第62節 ペイ・フォワード
ドア付近にある
そして扉を開けて入ると、この
しかし、その日はいつもと様子が違った。
毎日毎日中学校にもいかず引きこもっていてゲームやネットのようなインドア活動ばかりをしている、
「……お兄ちゃん。
そのいきなりの妹の発言に、俺はきょとんとしながら返す。
「へ? 当たったって何がだ?」
すると、
「
「え? マジ!?」
俺が玄関口でポカンとしながら返すと、妹の
「……マジだよ、マジ」
妹が、段差の下にいる俺の手を引っ張る。
「こらこら、引っ張るな。今靴脱ぐから」
俺はそう言って、
そして、段差を上がって妹に手を引っ張られつつ振り向くと、背を向けてかがんだ
そして、妹に手を引っ張られて
妹の部屋に至る途中にて、俺は手を引っ張られながら前を行く
「
「……そうそう。正確に言うとそれぞれのCDにキー
そんなやりとりをしながら、俺と
――
――そのうちの一枚が当たったってことか。
俺の手を離した後、自分の部屋なので当然の事ながらノックもせずに勢い良く木目調のドアを開けた妹は、三台のモニターが
そして、その前に置いてある二人用ソファーに腰を落ち着けて座席の端にて、一人分の位置を占める。
「……ほらお兄ちゃん、これこれ。コミックCDの
少し離れた場所から妹がそんな感じで
「
俺はそんなことを言って、
目の前にある机の上には、最新式の高性能デスクトップパソコンから出力を得て接続されている、三枚のモニター画面が設置されている。
三枚も本当に必要なのかは
俺の隣に座っている妹が、机の上に置いてあるマウスを操作し、なにやらブラウザ画面を広げてインターネット上のウェブページを見せてくる。
そこには、妹のネット上での名称を示している『うぐうぐ』という文字と一緒に、こんな表示が現れていた。
『うぐうぐ さん。おめでとうございます! ファン感謝交友券に当選しました!』
二人掛けソファーに座りながらその画面を見ていた俺は、隣にいる妹の
「これか? これが
すると、妹がウキウキした顔をしながら俺に
「……そうだよ。それもお兄ちゃんが
「ええっ!? マジかよ!? 俺が
俺が
「……ぷふー、マジだよ。やっぱりお
――ええー、マジかー。
――ここまでついてると、なんっつーか
俺はそんなことを考えながら、三枚のモニターに表示されているウェブページ画面を再び
隣には
俺は
「それで……
すると
「……『センス・オブ・ワンダーワールド』、
「あー……そうなんだ」
俺が軽く流そうとすると、妹は
「……で、この
開かれたブラウザの中に
どこかのイラストサイトにて
おそらくは、
俺は尋ねる。
「
すると妹が、自分の
「……
なんだか
「はい、ストップ、ストップ。ひとまず落ち着け」
俺は
俺は兄として、
「で、
すると、妹の
「……うん、
――『まんがの
その、聞いたことのない
「『まんがの
すると、
「……うん、
妹はそんな感じで
「……お兄ちゃんにも見せてあげるね。『まんがの
そのウェブページのサイト上には、おそらくは
俺は隣に座る
「これ、何作品くらいあるんだ?」
すると、妹が
「……
そんな妹の言葉に、俺は
「すげーな……ネット上にある
「……
そんな
――こんなの、
――だって、このサイトがあれば
――
――
――どう考えても、
俺がそんなことを考えていると、隣に座っている妹がどことなくにやけた顔をしながらこちらの方を
「……
俺は返す。
「ああ、どうやって
すると、妹がモニターに向き直りマウスパッドの上にあるマウスでカーソルによる操作をもう一度始める。そして、俺に横顔で
「……まずね、このサイトは日本人のためだけのサイトじゃないの」
そんな妹の言葉と共にモニター上のカーソルが操作され、表示が日本語から別言語へと次々と切り替わっていく。
「……ほら、これが英語版。そしてフランス語版、ロシア語版、スペイン語版やアラビア語版。プルダウンメニューの選択ひとつで即座に切り替わる仕様になってるの。中国語だったら
そんな様子を見て、俺は感心の息を漏らす。
「あー……なるほどな、日本国内だけじゃないんだな。世界中の
「……そゆこと。日本人向けだけだったらどんなに多くても
そんな妹の言葉に、俺は少しばかり考える。
