第61節 ダーク・シャドウ




 俺は、すっかりちてくらくなったよる校舎こうしゃを、二年生にねんせい女子じょし生徒せいと三人さんにん一緒いっしょあるいて文化棟ぶんかとうへとかっていた。


 もちろんそのうちの一人ひとりは、次期じき生徒会長せいとかいちょうとしてのさい有力ゆうりょく候補者こうほしゃである、黒髪くろかみあたまりょうサイドにておげとしてまる髪留かみどめでってらしている小学生しょうがくせいのような風貌ふうぼう裕希ゆうき先輩せんぱいであった。


 そして、俺は玉木たまき先生せんせいからりたLEDハンディライトをち、あと二人ふたり女子じょし生徒せいと一緒いっしょに、くらがりの廊下ろうからしながらあるいていた。


 そのうちの一人ひとり茶色ちゃいろあかるくめたながかみあたまうえのややひだりでお団子だんごにし、そこからサイドテールとしてかってひだりにふわっとしたかんじでらしている天然てんねんっぽい女子じょし生徒せいとが俺にたずねる。


「ってことは、たちばなくんってずっとずっとクラスでストーカーだとおもわれてたってことかな? で、裕希ゆうきちゃんがその幼馴染おさななじみとのなかってくれたってことかな?」


 俺はかえす。


「まあ、そうですね。それに、小学生しょうがくせいのころは同性どうせいだとおもってたんですけど、じつ異性いせい金髪きんぱつギャルになってた親友しんゆう尽力じんりょくがありまして」


「ふーん、そっかそっか。なんだかよくわからないけど、人生じんせいっていろいろあってすっごく面白おもしろいよね!」


 茶髪ちゃぱつ団子だんごサイドテールの女子じょし生徒せいと笑顔えがおになって、なんだか気持きもおおきくうでってあるく。


 この天然てんねん無邪気むじゃきな、わるえばあたまかるそうな女子じょし生徒せいと名前なまえ斎藤さいとう沙羅さらさん。


 二年生にねんせい生徒会せいとかいメンバーであり裕希ゆうき先輩せんぱい友達ともだちで、生徒会せいとかい広報こうほう担当たんとうをしているのだとか。


 すごく天然てんねんっぽいスタイルをしているとおもう、とくむねが。


 そして、そのとなりで俺のこうがわにいる黒髪くろかみショートカットのあたま紺色こんいろのヘアバンドをつけた女子じょし生徒せいとが、ましたかんじで俺のかおのぞみつつ言葉ことばす。


億万長者おくまんちょうじゃたちばなさん、一学期いちがっきにはクラスでストーカーとうたがわれてたんですか……たしかにぱっと、そんなかんじの雰囲気ふんいきしてますからね」


――あれ? 俺またこの女子じょし暴言ぼうげんかれたぞ?


 そんなことをおもいつつ、口元くちもとをピクピクさせながら苦笑にがわらいをする。


 すると、俺をはさんで沙羅さらさんの反対側はんたいがわにいる裕希ゆうき先輩せんぱいが、その女子じょし生徒せいとににこやかに注意ちゅういをする。


「も~、鈴弥すずみちゃん。そんなこといっちゃだめだよ~」


「……そうですね。すいません、たちばなさん」


 かみ紺色こんいろのヘアバンドを付けたショートカットの女子じょし生徒せいとかるあたまげてあやまってくれたので、俺はこたえる。


「ああ、いや。べつにいいですよ」


――ちょっと、毒舌どくぜつ気味ぎみ女子じょし生徒せいとだな。


 この、ましたかんじの、どちらかというとむねひかえめで大人おとなしげな雰囲気ふいんきまとっている女子じょし生徒せいと名前なまえ都築つづき鈴弥すずみさん。


 やはり二年生にねんせい生徒会せいとかいメンバーで裕希ゆうき先輩せんぱい友達ともだちであり、生徒会せいとかいでは書記しょき担当たんとうしているらしい。


――なんっつーか、みんな個性的こせいてきだな。


 そんなことをかんがえつつ俺はLEDハンディライトをって、生徒会せいとかいメンバー三人さんにん一緒いっしょ夜風よかぜわた廊下ろうかけ、文化棟ぶんかとうにある生徒会室せいとかいしつまえ到着とうちゃくした。


