第8章 平穏な日常はこれからも続くのだろうか?
第50節 乙女の祈り
12月30日、コミマ
開始時刻の午前10時からほんの一時間ちょっと遅れて
今日は妹の
リュックサックを背負った俺とキャリーカートを転がしている妹が、その通路やエスカレーターの
つまり、早朝からあの
――本当に、そんな根性どこから出るんだろうな。
俺はそんなことを考えながら、
昨日と同じく、二つの四角い赤と黒の浮いているようなリボンでその長いツインテールを
「……どうしたの? お兄ちゃん?」
先に言葉を投げかけてきたのは妹の方だった。
俺は返す。
「香水、今日はつけてきてないのか?」
「……うん、
「じゃあもしかして、そのリボンは……
「……うん、そうだよ。
そう言って妹は、片手でその黒いツインテールの根元部分を持ち上げ、その裏側を見せてきた。
確かに、ツインテールを
「……で、お兄ちゃんはケーキ屋でわざわざバイトまでして、
「何って……テディベアだよ。
俺がそんなことを言うと、キャリーカートを引く妹は再び正面を向く。
「……ふーん、そっかぁ……お兄ちゃんもそこまで気が使えるようになったんだ……やっぱ
そんなことを言う妹を横目に、俺は人でごった返す通路を歩き、大きな広場に出る。
大きな三角形をいくつも逆向きにしたかのようなシルエットの
正面の壁には大きなモニターがありコミマ情報に関するアニメキャラの映像が流れていて、オタク向けのイベントを開いていることを示している。
また、広場の近くにはまるで巨大ロボットが使うかのような大きな
――まるで
そんなことを思った俺は、立ち止まってその
――本当に、時代が時代だったら聖地だったのかもな。
――数百年後には、本当に聖地扱いされていたりして。
そんな、昨日の妹の
妹がスマートフォンを開き、スワイプしてアプリケーションを表示させるような操作をしているのがわかる。
先日にコミマ一日目を終えて自宅に帰った後、
『コミペイ-ComiPay-』
昨日に実際にコミマに参加することになって初めて知ることになった、オタク専用キャッシュレス決済サービスの名称であった。
入り口近くにある大きなモニタのすぐ下に『入場カタログ売り場』との看板があるテントがあり、そのすぐ横に『コミペイチャージ』との看板がある。
その『コミペイ』とは、昨日知り合った
俺は
そしてそんな
◇
俺と妹は『コミックマーケティア105』というそのイベントの一日目、東館と呼ばれるらしい大きな建物の外縁部にて、青いショートヘアウィッグを被って東アジアっぽい
「……で、家に帰ってからインストールすればよろし。後は会場の入り口近くに
そんな
そして、
「……あの、もしよかったら……
すると
「いいよ、
そんなことを言うと
――おそらく、あのバッグの中にコスプレ衣装を入れていたのだろう。
俺がそんなことを思っていると、
ラグビーボールのような
裏からは電源コードのような線が延びていて、さらに
その手に乗るくらいのガジェットに、
「……それ、何?」
すると、しゃがんでいた
「ああ、これ? オーディオプレイヤーよ。三日目にブースでコスプレ写真集の売り子するときに、テーマ曲の音楽流すね」
「……それ、オーディオプレイヤー!? どこで売ってたの?
「どこにも売ってないよ。
そんな
――あーいうのって、自作とかできる人もいるんだな。
そして
「えーっと……
そして、
「……うん、もちろん明日も来るつもり……よろしく、
そんな光景を見て、俺は思う。
――やっぱり、妹をオタクイベントに連れてきてよかった。
――妹がこういう風に、見知らぬ人と自発的に関わることができたんだからな。
俺は、妹をオタクイベントに連れてってやるとした俺の決断に、心から満足していた。
◇
そんな昨日のことを思い返しながら『コミペイ』のための列を並んでいた俺は、先ほどから無数に行き交うオタクの人たちを眺めていて、あることに気付いた。
俺は隣にいる
「
すると、妹が俺を見上げて応える。
「……二日目だからね。今日は
「そういうもんなのか? そういや
「……
「悪い、お兄ちゃん
「……一般人は知らなくてあたりまえ。むしろ知ってたらダメなやつ」
俺は大きく息を吐いて、その人の心の中でそれぞれの色をした
ふいに、
それも、あのときと同じ格好で――
だが、俺がその二人の顔を眼をこらして確認する前に、群衆から出てきたその姉妹は再び群衆の中へと紛れ、消え入ってしまった。
俺が
「……どうしたの? お兄ちゃん?」
「いや、ちょっと知ってる人がいたような……いや、なんでもない」
俺がそんなことを言っているうちに、列は進んで『コミペイ』と呼ばれるアプリケーションの
その手続きは、非常に簡単であった。
テントで待機していた係の人に一万円札を五枚、現金を五万円渡して、
これだけで、妹のスマートフォンにあるアプリの
コスプレイヤーである
ポイントを入れてもらった
「……これで
妹がそんなことを言うので、隣を歩く俺は返す。
「無駄遣いはするんじゃないぞ」
妹は歩きながらスマートフォンを操作しているが、ふと立ち止まった。
「どうした
立ち止まった妹に俺が振り返り尋ねると、
「……
「え?」
その声は、無数のざわめきの中に消え入ってしまった。
『たのむ、来てくれ』
それと共に場所が
そこからまた反対側の階段を下りてしばらく歩き、人気のない
しかし、昨日のようなアニメやゲームに出てくるキャラクターの格好はしていない。
なんというか、『
「
億万長者バレを防ぐために、俺は自分の名前を『
再会した
ぱっと見だとショートヘアーだが、よく
それはまるで、
妹が、立ち上がった
「……どうかしたの?
すると
「オーディオプレイヤーなくしたよ!
その心底困っているという思いを受け取らざるを得ない、
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