鬼と山神: 鬼神の生まれる日
ミーシャ
邂逅
「…漸く見つけた」
若い鬼の頭領が、朽木の傍らから見出だしたのは、この世のものと思えないほどの美貌の持ち主だった。
「若様、」
「しいっ」
その少女がこちらを振り返ることは無かった。夕刻迫る暗がりの中に浮かび上がる、金糸の蝶がひとひら、ふたひら。橙の衣が翻り、彼女の小さな両の足が、しっとりと濡れた黒土の上を、弾むように進む。
「あれは、狂い女ではござらんのか」
若頭領の第一の側近で、教育係を努める翁が眉をひそめてそう言うと、若は、その冷酷に輝く美しい笑みを浮かべて、首をふる。
「いいや、あの女は、すべてを見通してああなのだ。既に私に気付いているしな」
「なんと、それならば一刻も早く殺して…」
翁の首筋に、赤い一線が落ちた。若は、右手に握った刃をぴたりと、翁の左耳に付け、囁くように言った。
「あれは、私のものだ。ようやく番(つがい)を見つけたのに、それを殺すのか、お前は」
若の気性を知っている翁も、肝を冷やすほどの気迫。そう告げた若鬼は、気配無く立ち上がると、さわさわと風に鳴る竹林を振り返る。
「風が強くなる、帰るぞ」
「はぁ!」
別の声が三つ、林から上がり、黒い靄のようなものがさあっと立ち込めると、もう鬼達の姿は無かった。
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