 裕希ゆうき先輩せんぱい職員室しょくいんしつからりてきたかぎし、そのかぎをLEDハンディライトのひかりらされている鍵穴かぎあなまえにかざしつつ言葉ことばす。


「じゃ、けるよ~」


 そんなことをって裕希ゆうき先輩せんぱいかぎ鍵穴かぎあな差込さしこみ、開錠かいじょうする。


 カチャリ ガラリ


 裕希ゆうき先輩せんぱいかぎけ、よこにスライドさせるとびらけると、くらがりの生徒会室せいとかいしつ様子ようすが俺のはいってきた。


 そして、部屋へやなかはいった裕希ゆうき先輩せんぱいによって室内灯しつないとうのスイッチがれられ、さきほどまでくらかった生徒会室せいとかいしつはタイムラグなく一瞬いっしゅんあかるくなった。


 部屋へやはいりつつ、違和感いわかんかんじた俺は天井てんじょう蛍光灯けいこうとう見上みあげて裕希ゆうき先輩せんぱいたずねる。


「あれ? 蛍光灯けいこうとう、もしかしてえました?」


――チカチカしながら水銀すいぎん蛍光灯けいこうとうじゃなくて、LED蛍光灯けいこうとうわっている。


 すると、生徒会室せいとかいしつ一足ひとあしさきはいっていた裕希ゆうき先輩せんぱいはにこやかに俺につたえてくる。


啓太郎けいたろうくん、やっぱり観察力かんさつりょくあるね~! じつはさっき、高梨たかなし先輩せんぱい鈴弥すずみちゃんにえてもらったところなんだよ~!」 


 生徒会室せいとかいしつはいってうえ見上みあげていると、俺のとなり天然てんねん先輩せんぱい女子じょしである斎藤さいとう沙羅さらさんがあかるく言葉ことばべる。


「そうそう、つくえうえって体重たいじゅうこわれちゃったりしたらあぶないから、パイプ椅子いすならべてそのうえってえてもらったのよね! それも、高梨たかなし会長かいちょううえ体操服たいそうふくズボンを穿いた鈴弥すずみちゃんがってえてもらったのよね!」


 その言葉ことば内容ないように、疑問ぎもんかんじた俺がたずかえす。


って? 肩車かたぐるまとかじゃ……ないですよね?」


「えーっと、パイプ椅子いすたかさからだと天井てんじょう器具きぐまでにはとどかないから、その椅子いすならべたうえ高梨たかなし会長かいちょうつんばいになって、そのうえ鈴弥すずみちゃんが上履うわばきをいでって蛍光灯けいこうとうえてもらったのよね!」


 そんな沙羅さらさんのあかるく明朗めいろうかたに、俺はこの生徒会室せいとかいしつさきほどまで展開てんかいされていたであろう情景じょうけいあたまおもかべる。


 あのあまいマスクで女子じょし人気にんきがありそうなたか生徒せいと会長かいちょうが、ならべられたパイプ椅子いすうえつんばいになり、そのうえにて無表情むひょうじょうなおましがお毒舌どくぜつ後輩こうはい女子じょしまれられて足蹴あしげにされる。


――どんなプレイだ、それ。


 そこで、毒舌どくぜつ気味ぎみ先輩せんぱい女子じょしである都築つづき鈴弥すずみさんがしれっと一言ひとこと


「あの変態へんたい生徒せいと会長かいちょうにとっては、ある意味いみ御褒美ごほうびですね」


――っちゃったよ!


