第3話『強襲・雲谷』

第3話『強襲・雲谷』-1

 雲谷キャンプ場に、続々と警察車両の列が進む。その後方には、水色と白のツートンカラーの車両が見える。やがてキャンプ場入り口付近に到着した車両群から、数十人の機動隊員が降り立った。

 シーズンオフ期間と大岳入山規制の影響で、キャンプ場敷地内は極めて閑散としている。

 機動隊の隊長は、敷地内に足を踏み入れた直後に異様な物体を目撃した。

「あれが、八甲田の怪物…」

 キャンプ場の小高い丘の上に、巨大なネズミに似たものが影を落としている。

「奴の動向は」機動隊長は警備を担当していた警官に声をかける。

「は。大岳方面から飛来して、あの地点に落下したのが、50分ほど前。それ以降はあの場所から動いていません」

「通報時から状況は変わらずか」機動隊長は怪訝な顔を浮かべる。「しかしどういう事だ?まさか落下の衝撃で身動きが取れなくなったわけではあるまい」

「落下地点付近にいた目撃者によれば、落着後に一度姿勢を変えてから動きを止めたと」

「死んだとは言い切れんか…ありがとう」

警官と話し終えた隊長に、機動隊所属の部下が訊ねた。

「直接奴と戦う場合は、どうなります」

「道警まで取り寄せを依頼した対物ライフルはまだ来ない。一応の対抗策はあるとはいえ、ここで改めて作戦を立てるしかないな」

「しかし、あいつの詳細なデータすらわからないままでは…」

「それを今必死に調べようとしている奴らがいる。俺たちはその結果を信じて動くだけだ」

キャンプ場に、一台の警察車両が走り込んでくる。パトランプを灯らせたパンダカラーのスイフトだ。

「見ろ。恐らく、あれがそうだ」

停車したスイフトから、四人ほどの警官が降りる。そのうち、助手席に乗っていた男が駆け寄ってきた。

「遅くなりました。異生物対策班の、棟方です」

「遠藤だ。奴の生態調査の方は」

「今のところわかったことが一つ。原理は不明ですが、あの生物は体内に発電器官を持っています」

「発電?…その規模は」

「近傍の電子機器は」遅れて追いついた櫻井が言う。「発電に伴う電磁波で確実に異常動作を起こします。無線機の類は、この敷地内では正常に動作しないと考えてください」

「了解した」

「あと、触手で狙われたら終わりです。接近戦も可能な限り避けるように」

「報告で見ているが、それについては対策済みだ」

 遠藤隊長は後方の車両を指す。

「放水車を持ってきた。高圧の放水なら、少なくとも奴がこちらに近付くのは食い止められるだろう。仕留めることは不可能だが、妨害と時間稼ぎには有用だ。確実な攻撃手段は、まだ?」

「ええ。見出せていないのが現状ですが、奴が動きを止めているうちに生体サンプルを確保できれば研究が進みます」

「…危険だが、止むを得ないか。許可しよう。護衛に部下を付かせる。不可能だと判断したら、すぐに戻れ」

「ありがとうございます」櫻井は表情を少しだけ明るくする。

「よし。川島巡査、彼女に同行してくれ。山中で奴を目撃したのなら、的確なアドバイスができるはずだ」と棟方。

「了解」

「津島巡査長はここで待機。同じく目撃者としての立場で、機動隊への要求に応じた助言を頼む」

「了解です」

「…各員、健闘を祈る。対策班、散開」

 三人は頷き合った。

 櫻井・川島の二名は、盾を構えた数名の機動隊員とともに丘陵に向かう。

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