第52節 ファイナル・プロジェクト
正式名称としては『
お堅い名称に反して、コミックマーケティアのイベント開催中はこの広めの
大勢の人が、老いも若きも男も女もコスプレイヤーも撮影者も、このコスプレエリアと化した
そして俺は、
つまり、もちろんこの場に
しかも、女装して。
――なんで俺が、こんな目に。
そんなことを考えて心の涙をさめざめと流しつつ
「すいません、写真いいですか?」
俺は
「はい、どうぞ」
俺が応えると、その眼鏡をかけた女性二人は小さなデジタルカメラで、アニメだかゲームだかのキャラクターの着ている衣装である東アジアっぽい
――はやく、
俺がこのコスプレエリアでこんなファンキーかつファンシーな格好をしているのは、もちろんのこと俺の趣味なんかではなくて
その事実を聞いた妹の発案した作戦とは、俺がそのコスチュームを着てコスプレイヤーとなることで、
――ここまで身を張る必要なんて、あったのか?
――っていうか、クラスメイトとかに出会ったら最悪だな。
――あー、もう。早くオーディオプレイヤー見つかってくれ。
そんなことを考えていると、横斜め前方向の死角からふいに聞き覚えのある声がした。
「たちばなくん!?」
――声の方向を向いてはいけない。
俺はかつて高校の裏門近くでカツアゲにあった経験から、
しかし、その聞き覚えのある声の集団は俺にどんどん近づき、その女子の集団っぽいお
「やっぱり! ねぇねぇ!
その声の方向を向くと、クラスの『オタク女子』のグループが全員揃っていて、俺に対する感想を口々に述べていた。
「そっくりさんじゃないの?」
「いや、でも似すぎ!」
「でも、あの
「あのー、すいません。ちょっといいですか!?」
クラスメイトである女子の一人が、目の前にいる俺に声をかけてくる。
俺は少し背を引き、何も言えず押し黙る。
――声を出したら、確実にバレる。
――頼む、早く去ってくれ。
「
クラスメイトの女子たちの、呼びかけたコスプレイヤーが返事をしないことに
そこで後ろから普段着の
「すまない。そいつ
すると女子達は
そして、クラスメイトである『オタク女子』の一団が俺たちから充分離れてから、
「……ふぅ、助かりました」
「
「はやく、見つけてくれる人が現れればいいんですけどね」
「そうだな。
そんなことを言う
と、そこに長い黒髪ツインテールを揺らして、肩から大きなデジタル一眼レフカメラを
「……お兄ちゃん、お兄ちゃん。
そのスマートフォン画面には、顔をシークレットマークで隠した青いカツラを被った男性コスプレイヤーの女装姿、すなわち俺の姿が映し出されている。
「
「……
そんな妹の言葉に、俺は返す。
「ガラク? 外国の人か?」
「……いや、声しか知らないけど
「そりゃーまた……大胆なサバ読みだな」
「……うん、
「あー、そのアドバイスをくれた
俺がそう言うと、
「……うん、ネット上には友達いないわけじゃない……
すると、近くで俺たちのやり取りを聞いていた
「なに言ってるか? うぐうぐと
その言葉に、
「……おお、
「いや、これは単なるキャラ作りよ! 日本で暮らす
そんなことを照れ気味に言う
――ま、
――俺もわざわざ、こんな格好までした甲斐があったかな。
そんなことを心に抱いて無理やりにでも自分を納得させつつ、俺は再び
カメラを持っている撮影者の人たちに声をかけられ撮影を受けつつ、俺は先ほどまでいた東京ビッグサイトの休憩室での
◇
普段は会議室や研修室として使っている、いかにもそれっぽい白く長い机が並べ置かれているその部屋にて、俺と
俺から見て
小柄な
布の糸を
「……よくそんなにてきぱきと
「まーな、針と糸で
そんなことを言いながら、
――
俺が考えていたことというのは、ここ最近俺が勉強をしている『投資』についての具体的なケースについてのことだった。
――『投資』は投資をする『投資家』をお金持ちにするだけじゃない。
――きっちりと事業を拡大して、その結果としてお金を稼ぐことができれば、投資を受ける『事業家』をもお金持ちにする。
――だから『投資』もやっぱり、
――『全員が全員とも得をする価値の分配』にあたるってことなんだろうな。
俺がそんなことを考えていると、
「
そんなことを言って
そして、机の上にコスチュームを置いた
「でも
俺は
「うーん、まあ青いカツラも
すると、
「本当に
「……どうしたの?」
そして
「お
その言葉に、
「……ああ、そういや
「そうよ。だからお
そんな
「
「そうだ、
そんな
「……
すると、
「まず現実を、思い込みや願望を
俺は尋ねる。
「もしかして、
「
そこまで言うと
「だから、どんな
そんなことを言う
遠く離れた中国の地から日本へと
どこからどう見ても、責任を背負った
――まあ、それはそれとして。
――女装かあ。
――こんな日本中から人が来ているお祭りの場で、
俺は、妹のわがままを聞かざるを得なかった己の立場に、心の中で
◇
で、俺がわざわざ女装までしてその身を捧げた成果があって、
その、青いパーツのついたラグビーボールのような形をしたオーディオプレイヤーはどうやら、会場の企業ブースのあるフロアの一角にひっそりと
会場の人も、どこかの企業の設置したイベント用の小物かなんかだと思っていたらしく、参加者の落し物だとすら思わなかったらしい。
コミマのスタッフさんらしき人から、その白い片翼のプラスチック羽をつけたオーディオプレイヤーを受け取った
そして俺と
その言葉は、
また、
そんなこんなで、コミマ二日目の今日はいろんなことがあったのですっかり疲れきってしまった俺と妹は、
東京の海沿いにあるお台場から埼玉県さいたま市大宮駅近くの我が家まで帰るのに、軽く一万五千円近くは飛んでしまうが、この疲れきった身体を休めるためには四の五の言ってはいられない。
俺と
「……疲れたね。
「だぁーれが
俺がそんな文句を言うと、
「……そう? わりと楽しそうだったけど?」
「なわけねーだろ、
すると、
「……
その
「そうだな。
「……まあね」
タクシーの後部座席に座ったままの俺は頭の中で、
両サイドをわりと伸ばしたショートカットの髪に、一部だけ残した長い後ろ髪をふたつのお下げのようにダブルテールにして垂らしていて、頭にいつもラピスラズリという青い宝石の髪飾りをつけている、女王様のような性格の一つ年下の
――
俺はその
次、会ったらどんな
隣にいる妹が俺に伝える。
「……なんか
「まーな。年末年始は
「……
「あーっと……そうだな。そして次に会ったときに、どんな顔されんだろな」
そんなことを
俺も同じく疲れた背中をシートに預け、東京から埼玉へと向かうタクシーの後部座席から、流れる風景を見やる。
そんな赤く染まった街を見ながら、俺は心の中で再び、
その
――
――
俺は心の中で再び、ショートカットでダブルテールの髪型をした、
――
――なんであんな風に、女王様っぽい性格になっちまったんだろーな。
――ま、何回か
そんなことを
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