 すると、裕希ゆうき先輩せんぱい鈴弥すずみさんにフォローの言葉ことばをかける。


「も~、鈴弥すずみちゃん。高梨たかなし先輩せんぱいのことを変態へんたいだなんて軽々かるがるしくっちゃいけないよ~」


「そうはわれても……あの高梨たかなし生徒せいと会長かいちょう、もとい巨乳きょにゅうきの HENTAIヘンタイ 中佐ちゅうさ特別とくべつあつかいしないのもある意味いみ失礼しつれいですね」


――あの空気くうきまねー生徒せいと会長かいちょう後輩こうはいにひでえわれよう。


――しかも、けっこうたか階級かいきゅうあたえられてるし。


 俺がそんなことをおもいつつこころなか苦笑にがわらいをしていると、沙羅さらさんが俺にたいしてはなしかける。


「ほんとうは、わたし蛍光灯けいこうとうえるつもりだったんだけど、鈴弥すずみちゃんにどうしても自分じぶんえさせてほしいっておねがいされたのよね」


 すると、鈴弥すずみさんがました表情ひょうじょうのままこたえる。


「それは駄目だめですね、高梨たかなし生徒せいと会長かいちょうえさあたえることになります。あのおっぱい星人せいじん卒業式そつぎょうしき花房はなぶさもと生徒せいと会長かいちょうられてからというもの沙羅さらさんをねらってますので」


「えー、まっさかー! 高梨たかなし会長かいちょう近所きんじょのおにいさんってかんじで、ぜーんっぜんそーゆーかんじじゃないよね!」


 そんなかんじで、沙羅さらさんはあかるく無邪気むじゃきかえす。

 

 しかし俺は、づいてしまっていた。


 鈴弥すずみさんの本気マジであったことを――


 そして、毒舌どくぜつ気味ぎみ比較的ひかくてき胸部きょうぶひかえめな鈴弥すずみさんのその視線しせんさきが、天真てんしん爛漫らんまん雰囲気ふんいきをふんだんにまとっている沙羅さらさんのブレザー制服せいふくしたゆたかにふくらんだむねそそがれていたことを。


――ここにも、胸囲きょうい格差かくさ社会しゃかいがあるんだな。


 俺はそこらへんにいる普通ふつう男子だんし高校生こうこうせいらしく、ごく自然しぜんにそんなことをおもっていた。


 と、そこで俺はもう一人ひとり人物じんぶつ存在そんざいがこの生徒会室せいとかいしつにいたことをおもす。


 俺のすぐちかくにいた、おがみのちっちゃな二年生にねんせい女子じょし生徒せいと毛利もうり裕希ゆうき先輩せんぱいが俺のほうをにこやかに見上みあげていた。


 そして、俺のこころなか見定みさだめたかのように裕希ゆうき先輩せんぱいが俺にこえをかける。


「あはは~、べつにしなくていいよ~。思春期ししゅんき高校生こうこうせいおとこなんて、み~んなそーゆーとこ、ちゃうのがたりまえなんだから~」


――流石さすが次期じき生徒会長せいとかいちょう最有力さいゆうりょく候補こうほ


――ちいさな身体からだ反比例はんぴれいするかのように、うつわがでかい。


 俺はそんなことをおもいつつ、視線しせんげて裕希ゆうき先輩せんぱいこえをかける。


「えっと……なんかすいません」


 すると、裕希ゆうき先輩せんぱいかえしてくる。


「それより~、校門前こうもんまえにカメラマンがいきなりるなんて、どうしたのかな~? な~んかきっかけがあったとか~?」


「あーっと、このまえ明日香あすかねえちゃんが成人式せいじんしきたからだとおもいます。成人式せいじんしきねえちゃんにちょっと変装へんそうしてもらってたので、マスコミのひと素顔すがおれなかったんですよ。だから、せめてあらためて俺のかおりにたんだとおもいます」


 俺はそんなことをいつつ、三学期さんがっきはじまる直前ちょくぜんのことをおもす。


 一月いちがつ上旬じょうじゅんにさいたま主催しゅさいおこなわれた20さいいわ成人せいじん式典しきてん、いわゆる成人式せいじんしきに、ねえちゃんは出席しゅっせきする予定よていとなっていた。