仮に、一億人のユーザーが月に千円くらいを支払ってくれるとしたら――
「世界中に一億人の会員がいるとすれば、一人あたりの利益が千円かそこらでも月に固定収入が一千億円くらい、一年あたり一兆円超えの
「……ま、それぞれの国の物価によって
俺は
「でも、そんなに
すると、妹が応える。
「……それぞれの国の、日本語を自国語に
「へー……なるほどな、うまくできてんだな。でも、国によって色々な
「……それはね、出版社が事前に年齢、国籍、性別、宗教でレーティングしてるんだって。アメリカでは
そんな妹の語り口に、少し考えた俺は口を開く。
「あーそうか、なるほどな。
俺のそんな言葉を聞いて、
「……そうだね。アメリカとか中国とかの国籍じゃレーティングで見れない漫画なんかも沢山あるらしいんだけど、そもそも現地では
その
「ちょっと待て、
すると
「……えーっと……まあ、1984年生まれってことになってるから……39歳かな。
そんなまごついた口調に、俺はきっぱりと兄として注意を
「だーかーらー、そういうことをするんじゃない。サイト
「……えー、だってー……18歳未満の
俺がソファーの上にて
「……ほらほら、見て見て。別ウィンドウを開いて二画面にして、それぞれの言語を別々にすることもできるの。こうやって日本語版と外国語版を並べて見比べながら読んでいくと、外国語の勉強にもなるんだよ、お兄ちゃん」
そんなことを言いつつ妹がなにやらウェブページを開いてきたので、俺はその画面を見る。
まったく同じ漫画のページがふたつ、それぞれのウィンドウに日本語と、中国本土で使われているのであろう
妹はどうかサイト
「……
俺は
「わかったよ、好きにしろ」
「……ホント!?
俺は隣に座っている
「ただし、父さんにも母さんにも姉ちゃんにも、他の人には言うなよ。あと、
「……うん、わかった。約束する」
俺にとっては
そして妹が再びマウスでカーソルを操作し、その『まんがの
「……で、こっちが日本国内だけに向けた
――ファンメイドクリエイションマーケット?
――また、聞きなれないオタク用語だな。
「それって、どんなものなんだ?」
俺がそう言うと、妹は目の前のモニター画面にて何らかの漫画キャラクターをモデルにしたのであろうフィギュアや、クリアファイルや、バッジ、マグカップなどの様々なキャラクター商品がそれぞれの金額と共にずらりと表示されたページを見せてきた。
どうやら様々な漫画に登場するキャラクターの商品を扱っている、
妹は不敵な笑顔を見せてくる。
「……ちょっとばかり前に、パロディ作品とかの
「あー……そういえばちょっと
「……ま、ものすごくざっくり言うと、
そんなことを
「その
すると、妹がこれ以上ないほどのドヤ顔で応える。
「……その、
「あー、そうなんだ」
俺が気の抜けた感じで返すと、妹が
「……え? なんであんまり
「いや、そう
すると、
「……ぷー、
「あーっと、おそらく、この
「……
俺のフォローに
「……あ、そうだ。
そして妹は、机の下からスライドするテーブルを引き出して、その
しばらくすると、目の前のモニター上にはどこかの地方新聞社が掲載しているのであろう、ニュース記事の表示が現れた。
そこにはこんな表示がなされてあった。
『鳥之枝温泉旅館 東京都の区に保養所として売却か』
その記事を見て目を丸くした俺は、隣にいる
「
「……ううん、今のところ
「ええー……マジかよ」
俺はモニター前で
そして、隣に座っている妹の
「……ねぇー、お兄ちゃん、
その話しぶりにピンときた俺は、妹の
「
「……ぎくり」
――『ぎくり』って言葉は、声に出すもんじゃないぞ、
「……えーっと……ま、お兄ちゃんがコンビニの女の子に
そんなことを
――本当に、
――その
そこまで思った俺は、
「ま、そこはお兄ちゃん、
「……ま、何かいいものが欲しければ、まずは
俺に頭を
そして、俺の頭の中では
――やっぱ、このままじゃいけねーな。
――俺もきっちり、
ギブアンドテイク、
そんなことを思いながら、ある冬の日の夕暮れに、俺はわがままな妹のツインテール頭をわしゃわしゃと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます