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一目見て分かるように彼女はバリバリのキャリアウーマンだ。身に着けているものはスーツにせよ靴にせよアクセサリーにせよ鞄にせよ、全て仕立ての良いものばかり。赤い口紅がが良く似合い、指先までも手を抜かない。男社会をピンヒールで颯爽と闊歩する自信に満ち溢れた女社長、鹿本蘭子。彼女がかの有名な【鹿本グループ】の一族の生まれで、鹿本宝石店の現社長と知ったのは実はつい最近の事だった。
蘭子さんが店に来る時はメンタルが落ち込んだ時の事が多い。そのトリガーは、蘭子さんを悩ませる一人の男性の事がことさら多い。もちろん、仕事の愚痴の時もあるが。
「また何かあったんですね」
スッと蘭子さんの前にグラスと差し出す。生の桃とスパークリングワインのカクテル、ベリーニだ。アルコール度数の低い、甘めの酒。強くはない上に、甘い酒なんて、蘭子さんの趣味ではない(通常時は)が、こうやって落ち込んでいる時は甘いものが一番だ。
蘭子さんは黙ってそれを受け取ると、コクンと飲み込んだ。
「甘い」
「で、どうしたんです?」
促す様に訊くと、うっ、と蘭子さんの表情が歪んだ。
「浩太郎が、浩太郎が」
はい。出た、こーたろー。でしょうね、そうでしょうね、そうだと思いましたとも。
浩太郎とは蘭子さんの幼馴染で片思いのお相手だ。もう二十年以上片想いをしているらしい。
「はいはい、浩太郎さんがどうしたんですか」
「浩太郎が・・・憎ぃぃいい!」
ぐびぐび、と勢いよくグラスを空にするとコースターの上に乱暴に置いてこちらに寄越した。
「同じの」
「かしこまりました」
グラスを受け取って二杯目の為に桃を用意していると蘭子さんは一人で語り出した。
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