの私実は……」


 「──つまり、寝起きが悪く。起きた直後は自分でも何をするかわからないと?」

 「はい……愛優さん曰く私の数ある弱点の内の一つだそうです」


 一通りの説明を受けた僕はホッと胸をなで下ろす。

 それはきっと誤解を受けなかったとかここで人生が詰まなかったなど色々な不安が消えたからであろう。

 それにしても意外だった、愛音さんにこんな弱点があったなんてしかも数あるって。

 いやまぁ完璧な人間などいないことは分かっていてもそれでも驚いてしまう。


 「あ! そう言えば愛音さん」

 「は、はいっ。なんでしょうか」

 「朝僕が目を覚ましたら、愛音さんが隣で寝ていたんだけど……」

 「あぅ……そ、それはですね」


 ん? なんで体をもじもじさせているんだ?

 もしかして、恥ずかしくて言えない事とか!? もしそうだとしたら僕はとんでもなく失礼な奴じゃないのか!?


 「か、愛音さん! もし言い難いのなら、言わなくても大丈夫ですよ!」 「い、いえ! 決して言い難いわけではないのですが……」


 彼女はそう言うと僕の方を真っ直ぐ向く。


 「正直なところ、私にもよくわからないのです。お恥ずかしながら私途中で寝てしまったみたいなので……」

 「そうですか……」


 と、その時。


 「あっ」


 愛音さんは何かを思い出したようで声を上げた。




 ──昨日の夜、愛音の部屋にて。


 「僕をスイーツエンジェルで働かせてください!」

 「えっ」


 私は突然の出来事に目を丸くした。

 自分が連れてきたとはいえ、何の前触れもなくいきなり働かせてくださいなんて言われたのだから当たり前と言えば当たり前。


 「ですが……スイーツエンジェルは……」


 そこで言葉が詰まってしまう。

 お店の状況がアレな事をノートを見たという彼には既に知られているとは思うけれど……いまのお店の事を知ったらきっとソラさんはここから出て行ってしまう気がしてならないしどうしよう。

 そんな考えが頭の中をぐるぐる回っていると、彼は口を開いた。


 「その愛音さん」

 「は、はい」

 「僕は出て行かないです」

 「──ッ!?」


 その言葉が出た時、一瞬頭の中が真っ白になる。

 自分でもわかるくらいにびっくりしていたのだ。


 「でも……スイーツエンジェルは……本当に……」


 辛い、今までなんとかなると信じてきたけれど自分が一番わかっていた事実を告げるのがとても辛かった。

 こうなることは途中からわかっていた。

 お父さんやお母さんが帰ってこなくなってから一年間私と愛優さんが頑張ってケーキの練習をして、私はまだまだだけど愛優さんがお店に出せるケーキを作れるようになって、お店を再開した。

