第3話 夏から始まるストーリー

”夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、ホタルの多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。”


夏は夜が良い。ホタルが飛んでるのも良い。雨が降っても良い。平安時代にそう書いたのは清少納言。枕草子。夏が嫌いな僕から言わせてもらえば朝だろうと夜だろうと晴れだろうと雨だろうと変わらない。コンクリートジャングルは昼夜を問わず暑いしどこも蒸し返す。そういえばこの暑さで思い出すことが一つある。中学生の時に仲の良かった杉本くん。夏休みに校庭で遊んでいた時のゲームを覚えているだろうか。一人が足を肩幅に広げて、ある程度離れたところからサッカーボールを蹴って股を通せたら勝ちというゲームであった。当然僕が勝った。なぜ当然なのかって、都合の悪い思い出はすぐに忘れることにしているからだ。まあ、勝ったから覚えている。パチンコも競馬も杉本くんとのゲームもあまり変わらない。勝った僕にはカップ麺が与えられるはずだったのに、その後うまく煙に巻かれたせいで買ってもらった記憶がない。杉本くん、これを読んでいたらカップ麺を郵送してください。我ながらとんでもない約束を蒸し返してしまったようだ。


夏が嫌いな理由は暑いからというのともう一つ、虫が出るからだ。虫は宇宙から来たに違いない。哺乳類も鳥類も爬虫類もよくよく見れば可愛い顔をしているし、動きも愛くるしい。ペットとして傍に置き、人生を共に過ごしたい胸懐は堪らなく分かる。しかし虫はどうだ。生物としてかなり初期に発生したくせに、生物としての先輩とは到底思えないほど見苦しい格好と動きをしている。修行僧なのだろうか。あの人生(虫生?)を全うすれば人間に転生できるのか。だとしたら神様は相当悪趣味なやつだ。罪を償うために痛みを用いるなんて中世的なやつ。スティーブ・ジョブズにぜひお願いしたい。天国で神様のアップデートをしてくれ。現代で罪を重ねたやつへの罰は、そうだな、僕の小説を読まなければいけない。全部。え?僕も中世的じゃないかって?大変申し訳ないけれど、そういう意見はことごとく無視することにしてるんだ。

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