2ページ

 一目見て分かるように彼女はバリバリのキャリアウーマンだ。身に着けているものはスーツにせよ靴にせよアクセサリーにせよ鞄にせよ、全て仕立ての良いものばかり。赤い口紅がが良く似合い、指先までも手を抜かない。男社会をピンヒールで颯爽と闊歩する自信に満ち溢れた女社長、鹿本蘭子。彼女がかの有名な【鹿本グループ】の一族の生まれで、鹿本宝石店の現社長と知ったのは実はつい最近の事だった。

 蘭子さんが店に来る時はメンタルが落ち込んだ時の事が多い。そのトリガーは、蘭子さんを悩ませる一人の男性の事がことさら多い。もちろん、仕事の愚痴の時もあるが。

「また何かあったんですね」

 スッと蘭子さんの前にグラスと差し出す。生の桃とスパークリングワインのカクテル、ベリーニだ。アルコール度数の低い、甘めの酒。強くはない上に、甘い酒なんて、蘭子さんの趣味ではない(通常時は)が、こうやって落ち込んでいる時は甘いものが一番だ。

 蘭子さんは黙ってそれを受け取ると、コクンと飲み込んだ。

「甘い」

「で、どうしたんです?」

 促す様に訊くと、うっ、と蘭子さんの表情が歪んだ。

「浩太郎が、浩太郎が」

 はい。出た、こーたろー。でしょうね、そうでしょうね、そうだと思いましたとも。

 浩太郎とは蘭子さんの幼馴染で片思いのお相手だ。もう二十年以上片想いをしているらしい。

「はいはい、浩太郎さんがどうしたんですか」

「浩太郎が・・・憎ぃぃいい!」

 ぐびぐび、と勢いよくグラスを空にするとコースターの上に乱暴に置いてこちらに寄越した。

「同じの」

「かしこまりました」

 グラスを受け取って二杯目の為に桃を用意していると蘭子さんは一人で語り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る