 だが、誘拐ゆうかいなどの危険性きけんせいがあるため、ねえちゃんの素顔すがお写真しゃしんらせて公開こうかいさせるわけにはいかなかった。


 一時いちじは、ねえちゃんに成人式せいじんしきへの出席しゅっせきあきらめてもらうこともかんがえたが、おとうとである俺にはその判断はんだんねえちゃんにってもらうことはしのびなかった。


 そこで俺は、可憐かれんのボディーガードである変装へんそう名人めいじん高坂こうさかさんに、正式せいしき仕事しごととして成人式せいじんしきねえちゃんへの変装へんそうメイクを依頼いらいしたのである。


 成人式せいじんしきには、ねえちゃんが写真しゃしんられて、それがネットじょうとかに公開こうかいをされてもその素顔すがおがばれないように、特殊とくしゅメイクともいえるほどの華麗かれい変装へんそうメイクをほどこしてもらったのである。


 俺のこころなかには、高坂こうさかさんからりたロングヘアーのウィッグかぶり、変装へんそうメイクをほどこしてもらった、いつもの五割ごわりしくらいの美人びじんさんになった振袖姿ふりそですがたねえちゃんの様子ようすおもかんでいた。


――明日香あすかねえちゃん、メイクで美人びじんになってよろこんでたなぁー。


――ま、一生いっしょう一度いちどしかねーイベントだからな。


――素顔すがおバレもせず、ねえちゃんのいいおもになってくれたようでよかった。


 そんなことをおもっていると、すぐちかくにいた沙羅さらさんが俺にたずねかけてくる。


「そーいやさー、そーいやさー! たちばなくんって花房はなぶさ会長かいちょういもうとさんと小学生しょうがくせいころからのお友達ともだちだって裕希ゆうきちゃんにいたんだけど、本当ほんとうなのかな!?」


 俺はかえす。


「ああ、そうですよ。さっきはなした、子供こどものころはおとこっぽかったんですが高校こうこう再会さいかいしたら金髪きんぱうギャルになってた親友しんゆうってのがそいつです」


「ええー! なんとー! 花房はなぶさ会長かいちょういもうとさんってむかしおとうとくんだったの!? おとこむすめいておとこってやつよね!? そりゃーわすれられないよね!!」


――それはちがいます。


 すると、そのこうがわにいた鈴弥すずみさんが沙羅さらさんにこえをかける。


沙羅さらさん、沙羅さらさん、それはちがいます。おそらくたちばなさんが花房はなぶさもと生徒せいと会長かいちょうおとうとさんをおとこがわからおんながわとしてしまったんですね」