 でもダメだった。急に一年間も休んでいたお店が再開しても昔のように色々なところからお客様は来てくれない。

 近所の人達でさえ、再開したことを知らない人もいるくらいなのだから。

 それを一番わかっている私だからこそここはきっぱり言わなければいけない。

 ……そう思っていた。


 「──大丈夫ですよ」

 「……えっ?」


 気がつけば私は彼の腕の中にいました。

 まるで壊れそうな心を優しく包み込むような暖かさ、愛優さんとは違う安心感。


 「愛音さん、僕さっきまで考えていたんです。僕に出来ることはなんだろうって」

 「……はい」

 「それでたまたまこのノートを見てしまって……でもそのお陰で今の僕に出来ることがわかったんです。このお店……スイーツエンジェルを昔のようにしようって」

 「……はい」

 「愛音さんも諦めようとしても諦めきれないからこんな時でもノートをしっかりと取っているんですよね?」

 「はい……」

 「だったら大丈夫です。有名なあの人だって言ってるじゃないですか、諦めたらそこで終わりですよって」


 彼はそこまで言うと私を抱きしめていた腕を緩め、今にも泣きそうになっている私の瞳をしっかりと捉えると優しく微笑み、


 「それに僕が絶対になんとかしてみせます」

 「絶対に……?」

 「はい。この涙をあなたの流す最後の涙にしてみせます」


 彼に言われて私は気が付きました。

 知らないうちに私の頬を涙が伝っていたことに。


 「うっ……ひっく……」

 「え、あ、か、愛音さん?」

 「すみません……今だけ……今だけにします……」


 溢れる涙をそれでも必死に堪える。


 「なので、今日だけ……思い切り泣いてもいいですか?」


 私の問いかけに彼は一瞬だけ戸惑った顔をしたものの優しく「はい」と頷いた。

 それが合図だったように私は彼の胸元に抱きつき、思い切り泣きました。

 これをお店が元に戻るまでに流す最後の涙にするために、今まで溜め込んでいた不安なども一緒に流してしまうように……。




 それからどれくらい経ったのかはわかりません。

 彼はただ静かに私が泣き止むまで抱きしめながら頭を撫でてくれました。

 やがて私は涙を流しきると、疑問に思っていた事を口に出します。


 「あの……ひとつだけ聞いてもいいですか?」

 「はい」

 「どうして、スイーツエンジェルを……私達を助けてくれるんですか? こんな状況なのに、諦めずに」


 私の問いかけに彼すぐにこう答える。


 「これは僕の恩返しでもあるんです」

 「……恩返し、ですか?」

 「はい。行くあてのない赤の他人であった僕を快く招いてくれた……みんなに」

 「ですが、私達は本当に何も」

 「まぁぶっちゃけるとこれは僕の自己満足です。さっきも言ったけれど僕は僕を助けてくれたみんなに対して何か出来ることを探していた……そしたらスイーツエンジェルの危機を知った。だから僕は助けてくれたみんなのために働きたいと思った、ただそれだけの事です」

