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「浩太郎がね、かっこ良すぎてね、憎いの。浩太郎がこっちで仕事をするって聞いて私も凄く一生懸命勉強して社長になってまでこっちについて来たって言うのに」

 ついて来たと言うより、追いかけて来た、だろうに。

「浩太郎ったら私の誘いは五回に一回くらいしか乗ってくれないのよ。忙しい、忙しいって言って全然相手してくれないのよ。しかもね」

「へぇ」

「最近、浩太郎の会社に若い女の子が入ったのよ! しかもそれを嬉しそうに私に報告するのよ! どう思う? 最低でしょ!」

「はぁ」

 明確な答えを避けて、二杯目を差し出す。

「しかもね、その子めちゃくちゃ可愛いのよ。今どきの子って感じで、小動物系の、分かるでしょ? そんな感じよ」

 まぁ、なんとなく想像に難くないけど。

「もしかして浩太郎さんを取られてしまうかもって?」

「ち、違うわよ。浩太郎はちょっと天然だからその子に騙されたりしないかが不安なだけ」

「もういっそ蘭子さんから告ってしまったらどうですか」

「え」

 さっきまで顔色一つ変わっていなかったのに、ここに来て急にボッ、と頬が赤くなる。

「だ、だめよ、私からはしない、絶対しない! 浩太郎に約束を守ってもらうんだから!」

 そう言ってまた一気にグラスを空にした。

「同じのっ」

「はぁい」

 ため息交じりにグラスを受け取る。

 いつか、べろべろに酔っぱらった時に耳打ちで教えてもらったことがある。

 幼い頃、結婚の約束を浩太郎さんとしたのだと。それを蘭子さんは一日として忘れたことは無いそうだ。

『ずっと昔から浩太郎が好きなの』

 その時初めて、蘭子さんを可愛いと思ったのは秘密だ。

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