 沙羅さらさんが鈴弥すずみさんのほうかおけ、人差ひとさゆび親指おやゆびとでぱちんとおとらす。


「なーるっほどー! それならつじつまがうよね!」


――それもちがいます。多分たぶん


 俺がそんなことをおもいつつ愛想笑あいそわらいをしていると、裕希ゆうき先輩せんぱいこえをかけてくる。


「それより~、鈴弥すずみちゃんのスマートフォンさがさなきゃ~」


 すると、鈴弥すずみさんがくちひらく。


「そうでしたね。生徒会室せいとかいしつにあるとおもうんですが、どこでしょうかね。沙羅さらさん、わたしのスマホにとりあえず電話でんわけてみてください」


「わかったよ! 鈴弥すずみちゃん!」


 沙羅さらさんはそんなことをって、スマホを指先ゆびさき操作そうさする。


 するともなく、生徒会室せいとかいしつはしほうから振動音しんどうおんひびいてきた。


 ブブブブブブブブブ ブブブブブブブブブ


 鈴弥すずみさんがそのおとのする場所ばしょまであるいていって、はしっこのつくえうえいてあった分厚ぶあつほんひらく。


「ありました。蛍光灯けいこうとうえるときに、アルバムのしおりわりにしてたみたいですね」


 鈴弥すずみさんがそんなことをって、にスマートフォンをもってかかげる。


「おー! かったよー!」


 沙羅さらさんがそんなことをいつつ、あかるいこえとも鈴弥すずみさんに近寄ちかよってハグをしようとする。


 鈴弥すずみさんは、されるがままに沙羅さらさんにハグをされ、あんまり反応はんのうかえさないかんじでそのままアルバムをじる。


 そこで俺は、そのアルバムの表紙ひょうし以前いぜん裕希ゆうき先輩せんぱいせてもらった、昨年度さくねんどのアルバムであることに気付きづいた。


 それと同時どうじに、この学校がっこうのこの生徒会室せいとかいしつ前年度ぜんねんど生徒会長せいとかいちょうをしていたという、俺の親友しんゆう可憐かれんねえちゃんであるあたま二本にほん触覚しょっかくのようなかみたせた、金髪きんぱつロングヘアーの巨乳きょにゅう女子じょし生徒せいと姿すがたかんでいた。


――花房はなぶさ真希菜まきなさん、だったな。


 俺は、このにいる生徒会せいとかいメンバー三人さんにんたずねる。


「そういや、花房はなぶさ真希菜まきなさんってどんなひとだったんですか?」


 すると、沙羅さらさんと鈴弥すずみさんが口々くちぐちべる。


「えーっとえーっと、もの全般ぜんぱんきでとーってもやさしいひとだったよね!」

だれにでもそのままへだてなく愛情あいじょうをもってせっする、さながら聖母せいぼのようなひとでしたね」


聖母せいぼ……ですか」


 俺がそうかえすと、裕希ゆうき先輩せんぱいがこんなことをう。


「え~っとね~。ちょっとばかりおおげさにってみれば『二高ふたこうはは』っていうのがぴったりなひとだったかな~」


 すると、沙羅さらさんが反応はんのうする。


「そうそう! 聖母せいぼっていうかなんていうか……この大宮おおみや第二だいに高等学校こうとうがっこうははだから……国母こくぼじゃなくて『校母こうぼ』とでもえばいいのかな?」


 そして、鈴弥すずみさんがつづく。


「あのひとは、ならどこかのくにのファーストレディ、いやあるいは王妃おうひになっていてもおかしくない人格じんかくぬしでしたね。もしかしたら本当ほんとうに、だたる良家りょうけのお嬢様じょうさまだったのかもしれません」


――ん?


 鈴弥すずみさんのその言葉ことば疑問ぎもんかんじた俺は、彼女かのじょ生徒会せいとかいメンバー二人ふたりたずねる。


「あのー、もしかして二人ふたりとも、花房家はなぶさけがさいたま大地主おおじぬし大金持おおがねもちのいえだってらないんですか?」


 俺がそううと、沙羅さらさんと鈴弥すずみさんは唖然あぜんとしたようなかおを俺にせつつ、おどろきのこえげる。


「ええーっ!? そうだったんだ!?」

「なんと……まさか本当ほんとうにお金持かねもちの良家りょうけのお嬢様じょうさまだったとは……どれくらいの大金持おおがねもちなんですか?」


――どれくらいとわれても。


 そこで俺は、可憐かれんにかつてよる公園こうえんわれたことをおもす。


――可憐かれん親御おやごさんは、たしか。


――ここ最近さいきんになって首都圏しゅとけん急速きゅうそく勢力せいりょく拡大かくだいしているコンビニチェーンてん創業者そうぎょうしゃだってってたな。


 そして、すこかんがえたあと言葉ことばえらんでつたえる。


「『ペタルマート』ってコンビニありますよね? 俺の親友しんゆう可憐かれんと、そのおねえさんの真希菜まきなさんの親御おやごさんが、そのコンビニチェーンてん創業者そうぎょうしゃだってきました」


