第70節 If もしも....




 萌実めぐみ誕生日たんじょうびのその、俺は駅前えきまえタワーマンション最上階さいじょうかいにあるへと、いつものように帰宅きたくしていた。


 にてみではたらいてくれているメイドのかなでさんがいつものように玄関口げんかんぐちまでむかえに来てくれて、広めの廊下ろうかけてリビングにはいるといもうと美登里みどりがソファーに座って真正面ましょうめんにある150インチある大きなテレビモニターでアニメを見ていた様子ようす視界しかいに入った。


「ただいま、美登里みどり


 あにである俺は高校こうこう指定していのブレザー制服せいふくたまま、無線むせんイヤホンをかぶっているいもうと美登里みどりにそうこえをかける。


 俺のこえいてそのなが黒髪くろかみをツインテールにった美登里みどりが、その左手ひだりてにぎっているなんらかのスティックのようなものを操作そうさすると、真正面のテレビモニターに流れているアニメ動画どうが一時いちじ停止ていしした。


 そのアニメの流れていたモニターには、様々さまざまなコメントが表示ひょうじされている。


 おそらくは、いもうとが好きなコメント付き動画サイト『ニッコリ動画』のアニメチャンネルページであろう。


 そして、美登里みどりがそのワイヤレスイヤホンをあたまから取り外して俺に顔を向け、口を開く。


「……あ、おかえり。お兄ちゃん」


「ああ、ただいま。今日きょう相変あいかわらずアニメか? なんか、ネットにつながってるみたいな感じになってるけど」


 俺の言葉に、美登里みどりが答える。


「……まあね。こっちの大きなほうのテレビモニターでも色々いろいろ機能きのうを使ってネットとかれるように設定せっていできるの。それに、今日の午前中に Amazinアマジン注文ちゅうもんしたこのスティックマウスと液晶えきしょうキーボード届いたからさっそく使ってる」


 そう言って美登里みどりが、ふたつの器具きぐをそれぞれの手で持ち上げかかげる。


 左手ににぎられていた一つはぼうのような細長ほそながいガジェットで、先っぽにはゲームコントローラーについてそうな操作そうさスティックが取り付けられていた。


 そして右手ににぎられていたもう一つのガジェットは、スマートフォンのような見た目の平たい液晶えきしょうパネル機器ききであった。


 俺はたずねる。


「それ、マウスとキーボードか? そーは見えねーけど」


 すると、美登里みどり左手ひだりてに持たれた棒状の細長いガジェットをかかげて強調する。


「……そだよ、こっちがマウス。さきっちょに親指おやゆびうごかす3Dスティックがあって人差ひとさゆび中指なかゆびのところにクリックボタンがついてるの。ころびながらでも操作そうさができて、ぐぅたらなわたしにぴったり」


 あたらしい電子でんし機器ききにうきうきしているデジタルネイティブ世代せだいであるいもうと心情しんじょうを感じ取った俺は、どこかめたような平坦へいたんな声で返す。


「で、そっちは液晶えきしょうキーボードっていうのか? スマートフォンにしか見えないけどキーボードなんだな?」


「……そそ、こっちは液晶えきしょうタッチパネル画面がめんでスマートフォンみたいに指先ゆびさきフリックで文字もじ入力にゅうりょくするタイプの無線むせんキーボード。ふたつとも小雅しゃおやぁさんにおしえてもらったんだけど、両方りょうほうともソファーにすわったまま手元てもと使つかえるからちょう便利べんり


――天羽てぃえんゆぅさんとの交流こうりゅうは、つづいているのか。


 俺のあたまなかに、東京とうきょうのお台場だいばねん二回にかいおこなわれるオタクの祭典さいてん、コミックマーケティアでった中国人ちゅうごくじん美人びじんコスプレイヤーさん、中国ちゅうごく古式こしきゆかしき仙女せんにょのような髪型かみがた女子じょし大生だいせいみずからのコスプレネームを小雅Yinしゃおやぁいん名乗なのったるゅ天羽てぃえんゆぅさんの姿が浮かぶ。


