第95節 シンプル・フェイバー
4月の終わりほど、昭和の日から始まるゴールデンウィークになって、世間は連休になった。
そんなわけで、高校を卒業後に
昼下がりの
そして、
見知らぬ女の人がいる様子に、俺のすぐ隣に座っている
「
「ああ、元々の家の近くに住んでた
姉ちゃんと同い年である、ダウナー系長髪お姉さんの
「あぁ~、いいなぁ~。
すると、
「……
「ん~、
すると、向こう側に座っている
「そうだよー!
「お~、よかったじゃ~ん。
そんな子供の頃からの見慣れた様子に、
――変わってないなー、
「で~、そっちの
「あ……いえ、とんでもない。この
「この
俺より頭一つ分背丈が低い
「あ~、そうだよね~。
「あーっと……5月14日に17歳になりますね」
「もうすぐ17
「えーっと……とりあえず今のところは
「あ~、そっか~。
昔からよく知っている年上のお姉さんである
「あーっと……それはちょっと……
俺がそう返すと、
「あははー!
そして、妹の
「……いくら300億円持ってるお金持ちだからって、お兄ちゃんに愛人囲えるだけの
姉と妹の二人とも、俺に対する評価は正反対だが俺の性格はよくわかってるようであった。
すると、
「ま~、
すると、
「あー、あたしはそれでもいいよー!? じゃーさー、
「お~、いいねぇ~。
「じゃーあたし社長やるー! スポーツジムじゃなくってヨガもできるフィットネスジムの方がいいかもしんないねー!」
「勝手に話を進めないでくれよな……」
俺がそう文句を言うも、二人とも聞こえていない様子であった。
――
「
「あー、ご苦労様ー! じゃー
そんなことを言って、
「ほら、何やってんの
「あー……やっぱ乗らなきゃいけないの? 俺も? 姉ちゃんの運転する車に」
「あったりまえじゃーん! せっかくの免許取ってからの初運転なんだからさー!」
「初運転だから怖いんだけどな」
そんなことを言いながら俺がソファーから立ち上がると、サイドテーブルのリラクゼーションドリンク缶を片付けてくれているメイドの
「えーっと……
「あーっと……ありがと、
ちなみに
俺が
「
「ええわ、ウチも
なんだか
姉ちゃんと
「よーっし! かっとばすぞー!」
左後ろの席に座ってシートベルトを締めた俺は、斜め前の運転席に座っている姉ちゃんに忠言する。
「
すると、助手席に座った
「ま~、だいじょーぶっしょ~。
――
そんなことを思って不安になっていると、外に立っている
「どうした?
すると、なんだか
「
「あー……精一杯努める。っつーか、ちゃんと帰ってくるから元気になっといてくれ」
そんな感じで
――ま、この前、マフィアに誘拐されたときの緊張感に比べれば軽い軽い。
――何も姉ちゃんは、俺を殺そうとしてるわけじゃないんだからな。
俺はこのとき、確かにそう思ってた。
姉ちゃんがエンジンをかけ、レバーを操作し、ペダルを踏んで車が発進する加速度が俺の身体にかかった。
――まあ一応、多国籍マフィアの手による誘拐と生還という死線をくぐりぬけたんだから、俺にとってはこれくらい
そんな風に、真剣に考えもせず俺は思い上がってしまっていたのだ。
5時間後。
夕方になってから、我が家のある
そして俺は後ろのドアを開け出て、フラフラになってその場で顔や腹などを下に向け、両腕を枕にして突っ伏した。
事態を軽く見ていたことによる激しい後悔と、なんとか命が無事だったことによる安堵の入り混じった感情が、
――
――マフィアの誘拐の方がまだましだった。
――初運転で首都高速まで行って時速100km超で飛ばすか!? 普通!?
俺はタワーマンションエントランスの固い地面に突っ伏しながら、いまこの場で命があること、そして事故も起こさず無事に家に帰ってこれたことをただただ天に感謝していた。
運転席のドアを開けて降りた姉ちゃんが、ツヤツヤした声でこんなことを言う。
「いやー! 楽しかった楽しかったー! 車の運転ってこんなに楽しいんだねー!」
そして、助手席から降りた
「
「……そりゃ、ジェットコースターは
両腕を
「……俺は、必ず自分で免許を取って、自分で運転しよう……」
姉ちゃんと
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