第87節 ヘヴン
大通りは、
俺と並んでタクシーの後部座席に座っている
ちなみに俺は、普段のブレザー制服とは異なり私服を着ており、
いつものようにそのショートカットでダブルテールの髪に青い宝石の髪飾りをつけている
「
幼い頃からよく気心が知れた
「ああ、まあな。安全上のためにな」
「ふーん、そっか……。大金持ちになったからって、何もかもがお気楽な生活になるとは限らへんのやな」
「ああ、そりゃそうだぞ。俺もついこの前……」
俺はついこの前、クラス会の帰りに多国籍マフィアに誘拐され、
言葉に詰まった俺を、すぐ隣にいる
「
「あ、いや……なんでもない、気にしないでくれ」
そんな感じでやり取りをしていると、
「それにしても、昨日の晩に入らせてもらったお風呂サイコーやったわ。あーんな高い所から夜景見ながら
「あー……それ、父さんも似たような感じの事言ってたな」
「
「いや、引っ越してきてから一番風呂に入ったの父さんだったんだけど、風呂から出てきて『まるで
「あー……そんなん、
「まあな。子供が宝くじに当たって俺たち家族が数百億円手に入れてから、父さんも母さんもすっかり無責任な性格になっちまったよ」
「そっかな? ウチはこの前の年末年始に
「あ……そう?
俺と
「ごめん
「え? なんでいきなり? 何か買い忘れたものがあるとかか?」
「
――ああ、そっか……トイレな。
そんな
タクシーに
そして、店員さんにコーラのバーコードを読み取ってもらい、精算金額が表示されたので、レジ近くのタッチパネルにて交通系マネーを選択して、手持ちの電子マネーカードである
いつものような、何気ない日常の一コマであった。
ところがそこで、事件は起こった。
俺がレジ前の機械から出てきたレシートを抜いて回収し財布に入れたところで、おそらくはさいたま市内の中学校の制服を着た、茶色ロングストレートの髪の毛を垂らし、肩から通学鞄を提げた
「あ、あ、あ、あのあのあの! す、す、すいません! 救急車呼んでください!」
女の子は、かなり慌てふためいてパニクっているのがよく分かった。
お客さんに対応していた店員さんも、その場にいるお客さんも女の子に対して何もアクションを起こせてない様子だったので、
「救急車って、どうしたの? 君が
俺がそう尋ねかけると、女の子は気が動転した様子で返してくる。
「え、えーと、えーと!
早口で焦りを
女の子の
と、そこに鞄を提げた
「あれ?
「ああ、なんか道でお婆さんが倒れたとかで救急車呼んで欲しいんだって。今連絡するよ」
コーラを近くの台に置いてスマートフォンを取り出していた俺は、緊急ボタンをタップして救急車を呼ぶための番号を入力しようとする。
すると、
そして、
「じゃあウチは、この女の子にお
「ああ、わかった」
そのコンビニの近くから、車が通れなさそうな細い脇道を入って直線30メートルくらいのところのアスファルトの道べたに、お婆さんが横になって倒れていた。
茶髪ロングの女の子が、涙をこらえながら俺たちに訴えかける。
「目の前でいきなり倒れちゃって! もしかしたら死んじゃったのかもしれないって思ったら、慌てちゃって! とりあえず救急車が入れるところまで運ばないと!」
すると、しゃがんでお婆さんの呼吸を確かめていた
「待って、もし
「ああ、わかった」
俺が119の消防救急回線に繋げているスマートフォンを
――
――さいたま市に住んだことなかったよな?
――ここに来るまでの間、
まだ中学生だというのに、目の前でテキパキと緊急事態を処理していく
回線を繋いだままのスマートフォンを俺に返した
「よし、これで後は救急隊員の人を待つだけやね」
医者の父親と看護師の母親、
と、そこで、離れた大通りをバスが通り過ぎた音がした。
ブロロロー
「ああーぁ! バス! 行っちゃったーっ!!」
いきなり大声を上げた茶髪ロングの女の子に、俺は驚く。
女の子は、涙声で嘆き声を出す。
「うわーぁん! バス
――あ、そういや今日二高の受験日だった。
俺は、今更ながらその事実を思い出した。
すると、
「受験って
そんな
「ゆーわけで、ウチはこの女の子と一緒にタクシーで入試会場に向かうわ。
「ああ、わかった。
「かまへん、ウチの
そんな
俺が首に巻いていたマフラーを手渡してやると、
「
俺は走り出す間際だった
「タクシー代にこれ使え! 2万円近く入ってるから!」
すると、
「ありがと!
駆け出した
「
そんな風に後押しすると、
そして、俺は
俺がゼロカロリーコーラをコンビニに忘れたことに気付いたのは、自分の部屋でレシートを財布から取り出した時であった。
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