 と、そこに、いつもこのマンションビルのロビーにてコンシェルジュの仕事しごとをしてくれている女性じょせいこえでの、録音ろくおんアナウンスがリビングにひびいた。


『まもなく、明日香あすかさんがおかえりになられます』


 どうやら、東京とうきょうのキャンパスにかよっている大学生の明日香あすかねえちゃんが、下のエントランスに帰ってきたようであった。


 かなでさんがねえちゃんをむかえに玄関げんかんおもむいたところを見てから、俺と美登里みどりとで兄妹きょうだいらしいやりとりをわしていると、しばらくして茶髪ちゃぱつショートカットの体育会たいいくかいけい女子じょしである明日香あすかねえちゃんが元気げんきこえと共にリビングに入ってきた。


「たっだいまー! 帰ってきたよー!」


 俺と美登里みどりはソファー付近ふきんから返す。


「ああ、おかえり。ねえちゃん今日きょうは早いな」

「……おねえちゃんおかえり。なんか早いけど、どうしたの?」


 すると、ねえちゃんがソファーに座っている美登里みどりと、そのすぐかたわらに立っている俺に話しかける。


「えへへー、今日きょうはテレビでたいおわらいスペシャル番組ばんぐみあるから早く帰ってきたんだよねー」


「え、それだけ?」


 俺が拍子ひょうしけしてかえすと、美登里みどり言葉ことばつなげる。


「……相変あいかわらず、行動こうどう原理げんり単純たんじゅん明快めいかいだね。おねえちゃん」


「まーねー! いつだってなんだって、ふかかんがえたりなんかせずにあかるくたのしく自由じゆうきて、しあわせをもとめるってのがあたしのモットーだからー!」


――いや、多分たぶん皮肉ひにくだぞそれ。


 俺がねえちゃんの返事へんじこころなかんでいたかたわらで、美登里みどりはというとねえちゃんのためにっていた機器きき操作そうさしてネットにつながっていたブラウザを閉じていた。


 俺はねえちゃんにめたかんじでつたえる。


「そんなの、録画ろくがとかしといて休日きゅうじつに見ろよ。それに、おわらいスペシャル番組ばんぐみなんかいつだって見られるだろ」


「えー、テレビ番組ばんぐみなんてのはさー、見たい時に見ちゃうのが一番なんだよー!? それにさー、もし司会しかいやってる大御所おおごしょ芸人げいにんさんが芸能界げいのうかい引退いんたいしちゃったら、もう二度にどと見られなくなるんだよー?」


 快活かいかつこえ明日香あすかねえちゃんがそう言うと、ねえちゃんのためにリモコンを操作そうさしてテレビの番組表ばんぐみひょうをモニターに表示ひょうじしているいもうと美登里みどりたずねる。


「……おねえちゃん、そのおわら番組ばんぐみってなんて名前なまえ番組ばんぐみ?」


 すると、ねえちゃんがこたえる。

 

「あー、『馬鹿ばか御殿様おとのさまスペシャル』ってやつー」


「……ああ、この番組ばんぐみだね。チャンネルえとく」


 美登里みどりがソファーの上に置いてあったリモコンでチャンネルを切り替えると、丁度ちょうどその番組ばんぐみ宣伝せんでんが流れたところであった。


 テーブルをはさんで向こう側にある、150インチあるという大画面だいがめんのテレビモニター上に、いかにも江戸えど時代じだいのバカなお殿とのさまらしい特徴とくちょうのまげをって、かお白粉おしろいってメイクをほどこした剽軽ひょうきんそうな芸人げいにんさんの姿すがた表示ひょうじされる。


 そのおわら芸人げいにんさんがテレビモニターの画面上がめんじょうきとうごいてわらいをさそっている様子ようすて、美登里みどりくちひらく。


「……このひとたし東京とうきょうオリンピックのとき東村山ひがしむらやまって東京とうきょう聖火せいかリレーのランナーやったひとだよね。ネットで実況じっきょうてたからってる」


「そーそー! 美登里みどりはあんまりくわしくはらないんだろーけどさー、おわらかいでは一時代いちじだいきずいた伝説級でんせつきゅう芸人げいにんさんなんだよー? このひとー」


