「よく言われるよ」

 そう言って、僕はがっかりして自分の発達した体を恨めしく思った。

 小柄な体、長いポニーテールの黒髪、艶のある綺麗な肌をした顔、豊満な胸、細い腰に男受けのする尻。そして大きな瞳と長い眉毛。

 自慢したことはないが、やはりこの男も自分を女としてしか見てくれないようだ。

「別に闇村さんが別嬪だからってだけが理由じゃないさ」

 目線を落として自分の体を触る様に動いていたから気が付かれていたのだろうか?

「いいか? 影無しの刻印はな、凄く不味いから俺の狼も喰わないんだ。それに刻印を持っている者を喰わせれば、俺にもその刻印が付いちまう」

「……」

 僕は沈黙した。あの凄腕の影使いがこう言うんだ。僕はやはり、先代達のように苦しみながら死んでいくのだろう。

「助からないんだね」

 諦めて死を受け入れる。あの苦しみ上げぬくあの死に方を、僕もしなければならない。

 自分の影が体を這い、自分を飲み込んで衰弱して死ぬまで纏わりつかれ、そして死んだ後に亡者共に体で遊ばれる。

 女である自分が本当に恨めしかった。こんなにも僕は女らしい体をしている。それが本当に嫌だった。

「方法がない訳じゃない。余り妄想すると本当にそうなるぞ」

「……!」

 見透かしたように言う。僕はたじろぎ、そして驚いた。妄想の事じゃない、方法があるという事に驚いた。

「そんな方法があるはずないじゃないか……方法があるなら先代がとっくの昔に試してる」

「アンタが俺を噂でしか知らない様に、俺もアンタら闇村一族の事を噂でしか知らない。だから噂だけを信じても仕方ない」

 キミヨリが真剣な顔で言う。確かに目は真っすぐ僕を見ている。これはきっと、嘘ではない。

「今から俺の言う場所に来てくれ」


 キミヨリが指定した場所は、街から離れた山間部にある平原だった。時間通り、深夜十二時にきた。

「お、来たな」

 懐中電灯で僕を照らしながら彼が一言いうと、彼の影の中にいる狼が一声吠えた。

 ウォオオオオオオン!

 その鳴き声を聴いたのか、遠くから大鷲が飛んできた。真っ黒い大鷲、いや……あれは影だ。

 大鷲は僕とキミヨリの前に着地すると、喋りだした。

「オオ、キミヨリ。ヒサシブリダナ」

「ああ、鳥王ちょうおう

 キミヨリはどうやら知り合いのようだった。そしてキミヨリは僕を指さして懐中電灯を当てながら言った。

「あいつの影が影無しの刻印で消えそうなんだ。喰ってくれるか?」

「……」

 チョウオウと呼ばれた大鷲は、僕をじっと見てから答えた。

「モウジャノカゲガ、ココマデハイリコンデイルムスメナンテ、ハジメテミタゾ」

 そう言うとチョウオウは、懐中電灯に照らされて大きくなった僕の影の中にその大きな体で影の中へと飛んで沈んでいった。

「動くなよ?」

「……」

 僕は静かにキミヨリの言うように待っていた。すると――

『タスケテクレ!』

 懐中電灯に照らされた僕の影から、真っ黒い恐らく影であろう亡者の一人が這い出てきたと思った瞬間。

 ガブリッ

 亡者は僕の影から出てきた大鷲に喰われた。そしてそのまま大鷲は飛び去って行ってしまった。

「左手観てみろ」

「! あ!」

 驚いた、。綺麗に消えている。そしてキミヨリが語る

「アンタ達闇村一族はな。術で人を殺すときに影を消してきたんだろ? だがな、違ったんだよ。取り込んでいたんだ」

「そんな……そんなこと知らなかった……」

 代々伝えられるはずの事だったはず。それがあっさりと解決してしまった。

「術の使い方が間違ってるんだ」

 そう言うと、キミヨリは得もしない話と言いながら、影を攫う術と影を消す術の違いを教えてくれた。

「今まで術に使っていた印を間違ってたのか……」

 十四代目にして知った事実に、僕は落胆した。そしてキミヨリは言った。

「まだ死にたいか?」

 僕は暫く考えてから答える。

「死にたい」

 キミヨリはやれやれと首を振りながら言った。

「アンタは死にたがりなんだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る