 俺がそううと、沙羅さらさんも鈴弥すずみさんも吃驚びっくりしたように見開みひらき、ふたたおどろきのこえはっする。


「えーっ! ペタルマートってあのペタルマート!? 今度こんどわたしいえちかくにもあたらしくできることになったばかりだよ!?」


「お弁当べんとう美味おいしいんですよね、あのコンビニ。調理師ちょうりしをしているわたし祖父そふもあそこのお弁当べんとうだけはめてました……花房はなぶさ真希菜まきなもと生徒会長せいとかいちょうぐみぎますね。そりゃあ、外見がいけんだけしかがない高梨たかなし生徒会長せいとかいちょうられて当然とうぜんですね」


 鈴弥すずみさんがこのにいない、あの空気くうきまない生徒会長せいとかいちょうにそうどくづき、沙羅さらさんが笑顔えがおかえす。


「もしかしたら、もしかしたら、ペタルマートの新店舗しんてんぽけば花房はなぶさ会長かいちょうえちゃったりして!」

「ナイスですね、沙羅さらさん。今度こんど裕希ゆうきさんと沙羅さらさんとわたし三人さんにんってみましょう」


 そんな沙羅さらさんと鈴弥すずみさんの年頃としごろ女子高生じょしこうせい同士どうしっぽいやりりに、俺は親切心しんせつしんから言葉ことばをかける。


「あーっと、真希菜まきなさん自身じしんはいま、大宮駅前おおみやえきまえちかくで『ねこねこJam』っていうねこカフェを経営けいえいしてるみたいですよ。もしも真希菜まきなさんにってみたいのなら、そっちにってみたほうが可能性かのうせいたかいとおもいます」


 俺がそううと、沙羅さらさんがかえす。


ねこカフェ!? おおー、イメージぴったりだよ!!」


 すると、鈴弥すずみさんは躊躇ためらいをふくめた言葉ことばつらねる。


是非ぜひってみたいところですが、ねこカフェって普通ふつう喫茶店きっさてんよりも若干じゃっかんたかいってきますからね……タダではいれるコンビニとちがって、ふところさびしい一般庶民いっぱんしょみん女子高生じょしこうせいとしてはどうしたものやら……」


 ピラリララン


 生徒会室せいとかいしつにどこからともなくスマートフォンの着信音ちゃくしんおんらしきおとひびいた。


 裕希ゆうき先輩せんぱい自分じぶんのスマートフォンをして操作そうさして、言葉ことばはっする。


「あ~、充由みゆねえちゃん、お仕事しごとわったって~。もうかえらなきゃってさ~」


 その裕希ゆうき先輩せんぱい言葉ことばけ、俺は沙羅さらさんと鈴弥すずみさんの生徒会せいとかい委員いいん女子じょし二人ふたりに、さきほどからあたまなかかんがえていたアイディアをつたえようとする。


「あのー、えーっと……もしよかったらでいいんですけど……ちょっと二人ふたりにおねがいしたいことがあるんですが」


 俺のもうに、二人ふたりかえしてくる。


「なにかな?」

「なんでしょうか?」


 俺は、沙羅さらさんと鈴弥すずみさんの二人ふたりげる。


「俺のために、ちょっと五千円ごせんえんでアルバイトしてくれませんか?」


 茶髪ちゃぱつ団子だんごサイドテールの天然女子てんねんじょしと、黒髪くろかみショートカットヘアバンドの毒舌女子どくぜつじょしは、俺のいきなりの提案ていあんにきょとんとした表情ひょうじょうせてきた。






 で、しばらくの時間じかんって俺は玉木たまき先生せんせい運転うんてんする緑色みどりいろ小型こがたトールワゴン乗用車じょうようしゃ後部座席こうぶざせきすわってをかがめて、こっそりと学校がっこうあとにしていた。


 まえ運転席うんてんせきでは養護教諭ようごきょうゆ玉木たまき先生せんせいがハンドルをにぎ運転うんてんをし、そのすぐとなり助手席じょしゅせきには裕希ゆうき先輩せんぱいがちょこんとすわっている。