 ねえちゃんが明朗めいろうこたえ、いで俺が平坦へいたんこえしゃべる。


「あーそっか、東京とうきょうオリンピックの聖火せいかリレーで走った人か。東京とうきょうなつのオリンピック開催かいさいしたの、2020年だからもう4年前なんだな」


「……開催前かいさいまえにはなつあつ問題もんだいとか東京湾とうきょうわん汚染水おせんすい問題もんだいとか結構けっこう色々いろいろなこと心配しんぱいされてたみたいだけど、いざはじまってみたらなんだかんだでがったよね」


 美登里みどりくちぶりに、明日香あすかねえちゃんが元気げんきかえす。


「そーだよねー! たしか、いろいろあって結局けっきょくマラソンは札幌さっぽろで、トライアスロンは湘南しょうなんでやったんだっけー? しかも都合つごうよくそのとし冷夏れいかだったしー」


 そんな言葉ことばわしねえちゃんといもうと尻目しりめに、高校のブレザー制服せいふくを着たままだった俺は着替きがえをするために、この二階構成メゾネットマンションルーム下階かかいにある自分じぶん部屋へやに足を向ける


――オリンピックか。


――そっか、もう4年ったから今年ことしなつにまた開催かいさいなんだな。


――今年ことし開催地かいさいち、パリだったよなたしか?


 そんなことをおもいつつ、俺は部屋へやへとあるいてった。





 で、部屋へやもどってカジュアルな私服しふく着替きがえてから、黒い大きなノートパソコンが置いてある北欧製ほくおうせい勉強机べんきょうづくえまえにある、リクライニングチェアーにすわって、俺は日課にっかとしていつものように金銭きんせん出納すいとう記録きろくをつけているノートを開いていた。


 預金よきん総額そうがくらんには、最後さいご銀行ぎんこうにおいて通帳つうちょう記帳きちょうした預金額よきんがく合計ごうけいからいままで使つかったぶんいた金額きんがくが俺の手書てがきでしるされている。


 その金額きんがくいまのところ、だいたい312億円おくえんじゃく


――まだまだ、全然ぜんぜんらねー。


 印鑑店いんかんてんたのんでいる実印じついんができて市役所で印鑑いんかん登録とうろくが終わり次第しだいかなでさんが大切たいせつにしていた実家じっかであった温泉おんせん旅館りょかんを買い付けるため、秩父ちちぶへと島津しまづさんと一緒に行く予定なのだが――


 その温泉おんせん旅館りょかん売値うりねであると提示ていじされていたやく15億円を支払しはらったとしても、それでようやく300億円という大台おおだいるという、途方とほうもない超大金ちょうたいきんであった。 


 担任たんにん女性じょせい古典こてん教師きょうしである佐久間さくま雫音しずね先生せんせいの話によると、百人ひゃくにん近くの人間にんげん一生いっしょう面倒めんどう見ることができるというほどの一通ひととおりでない、なのめならない超大金ちょうたいきんのはずである。


――こんなに広々ひろびろとした豪邸ごうてい家族かぞくみんなで住めるようになって。


――メイドさんとお手伝てつだいさんまでやとっておいてなんだけど。


――ここまでおおきな金額きんがくだと、実感じっかんとしてはかねっていうよりただの数字すうじだな。


 そこらへんの文具店ぶんぐてんで数百円で売っているような、量産品りょうさんひんの大学ノートに手書てがきでかれたけたおお数字すうじ羅列られつに、俺は度々たびたびそんな印象いんしょういだかざるを得なかった。


――なんでもしいものはしいだけ、いくらでもえるようにはなったけど。


――正直しょうじき、俺は物欲ぶつよくとかがよわいからそれほどまでに意識いしきわんねーんだよな。


――ただ、美登里みどりねえちゃんも超大金ちょうたいきんおぼれて堕落だらくしちまったらまずいんで。


――そうさせねーためにも、俺が水際みずぎわでしっかりと金銭きんせん管理かんりをしとかねーとな。


 そんなことをあらためて覚悟かくごしつつ、俺は金銭きんせん出納帳すいとうちょうとして使つかっている大学だいがくノートをじる。


 大学だいがくノートのはいっているしのなかには一緒いっしょ銀行印ぎんこういんまってあり、その銀行印ぎんこういん預金よきん通帳つうちょうがあれば300億円おくえん以上いじょう超大金ちょうたいきんだれでも任意にんいかつ自由じゆうすことができる。


