第1話『出現』-4
――それは、空を落ちていた。
青森湾の湾岸線から人知れず跳び上がったそれは、急速に高々度まで上昇したのちに放物線を描いて緩やかな降下を始めていた。
地上へと近づくたびに、『それ』の全身を殴りつけていく大風は勢いを増していく。その風を掴むかのように、ばさばさと『それ』の纏う赤色が羽ばたいていた。
『それ』が、西の空に視線を投げた。天候は快晴。半月からやや満ちた十日夜の月が、地平線の彼方に沈みながらも柔らかな光を地上に落とし続けていた。
視線を別の方角に向ける。『それ』は遠方にある何かに狙いを定めると真下に向き直り、重力に身を任せて地上へと落ちていった。体勢をわずかに変え、落着位置をずらす。一分と経たずに『それ』は着地した。
勢いよく二本のしなやかな脚がアスファルトに蹴り込む。ずん、という重い音が静まり返った山々に響いた。衝撃で道路の表面に亀裂が生じ、細かい破片が舞う。
アスファルトの欠片が地に落ちるより先に、『それ』は再度の跳躍を行った。大地を蹴って勢いよく離陸した『それ』は見るまに高度を増していき、空の彼方へとその姿を隠す。
再び無人となった路面にアスファルト製の小石が降り注ぐ。月あかりのなかに落ちる欠片が、軽い音をぱらぱらと立てた。
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