 ブブブブブブ


 いま、俺のスマートフォンが振動しんどうした。


 俺がスマートフォンを操作そうさしてその画面がめんると、学校指定がっこうしていのジャージに着替きがえて保健室ほけんしつにあったマスクを着用ちゃくようしてかおかくし、さら羽織はおったコートの前側まえがわじてむねのそれなりのふくらみをかくした、紺色こんいろのヘアバンドをはずしたショートカットヘアー女子じょし生徒せいと姿すがたうつっていた。


 制服せいふくのスカートを穿かずにジャージのズボンを穿いた都築つづき鈴弥すずみさんがタクシーの後部座席こうぶざせきすわっている姿すがたが、彼女かのじょとなりすわっているのであろう斎藤さいとう沙羅さらさんのスマートフォンからラインでおくられてきたのがわかった。


『ミッション終了! マスコミはまいたよ!』


 そんな文言もんごんが、ラインの文章ぶんしょうおくられてきた。


 俺はスマートフォンを操作そうさして返答へんとうする。


『ありがとうございました。残りのお金は猫カフェ代にでもしてください』


 すると、沙羅さらさんからよろこがおのスタンプがかえってきたので俺はラインをじる。


 後部座席こうぶざせきでかがんでいた俺はばし、おおきくいきく。


 俺は沙羅さらさんと鈴弥すずみさんに、自分じぶん財布さいふから五千円札ごせんえんさつ一枚いちまいわたしてタクシーをんでもらった。


 そして保健室ほけんしつにてジャージに着替きがえてもらっていた鈴弥すずみさんに沙羅さらさんと一緒いっしょにタクシーにんでもらい、俺はその一方いっぽうでタイミングをわせて玉木たまき先生せんせい小型こがたトールワゴン乗用車じょうようしゃにこっそりとせてもらい学校がっこう敷地内しきちないたのである。


 つまり、俺は――


 鈴弥すずみさんに俺のふりをしてもらい、マスコミを撹乱かくらんしてもらったのだ。


 俺はまえ座席ざせきすわっている二人ふたりつたえる。


二人ふたりとも、うまくいったみたいです」


 すると、裕希ゆうき先輩せんぱい玉木たまき先生せんせいこたえる。


「そっか~、よかったね~」

「あのたちも、体操服たいそうふく準備じゅんびしててもうけものだったね」


 俺はかるく「ええ、そうですね」と返事へんじをし、後部座席こうぶざせきあらためてこしかせる。


 そして、くるままどそとながれる、くらかげおおわれたふゆべのさいたまのまちやる。


――なんとか、けられたか。


 そんなことをおもっていた俺のあたまなかには、もうひとつのことがおもかんでいた。


 新学期しんがっきになってから可憐かれんされた、クイズ第三問だいさんもんについてのことだった。


 このクイズとは、まれながらに大金持おおがねもちのお嬢様じょうさまである親友しんゆう可憐かれんが、偶々たまたま超幸運ちょうこううんのみで大金持おおがねもちになってしまった成金なりきんな俺のあんじてしてくれている、一連いちれんのクイズであった。


 射干玉ぬばたまよるしずんだまち情景じょうけいながている俺のその脳裡のうりに、クイズ第三問目だいさんもんめ内容ないようおもかぶ。





 「第三問だいさんもん、この一定数イッテースーいる、ギャンブルやごとのような勝負事しょうぶごとつよひとは、おおむねどういう思考シコーパターンをっているでしょうか?」




 

 その親友しんゆうしたクイズ内容ないようおもし、俺のくちからは冷笑的シニカルいきでる。


――そんなんがわかったら。


――公演こうえんとかひらいて金取かねとれるっつーの。


 あの、百獣ひゃくじゅうおうたるライオンのような金髪きんぱつ巨乳きょにゅうギャルである親友しんゆうした意味深いみしんなクイズの、とてもつけられそうにない正解せいかい想像そうぞうする心持こころもちで、俺はまえやみなかしずんでいるかのごときくらかげちたまちながめていた。


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