 そして現在げんざい、300億円おくえん以上いじょう超大金ちょうたいきんを引き出すことができるその預金よきん通帳つうちょうは、ちかくの銀行ぎんこうしてくれる貸金庫かしきんこ成人せいじんであるねえちゃんの名義めいぎで借りて、その貸金庫かしきんこの中にあずれてある。


 その貸金庫かしきんこは、りるさい暗証あんしょう番号ばんごうめてカードを2まいかぎわたされ、このカードとかぎ暗証あんしょう番号ばんごうすべそろわないとかないようになっている。


 2枚ある貸金庫かしきんこカードの一枚いちまいを俺が、もう一枚いちまいねえちゃんがっていて、貸金庫かしきんこ最終的さいしゅうてきけることができるかぎは俺のつくえべつしのなかにあるかぎのかかるダイヤルロック式のちいさな金庫きんこ大切たいせつまってある。


 ねえちゃんにもちいさな金庫きんこのスペアキーをわたし、貸金庫かしきんこカードの暗証あんしょう番号ばんごうおしえているので、もしも俺に何かあった時は、ねえちゃんだけでも貸金庫かしきんこを開けて300億円という超大金ちょうたいきんを使えるようにと、一応はなっているはずだ。


――ただ、ねえちゃんけっこうズボラだからな。


――もう貸金庫かしきんこカードの暗証あんしょう番号ばんごうわすれるどころか、ちいさな金庫きんこのスペアキーすらくしてたりして。


 ちなみに、貸金庫かしきんこかぎれているちいさな金庫きんこのすぐかたわらには、なに突発的とっぱつてきなトラブルがあったときのために100万円まんえん札束さつたばをひとつだけ封筒ふうとうおさめてれてある。


 しかし、その現金げんきん必要ひつようおうじてATMから適時てきじしているので、家にはほとんど置いていない。


 そうあたまなかおもかえしたところで、俺はノートと銀行印ぎんこういんをいつも入れているその引き出しをもう一度いちど開ける。


 その引き出しの中には、俺が大宮おおみや駅近くのケーキ屋であるパティスリー・ソレイユにて人生じんせいはじめての労働ろうどうをした対価たいかとして受け取った、高校生らしい金額のバイト代の残りが入った封筒ふうとうも入れてある。


 その茶封筒ちゃぶうとう表面ひょうめんには、となりのクラスの活発かっぱつ金髪きんぱつスポーツ少女しょうじょである新庄しんじょう凜奈りんなさんのお父さんである白人はくじん男性だんせい、ケーキ屋のご主人しゅじんさんである礼於れおさんのサインペンによる手書てが文字もじで、こう書かれてある。


『ケイタロウくんへ よくがんばりました』


 なんでも、もとフランスじんである礼於れおさんは、日本語にほんご平仮名ひらがなとカタカナはきできるが、漢字かんじ小学生しょうがくせいレベルの簡単かんたんなのがある程度ていどめるだけで、いたりすることはほぼできないのだそうだ。


 俺は、この去年きょねんの十二月にもらったバイト代で、親友しんゆうである可憐かれんに初めての誕生日プレゼントとしてくまのぬいぐるみをったのこりのこのおかね大事だいじまい、ときどき封筒ふうとうなか見返みかえしてはのぞいている。


