三
「闇村……どうしてもついてくるのか?」
キミヨリは非常に困った顔をしている。
「僕は殺してもらえるまで何度でも付きまとう」
「はぁ……そうか」
あれからキミヨリとは殺す者と殺される者としての立場で接している。まあ、僕の一方的な頼みなのだが、彼の困った顔を見るのは毎回とても楽しい。
今日は昔馴染みの二人の友人に会いに行くという話を聞きつけ、僕は同行をさせてもらった。その二人の一人は美人の女性と聞いたからだ。
「和葉さんって何歳なの?」
「闇村よりか年上だろうな」
「政宗って人も?」
「ああ、ずっと年上だ」
そういう会話をしながら僕とキミヨリは目的の場所に着いた。年増とおじさんかと思いながら、僕は彼がドアノブを握ってすぐ開けようとするのを制止した。
「キミヨリ! 君は作法を知らないのか!」
思わず怒鳴ってしまった。僕にしては珍しいのだが、キミヨリは思い出したかのようにインターホンを鳴らしていた。
「はーい」
中から若い女性の声が聴こえた。歳は二十代くらいだと思う。僕のほうがもっと年上なんじゃないかと思うほど、その声は若かった。そして玄関が開く。
「き、キミヨリさん!」
意中の人を見て恥じらうような感じで玄関口で応対するその女性は……凄く美人だった。というか、僕よりも美人だ。
「あ、あの……そちらの方は?」
キミヨリは困った顔で僕を紹介する。
「闇村家の十四代目当主の闇村公有っていう奴だ」
女性は僕をじーっと見てからこう言った。
「高村和葉です。あの、キミヨリさんとはどういうご関係ですか?」
僕はあることを思いついた。
「体の関係です」
キミヨリが思わず声を出した。
「はぁっ!?」
そのまま玄関は閉められた。そして誤解を解くのに一時間を要した。
「……」
玄関を通され、客間の一室で僕をじっと見つめる和葉さん。視線は痛いがまあ仕方ない。キミヨリには僕を殺してもらいたいのだから。
「……という事なんだよ和葉。俺も闇村があんな冗談言うとは思わなかったよ」
キミヨリは和葉さんに誤解であることをずっと説明していたのだが――
「キミヨリさんってこういう人がタイプだったんですね」
「いや、あのな和葉……こいつは勝手に俺に絡んでくるようになっただけなんだよ。そういう対象じゃないし、前にも言ったが俺はそういうの分からないんだよ」
僕は一言呟いた。
「恋愛が分からないなんてね。流石業界トップは違うね」
二人が話し合っている横で和葉さんが怒りながらも丁寧に淹れてくれたお茶を飲みながら僕は言った。
キミヨリは溜息をついてから言った。
「……政宗は?」
「今は作業場だと思いますよ」
それから「ふん」と言いつつ作業場へ政宗さんを呼びに行った和葉さんは、本当に僕から見ても可愛らしい人だった。しかし、ある事に気が付いた。
「猫の影」
キミヨリはここへ来た事情を説明してくれた。この高村兄妹は二人とも人の影を持っていない希少な人達だという事。そして影狩りの連中に狙われている事。
今回ここへ来たのは、変わったことがなかったかを二人に確認するためだったこと。なるほど僕はお邪魔だった訳だ。
「まあ、兄貴の政宗は大鷲の影を持っているが、あの鳥王とは違って攻撃能力はない。言わば二人にある能力は、不老だ」
つまり、そんな兄妹と関わっているキミヨリ自身は、相当な年齢でこの格好をしているということではないか? 黒革の服上下に銀髪は目立つと思うのだが。
暫くしてから兄である政宗さんが呼ばれてやってきた。あんな美人な妹さんなのだろうから、兄の政宗さんは相当な美男子であろうと予測していた。
「よう! キミヨリ! ああ、その横の人が闇村公有さんか?」
「どうも」
一言挨拶して僕は荒々しく喋るやはり美男子に少し見惚れていた。その美男子は僕をよく見てから言った。
「美人ですね」
「へ!?」
僕は思わず顔を赤くして下を向いた。
「ざまぁみろ」
横でキミヨリが笑っているが、政宗さんはキミヨリを睨んで言う。
「和葉という者がありながら、お前がこんな人を連れてくるとは……」
「だから違うって!」
キミヨリは僕の最初の発言により、窮地に追いやられたのだった。誤解を解くのに二時間。それからやっと本題に入った。
「政宗、和葉。最近変わったことなかったか?」
「お前がその人を連れてくる以外はな」
まだ引きずっているらしい。
「はいはい、とりあえずだな? 結界作って術符は渡してあるから別に大丈夫かと思ったんだが、ちょっと二人の術符見せてくれ」
軽く流して僕の存在がないかのように喋るキミヨリ。僕の考えた迷惑行為は、どうやらこれで終わりのようだ。
「……おい、まずいぞ」
差し出された二人の術符を観てキミヨリは言う。
「また狙われてやがる」
影狼の主 星野フレム @flemstory
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