 「はい……」


 思い切り泣いたせいか、恥ずかしくて顔を向けられなかったけれどこの時の私は彼がどんな顔をしていたか簡単に想像出来た。

 きっと彼は……先ほどと同じように優しい顔をしていると。


 残り二週間、ソラさんはまだ仕事の内容とか全く知らない。

 それなのにそこにお店の経営の事ともなると、かなりの負担になりかねない。

 もし仮に、仕事の内容とかを完璧にマスターしたとしても、今ではほとんどお客さんも来ないお店をたった二週間で繁盛させるのはかなり難しい。

 仮に今を持ちこたえられたとしても、もうすぐで春休みが終わる……そうなると今より短い時間でしか営業出来なくなる。

 つまり収入が更に落ちてしまうのだ。

 そうなってしまったらギリギリで踏みとどまれていてもすぐに終わってしまう。

 ……今までの私ならそう思っていた。でも今は違う。


 「ソラさん、明日から大変ですからね……」

 「わかってます。それに僕は男なのでみなさんよりは丈夫ですよ」

 「ふふっ……」


 心に余裕が生まれたからか、こんな時なのに何故か笑みが零れてしまう。


 「愛音さん、万が一ダメだったら……なんて考えないでくださいね。万が一ダメだとしても万の残りは大丈夫なんですから」

 「はい……と言うよりそのつもりはありませんよ。だってソラさんがなんとかしてくださるんですもんね」


 そこで私は顔を上げて今の自分に出来る一番の笑みを浮かべた。

 すると彼も私に応えるように微笑み返す。


 「ソラさん」

 「はい」

 「ここにきて早速ですみませんが……あなたの力、私達に貸してください」

 「はい。僕でよければ喜んで」




 「……それで確かその後別々の部屋に行って……ひゃぅ!」


 そこまで言うと愛音さんは耳まで顔を赤く染めて黙り込んでしまう。


 「愛音さ……んッ!?」


 顔を覗き込もうとしたその時だった、少し無理な体勢で立ち上がろうとしていたのが原因でそのまま彼女を押し倒す形で倒れ込んでしまう。

 そしてあろうことかそのタイミングで部屋の扉が開き。


 「あ、二人ともおはよう──ごめんなさい」

 「ちょっと待って!!?」


 そう言って愛優さんはそっと扉を閉めようとするものの、ストップをかけたからか半開きの状態でとどまる。


 「あ、愛優さんおはようございます」

 「うん、おはよう。それで……この状況はアレ、だよね?」


 そう言いながら僕の方をチラチラと見てくる。

 この瞬間、僕は確信した。

 これは間違いなく勘違いしていらっしゃる、と。


 「えーっとですね愛優さん。これは事故であって別にそういうわけじゃないんです」

 「これが……事故?」

 「えっ。えぇっ!!?」


 信じられないとでも言いたげな顔をする。

 どういう事かと僕は押し倒してしまった彼女の姿を見て声を上げてしまう。

 ただ転んで押し倒してしまっただけのはずなのにどういう訳か彼女の胸元は少し開き、何故かはわからないけれど可愛らしいおへそが「おはよう」と挨拶をしていた。

 そして何よりもズボンに至っては先ほどはチラリとしか見えなかった布地の全貌が明らかになるほどまで下がっていた。


 「ちがっ、これは事故なんです! 本当に、事故なんですよ!!」

 「でも……これは……ねぇ?」


 どうしたらいいのかわからないと言いたげにこちらを見る愛優さん。恐らく僕も同じような顔になっているんだろうな……。

 とか思っていると、思わぬところから助け舟が。


 「愛優さん」

 「な、なに?」

 「ソラさんの言ってることは本当です。これはただの事故なので」

 「そ、そうなんだ……でもパジャマってことは大丈夫だったの?」

 「あ、はい。そっちはソラさんが止めてくれたのでギリギリ」


 確かにそっちはギリギリセーフでした。

 今はギリギリもなにも余裕でアウトだけど。


 「まぁそれならよかった……のかな? とにかく愛音は早く着替えて、ソラさんは……こっちに来て」

 「は、はい! それじゃ愛音さんまた後で!」


 僕はそれだけいうと愛優さんに連れられるように急いで部屋から出た。



 「朝からハードだったねぇ」


 部屋から出ると彼女は早速いたずらっぽい笑みを浮かべる。


 「本当にハードでしたよ……」


 最後のは僕がいけないとはいえ、朝起きたら愛音さんに抱きしめられるわ、目の前で脱ぎ出すわで……。


 「でもソラさん的には結構良かったんじゃない?」

 「どういうことです?」

 「愛音ってあれで実は胸の大きさを結構気にしてるみたいで、この前わざと少し大きな声で、『夜何も着けないで寝ると大きくなるらしいよ~』って試しに言ってみたんだけど……きっと愛音は着けていないと思うんだよね」


 言われて確かにと、背中にくっつかれた時、柔らかさを感じたものの硬いものは一切感じなかった。


 「それでどうだった愛音の胸の感触は? 愛音って抱きつき癖があるから……体験したんでしょ?」

 「…………」


 その瞬間、彼女に抱きつかれた時のことがフラッシュバックする。

 それに伴いその時の感触、匂いなども蘇り自然と頬が熱くなっていった。

 それを見た愛優さんはニヤニヤしながら、


 「ソラさんって意外とそういうのに弱いんだね♪」

 「……あんな可愛い子に抱きつかれたりしたら大体の男性はこうなると思いますが?」


 せめてもの抵抗でそう返す。


 「ま、その気持ちもわからなくもないけどね。っと、それよりも朝食の準備が出来ているから早めに降りてきてね」


 それだけ言うと、愛優さんは何事も無かったかのようにそのまま階段を降りていった。

 たったこれだけの会話なのに僕は何故か彼女には到底かなわないような……そんな気がしたのであった。

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