 五千円にもたない、千円札が数枚すうまいといくらかの小銭こぜにがあるだけの金額――


 そこで俺の脳裡のうりに、ついこの前に先輩せんぱいのショートカットヘアバンド毒舌どくぜつ女子じょしである都築つづき鈴弥すずみさんに言われた言葉ことばが浮かぶ。



――成金なりきん億万長者おくまんちょうじゃたちばなさんにとっては端金はしたがねなんでしょうが――



「……億万長者おくまんちょうじゃにとっては、端金はしたがね、か」


――300億円近くもの預金よきんがある、今の俺にとっては。


――この数千円ちょっとのお金は、単なる端金はしたがねと言っても存分ぞんぶんに差し支えないはずだ。


――だけど、奇妙きみょうなことに。


――この自分じぶんはじめて労働ろうどうたおかねは、なるべく使つかわずに大切たいせつまっておきたいと思っている。


 俺は、どこか不思議ふしぎ気分きぶんでその茶封筒の中身であるお金をながめる。


――きっと、苦労くろうして手に入れた、特別とくべつな思い入れのあるお金ってものには。


――ただの金額きんがくとはまた別の、次元じげんちが価値かちってものがあるんだろーな。


――人間にんげんってものこころ会計かいけいは、いろとりどりなんだろーな。多分。


 そんなことを漫然まんぜんと考えていると、先ほどから勉強机の上に置いてあった俺のスマートフォンが振動した。


 スマートフォンの画面を見てみると、どうやら萌実めぐみから RINEライン が来ているようであった。


 俺は、スマートフォンの暗証番号を入力してそのロックを解除し、ラインを開く。


 ラインをひらいてちゃっちゃっと通知つうちているアイコンをタップすると、俺が今日きょう昼休ひるやすみに萌実めぐみおくったプレゼントばこ中身なかみ高級こうきゅうチョコレートわせセットの様子ようす写真フォトられ、送られてきているようだった。


 萌実めぐみからは、こんなメッセージも来ていた。


『ケータ チョコありがと~ 大事に食べる』


 俺はその萌実めぐみからのラインに、指先ゆびさきフリック入力して返す。


『どういたしまして』


 すると、すぐにこんな返答が来る。


『バレンタインデーにはちゃんとお返しするね チョコ』


 そのメッセージ内容に、俺はもうすぐバレンタインデーであることを思い出す。


――そうか、あと半月でバレンタインデーか。


――萌実めぐみにはしょう中学ちゅうがく時代じだい、ずっと2月14日にはともチョコをもらってたんだよな。


――まあ俺にとっては、当然とうぜん萌実めぐみからのチョコにはともチョコ以上いじょう価値かちがあったんだけどな。


 そんなことを思った俺は、指先によるフリック入力でこんな返事をする。


『バレンタインデーにチョコくれたら義理チョコでも10倍、いや20倍返ししてやるぞ』


 すると、一拍いっぱく置いてこんな返事が来る。


『えっ! そんな! 悪いよ!』


『別にいいよ、一応それなりに金銭的な余裕はあるし』


 俺がすこ気取きどって返したところ、萌実めぐみからこんな返答へんとうける。


『余裕 大きすぎない?』


『かもな。まあ、バレンタインデーにチョコくれるんなら義理チョコでもなんでもしっかりと受け取るし、ホワイトデーには20倍返ししてやるんで、可憐にも伝えといてくれ』


 俺がそう送ったところ、萌実めぐみからメッセージが返る。


『わかった 今日は誕生日祝ってくれてありがとう じゃ』


『ああ、じゃな』


 中学生ちゅうがくせい時代じだいもどったかのようなやすいかんじでメッセージを送ったところ、萌実めぐみから笑顔えがおのスタンプが返ってきたので、俺はラインを閉じた。


「……ふう」


――上手うまくいくかどうか、結構けっこうきわどかったけど。


――萌実めぐみとの関係性かんけいせい完全かんぜん修復しゅうふくできてよかった。


 俺がそう思い、あらためてスマートフォンの画面を見たところ、口から声がれる。


「げっ」


 後から考えれば、萌実めぐみとの関係性かんけいせい修復しゅうふく意識いしきぎて、どこか不注意ふちゅうい気味ぎみだったのかもしれない。


 画面がめんじるまで俺は、まったくもって気付かなかったのだ。


 俺と萌実めぐみさきほどまでメッセージをやり取りしてた画面がめんは――


 俺と萌実めぐみだけにしか内容ないようを見ることができない個別こべつのトーク画面がめんではなく、学校での友達ともだちすべてが見ることができる、グループラインの画面がめんであったことに――


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