第3話『強襲・雲谷』-2

「サンプルの確保、完了しました」

異生物の元から帰還した櫻井が報告する。傍らには、黒色をした結晶のような欠片がいくつか封入されたチャンバーが抱えられている。

「甲殻と関節部の表面組織を削って採取しました。少ない量ですが、組成等の分析程度なら問題なく行えるはずです」

「よくやってくれた。奴の動きは?」

問いかけられた川島は首をひねった。

「やはり妙ですね。……まるで植物みたいだ。微かに体温はあるのに、体を削られても微動だにしなかった」

「ふむ……植物か。大岳の花の話もある。案外、的を射ているのかもしれないな」

棟方の視線が櫻井に向けられる。

「櫻井くんは署に戻ってくれ。サンプルを分析にかけられるよう、すぐに手配を」

「了解。奴の対応について、後ほど詳しく聞かせてください」

「ああ。連絡する」

「じゃあ――あ、そうだ。一つ渡したいものが」

櫻井は警察車両のスイフトに駆け寄ると、トランクから何かを取り出して戻ってきた。

「何だね?それは」

「防磁型端末の類です」

鞄の中には、タブレット端末大の武骨な小箱がいくつか入っていた。櫻井はその一つを取り出して電源を点ける。

「EMCSは電磁波障害対策用のセンサだって言いましたよね。その実地調査用に用意されてたものを科捜研から持ってきておいたんです」

「実地調査用……つまり、強磁場中でも使えると?」

「ええ。極端な強度の電磁場に曝されてどうなるかまでは保証しかねますが、ある程度までなら」

櫻井が端末のボタンを操作しソフトウェアを起動させると、先ほど対策室で目にしたものと同様な円形パターンチャートが画面上に現れた。

「電磁場可視化チャートのプログラムが全機にプリセットされてます。上手く使ってください」

「ありがとう。あとは任せてくれ」

櫻井は敬礼すると、スイフトに乗り市街へと降りていった。




機動隊および対策班は雲谷キャンプ場、そのセンターハウスを仮設の指揮所とした。

施設の二階部分の外壁がガラス張りであったほか、異生物の正面にあたる地点に立地していたことから、現場の直接的な視認が可能であり指揮機能を置くことに最適であると判断したためである。

その指揮所内外では、伝令担当の機動隊員がせわしなく駆けまわり、放水部隊との連絡を取っている。異生物の放つ電磁場の影響で通信機器が使えない関係上、アナログな手法で連絡を取り合うしかなかった。

「――やはり現状の対処策は、監視の継続に留まりますか?」

指揮所内。棟方の呼びかけに、遠藤隊長は渋い顔で応えた。

「現状、奴は全く対外的な反応を示していない。眠っているものとみていいだろう。となると、こちらから派手に攻撃を加えるのはかえって危険だ」

「……大岳捜索隊を蹴散らした奴です。何とか今のうちに駆除できませんか」

「そうしたいのは我々も同じだが、現時点では有効な装備がない」

遠藤は、異生物の進路を阻むように配置された放水車群を見ながら言う。

「だが合図さえあれば、高圧放水をいつでも開始できる。特殊銃についても、奴が動き次第即時の使用ができるよう手は回してもらった。奴が目を覚ましたら、我々の用意できる総力を叩きこんで鎮圧する」

「今は助言と記録くらいしかできませんが、我々も最大限サポートはさせてもらいます」

「頼む。この現場の記録が異生物解析の一助になることを願っている」

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